第10回

株式会社K2 Pictures 紀伊宗之代表取締役 / Producerインタビュー

映画を「日本の産業」から「世界のビジネス」へ

 東映の社員だった紀伊宗之さんが東映を退社してK2 Picturesを設立し、「K2P Film Fund I」で約50億円の資金を調達したというニュースは、大きな話題となった。
 私は、正直、「あの紀伊さんが、すごい、たいしたもんだ!」と思った。
 私が紀伊さんと出会ったのは、2000年代半ばのころだったと思う。そのころ、私は香港フィルマートや、プサン国際映画祭と同時開催されるBIFCOMに参加していたが、そこには東映の映画興行会社、T・ジョイの一行も来ていた。私が、T・ジョイの役員だった與田尚志さんと親しかったことから、よく一緒に食事に行き、そこで紀伊さんとも出会った。
 紀伊さんは、一般のサラリーマンよりもくだけた映画業界人、なかでもヤンチャ感の強い東映の社員をも圧倒する、異才で過激なオーラを発信し、それでいて人懐っこいオッチャンという感じだった。
 東映という巨大な組織では、それぞれの役割が明確に区分されているが、既成の価値観にとらわれない紀伊さんは、興行会社であるT・ジョイで映画をプロデュースする。その作品が、私が親しくしていた香川照之さんが出演し、小林政広さんが監督した『春との旅』(2010)だった。ということで、私は北海道のロケに張り付いて取材をし、新宿バルト9での初日舞台挨拶、続く祝勝会にも参加した。初プロデュース作品ということもあったのか、主演の仲代達矢さん、小林監督の前で挨拶するとき、いつもは突っ張っている紀伊さんの感極まる姿が印象的だった。

『春との旅』初日 小林政広監督と

 やがて紀伊さんは東映本体に移り、プロデューサーとして岩井俊二監督、白石和彌監督などの作品を手がけ、大活躍をする。そして2023年8月、東映を離れてK2 Picturesを設立するに至った。
 大手映画会社の影響力の強い日本の映画産業は、既成秩序の維持やリスク回避を優先してきた。しかし、そうしたしがらみを打ち破り、新しい映画ビジネスモデルを確立することで、映画産業が抱えている問題を解決しようとする紀伊さんの意欲を、私は強く感じた。

 K2 Picturesは、2024年のカンヌ国際映画祭で映画製作ファンド「K2P Film Fund I」の設立を発表。岩井俊二、是枝裕和、白石和彌、西川美和、三池崇史といった日本を代表する監督たちと組み、映画製作を進めていくことを明らかにした。その後、2026年2月にファンドの募集をクローズし、総額約50億円規模の資金を調達した。

 映画ファンドは、2005年ころのシネカノン・ファンド第1号(約45~46億円、約20作品のポートフォリオ型)や、2004年、角川系の日本映画ファンドをはじめ、いくつか存在したが、いずれも長く続くことはなかった。

「K2P Film Fund I」も、そうした過去の例をあげ、また、派手なラインアップ発表から、揶揄する声もあった。しかし、一方で、既得権者の支配力が強い映画産業の構造に苦しんできた配給会社、プロデューサーからは、K2 Picturesが成功することによって、産業構造が変わることを期待する声も多く聞いた。
 K2 Picturesは2026年に入って、いよいよ製作した作品の自社配給を開始した。すでに、ゆりやんレトリィバァ監督『禍禍女』(2月6日)、孫明雅監督『トロフィー』(7月10日)、是枝裕和監督『ルックバック』(9月11日)、三池崇史監督『襲名』(9月25日)が公開され、西川美和監督『わたしの知らない子どもたち』(10月16日公開予定)が控えている。

わたしの知らない子どもたち 2026年10月16日公開 ©️2026 K2 Pictures・AOI Pro.

 いずれも作品として高い評価を受けているが、質的に申し分ない作品を作ることと、それをビジネスとして成功させることは別の問題である。今後の作品も含めて、K2 Picturesが映画ビジネスとしてどのような結果を残すことができるのか。長くなったが、こうした流れのうえで、紀伊さんに本音の話を聞いてみた。

映画館から製作まで、川下から川上へ

掛尾 日本の映画産業というのは、戦前から続いている松竹、東宝、戦後間もなく設立された東映など、長い歴史を持つ会社の影響力も強く、業界の慣例もあります。とはいえ、映画業界も時代の変化とともに変わり、テレビ局、大手出版社、広告代理店などと連携するようになり、映画製作は、そうした会社が集まって製作委員会を組成して作られるようになりました。そこに、既得権者側にいた東映に在籍して、映画の産業構造を知り尽くした紀伊さんが、製作委員会ではないやり方で映画を作ろうと、K2 Picturesを設立しました。紀伊さんは、製作委員会には金融の視点が不足していると語っていましたが、そのことについて、もう少し詳しく説明してください。

紀伊 まず僕は映画館のモギリからキャリアをスタートしました。東映の子会社、広島東映が最初で、そのあと東映のシネコンチェーンのT・ジョイの立ち上げからやって、映画館を作って、そこで自分が支配人をやって、それから編成、全体の運営もやって。今、活況ですけど、ライブビューイングを最初にやったのは僕なんですよ。映画館のデジタル化もやって、配給やって、宣伝やって、最後の10年間くらいを東映本社で映画のプロデューサーをやるわけですね。T・ジョイ時代も映画作りはやっていたので、合わせて15年間くらい、サラリーマン・プロデューサーをやっていました。それで起業したわけです。そのとき、興行(映画館)から見る映画製作、配給っていうのと、配給に移ってから見る興行とか製作、最後に製作者になって見る興行と配給。川下から川上に移っていくキャリアの中で、視点を変えて映画業界を見ることができたというのは、稀有な経験だったと思います。で、要するに、めちゃめちゃ本質的な問題として、興行の問題を解決するのは配給だったり、配給や興行の問題を解決するのは製作だったりすることが分かりました。興行が興行の問題を解決できないんですよ。興行の問題は、カウンターパートである配給と議論し、合意しないと、やり方を変えられない。いつも揉めている。例えば、シネコンチェーンで「6回見たら1回無料」っていうのがあるけど、「あれに映画料なんで発生せえへんねん」とか、「プレイデート(映画館側と配給会社との間で取り決めた上映期間・上映日程)をしっかり守りましょう」ということです。だから、映画料、つまり映画館と配給会社との間で興行収入をどう配分するかという問題についても、レベニューシェアでこうしましょうっていうのが、興行と配給の間であるけど、ずーっと揉めていて、ずーっと解決しない。それだけじゃなくて、他にも問題があるけど、結局、いろいろな立場の会社が集まっているので、話がまとまらない。まあ、それで、逆に言うと、「これは簡単やな」と思ったのは、やっぱり製作委員会じゃない方法をこう編み出すっていうことなんです。製作委員会方式って、一般には複数の企業が組合契約などに基づいて共同で事業を行う仕組みですよね。そういう仕組みを調べると、いろいろな制約がある。詳細に説明すると長くなるので省きますが、異業種の企業や海外資本が参加する場合にも、税務や契約、権利処理など、いろいろな実務上の制約がある。それなのに、日本では大半の映画が製作委員会で作られている。これでは、映画界にビッグバンは起こらないと。そこで、製作委員会ではないやり方で製作をすれば、委員会に参加する会社それぞれの窓口、配給、海外販売、二次利用などの手数料も抑えられ、クリエーター、現場のスタッフへのリターンも増やせることになります。

株式会社K2 Pictures 紀伊宗之代表取締役 / Producer

製作委員会では不足する「金融の視点」

掛尾 製作委員会については、今、紀伊さんが指摘している通りだと思います。大手映画会社、地上波テレビ局、大手出版社、広告代理店などが集まる製作委員会は、金融の視点というより、強者の集まりで、排他的でもあります。その逆に、資金調達のために弱者が集まり、「みんなで渡れば怖くない」という製作委員会もありますが、こちらも金融の視点はありません。また、紀伊さんがおっしゃるように、興行側の都合でやっているが、配給側としては納得できないこともあると思います。株主招待券だってそうですね。さきほど、さまざまな視点から映画産業を見てきた経験について話しましたが、東映という大手から出て、違って見えたものはありますか。

紀伊 いやーっ、まったくないですね。配給のブッキングについても、どこでも引き受けてくれますね。そこは、やっぱり僕が既得権者側にいたということもあるんじゃないですか。「どこの誰やねん、お前は」っていうことがないのと、時代が変わったということもあるでしょう。映画館がシネコンになって、いろいろな配給会社の作品が上映されるようになりました。独禁法の問題もありましたし。

掛尾 大昔、映画館がチェーン・マスターを頂点に系列に分かれていた時代、ビデオのエージェントだったギャガが配給に進出したとき、ヒューマックスと組んで、ギャガ=ヒューマックスで配給した時代もありました。

紀伊 公正な取引で僕らみたいな新規の邦画の会社が出てきて、配給をやるっていうのは、産業全体としては絶対に喜ばしいと思います。より競争原理が働くわけだから。優越的地位の濫用に当たるっていうことがあるんで、不用意にその新参者をいじめるというのは難しい時代でしょう。

強い作品を揃えることで生まれる「交渉力」

掛尾 とはいえ、新規参入として、たまに映画を配給するようなアート系ミニ配給会社ではないK2として、どんな戦略を考えていますか。

紀伊 東映の時もそうですけど、結局、年間、強いタイトル、テントポール作品を何本持ってるかということで、全然交渉力が変わるんで。東映にいたから学べたところでもあるんですよね。僕がいた最後の時期は、『ONE PIECE FILM RED』(日本国内興収203.3億円、世界興収319億円)に、『ドラゴンボール』(25.1億円)、『THE FIRST SLAM DUNK』(日本国内興収158.7億円、世界約390億円)、『シン・仮面ライダー』(日本国内興収24億円)といった作品が、2022年から2023年にかけて並んでいて、僕は『SLAM DUNK』と『シン・仮面ライダー』のプロデューサーとして関わっているんですが、こういった作品が同じ時期に並ぶと、すごいパワーになるんですよ。こういうラインアップは、2年ぐらい前には、もう分かっているので、団体交渉できるんですよね。「これ、全体で、どうすんねん」っていうこともできるし。

掛尾 そうですね。単発ではなく、魅力的な作品が並んだラインアップを揃えていないと、交渉力は生まれないですからね。

日本市場だけを見て映画を作らない

掛尾 そういう意味では、K2には、世界的にも通用する、いわゆる映画作家と言われる監督たちの作品が並んでいます。しかし、そういった監督、映画作家でもヒットするとは限りません。そのことに対して、紀伊さんは、あるインタビューで、国内市場と作家主義を両立するかという質問に対して、「そもそも日本市場だけを見て作品を作ってないから」と答えています。この発言は重要だと思います。日本のアニメは世界中で人気ですが、実写映画はまだまだ苦戦しています。しかし、日本の小説は、柚木麻子さんの『BUTTER』が海外で大きな話題となり、2026年7月時点では世界累計204万部、国内77万部、海外127万部に達しています。40か国・地域で翻訳出版が決まっており、イギリスでは文学賞4冠も達成しています。また、伊坂幸太郎さんの『マリアビートル』は『Bullet Train』として映画化されています。だから、日本の実写映画も、これからはやりようによって、もっと海外で売れるようになると思うのですが。谷口ジローという漫画家がいるんですが、彼はフランスでは高い評価を受けています。『遥かな町へ』は、谷口ジローさんの代表作の一つで、2026年10月9日に日本で実写映画化作品が公開される予定です。フランスをはじめ世界で評価されてきた作品ですから、こうした例も、日本のコンテンツが海外に出ていく可能性を示していると思います。

紀伊 台湾と韓国はもう現地法人を作って、ディストリビューションは、韓国は今年から始まるかな。台湾はもうちょっとかな先かなっていう感じですね。この二つの国は、距離も近いし、関わりも深いので、自分たちでやろうと。というのは、外国の配給会社にライセンスした場合、当然、損をしないように、宣伝費も抑えて、なるべく安全なビジネスをやるわけです。例えば300万円で買った現地の会社が、その作品のために3億円の宣伝費をかけて勝負するか。そんなことするわけないですよね。300万円で買ったら、300万円の宣伝費をかけて、映画館ではトントンで、配信で少し利益が出るくらいのビジネスしかやらない。だから、ライセンスビジネスって、当たった時のアップサイドがほとんどないんですよね。また、日本の会社も、基本的に国内市場を前提にしているので、海外は300万円のMG(最低保証)と、わずかなオーバーレッジ(追加的な収益分配)が入ってくる程度で満足する。これでは、日本映画は跳ねるはずないですよね。だから、僕らが出て行って、「3億かけようぜ」となる。日本と韓国のボックスオフィス(興行市場)の差って、そんなにないですよね。コロナで韓国が大打撃を受けたけど、やっと戻りつつある。2000億円くらいの興行収入のマーケットがあるのに、リスクを取って出て行かないのって。東映時代は「そんなのありえへん」って思っていたけど。リスクを取るのが仕事なんで、リスクを取らないエンターテインメント業なんてないじゃんと思って、まあ、自分たちでやろうと。アメリカもディストリビューションをやりたいし、東宝さんは既にやってますけど、まだ、僕たちにはそんな体力もないから。中国どうすんの? インドどうすんの? ベトナムどうすんの? タイどうすんの? っていう風に考えていくと、どうなるんだろうと。日本でワイドリリースって、まあ400スクリーンぐらいですよね。で、いやいや、俺らは全世界で「2万スクリーンで配給すんねん」っていうところに行けばいいと思っている。で、じゃあそうなると、プロデュースサイド、映画を作る側に対して、「2万スクリーンでやるのに、こんな企画あかんやろ」となる。で、「2万スクリーンで公開するのに、主演は誰が一番いいやろ? メインマーケットはどこなの」となる。で、メインマーケットが全部日本である必要がないって思ってる。

掛尾 作品によって、ヒットする地域が変わってくる。岩井俊二監督は海外、特にアジアでは高い人気があるから、日本よりもヒットする地域が出る可能性があります。韓国のナ・ホンジン監督の『HOPE』は、韓国では2026年7月15日に公開され、9月16日時点で動員約457万5,000人、興収約3,578万ドルとなっています。さらに注目されるのが、アメリカでのヒットです。アメリカでは9月9日に1,560スクリーンで公開され、9月11~13日の週末3日間で約331万ドルを稼ぎ、北米興行ランキングで初登場8位となりました。現在、北米興収は8,137,518ドルまで伸びています。つまり、韓国映画であっても、韓国市場だけを見ているのではなく、世界の市場を狙うことで、作品の可能性を大きく広げることができる。こういうことが、K2の一つの目標になると思います。それで、紀伊さんは、映画というのは当然ハズレもあるので、50本のポートフォリオで考えるとも話していました。そこで、企画はどういう基準で選ぶことになりますか。

紀伊 東映で映画を作ったとき、企画会議やって、えらい人たちに、ああでもない、こうでもないって、ピッチして、そこに、映画を作ったことない人たちがいたりするわけじゃないですか。映画って、ゲタを履いても結果が分かんないわけじゃないですか。分かんないものを議論するって、要するにそれって、競馬の予想みたいで、「この3番がうまく来ます、なので3番、3-6を買っていいですか?」「うーん、3番はないやろ?」みたいな、これもう、もう全く生産的じゃないなと思って。で、今うちの会社で言うと、プロデューサーが作る企画、映画に関して言うと、僕は全く関知してないですよ。プロデューサーのお前に賭けたので、作りたいものを作れと。で、ね、ゴールは当然稼ぐことだし、ファンドを儲けさせる。で、「製作費はこれはいくらで、いいですか? あと5千万円使っていいですか?」って、「そんなんは、自分で考えろ」と。なので、僕のリスクは、その作品のリスクを取るんじゃなくて、プロデューサーをハイアーするということ。自分が雇ったプロデューサーを信じることが僕のリスク。僕が、「うちでプロデューサーやれ」って言って雇ったんだから、「もうお前は何作ろうが何でもええよ」っていうふうにしてます。企画会議とかでやりだすと不毛なんで。そうじゃないと、やっぱ口出ししたくなるし、僕もプロデューサーなんで、「いや、もっとこうこうせえや」とか「ああせえや」と。自分の企画はもちろん自分でやりますけど。

「東宝のマネ」はしない

掛尾 確かに、日本の組織は合議で決めることが多く、そうなると革新的なアイデアは潰されることが多いです。革新的なことより、リスク回避、失敗しないやり方が優先される。失敗することで学び、成長していくことができない。それができるのは、スタートアップした会社だからということもありますね。特にK2ならではの企画というか、会社の方向性みたいなものはありますか。

紀伊 すっげえ分かりやすく言うと、普通に考えれば、東宝がやりそうな企画になってしまうんだよね。で、僕らが東宝のサルマネやったって勝てるはずがない。だから、どっちかっていうと、東宝がやらないところをやればいい。独創的で、かつクオリティの高いものっていうのは、別に東宝の真似せんでもできるんで。えー、そっちの方がオリジナリティがあるし。そうすると、いろんな人が集まって、「これいけるかな?」なんて不毛なことは一切ないです。

「日本プラスワン」から世界市場へ

掛尾 過去のインタビューで、海外とのコー・プロダクションのことも話していましたが、その後、具体的なことは進んでいますか。

紀伊 台湾、ブラジル、メキシコとは、もう準備をしています。僕は、東映の時としか比べられないけど、当時は、企画を動かすと同時にビジネスのことをみんな考えざるを得ないっていう状況ですね。サラリーマン・プロデューサーは、「こんなん面白くないですか? 監督はこの人で、役者こんな感じで、原作これで、どうですか?」って、そこから始める。これって日本の市場をベースに考えるってことじゃないですか。オーガニック(無意識)に日本市場でものを考えるっていう。でもそれを、世界の市場を考えて、僕は「日本プラスワン」っていつも言ってるんですけど、メキシコでも当たるような映画にしたいとするならば、やっぱコー・プロになる。そうすると、やっぱりビジネスとクリエイティブが同時にこう動いていかないといけなくて。その分、プロデューサーの仕事っていうのは、これ誰もやってくれへんので、プロデューサーの仕事はめちゃめちゃヘビーで。クリエイティブのこともやらないといけないけど、これをどういうパートナーと組んで、どういうビジネスにして、で、バジェットはいくらにして、どうすんねんっていうことまで、やっぱり考えていかないといけない。なので、やっぱり「世界に」というものがないと。「この漫画がめっちゃ売れてるんで、これ原作権取って映画にしたいです。日本でヒットすると思います」って作った映画は、世界に全然行けないじゃないですか。それよりは、世界で機能して、日本でコケる方がいいかな。

日本映画の「標準」を超える

掛尾 コー・プロの意気込みは素晴らしいと思います。今の日本は、どんどん排外主義的な方向に進んでいますが、逆にそれがチャンスだと思います。日本の文化に関心を持つ外国の人材も増えていることから、そういう人材を取り込んでいくことも重要と考えます。では、今度は、野心的な企画、新人監督の起用についてですが、『禍禍女』のゆりやんレトリィバァ監督、『トロフィー』の孫明雅監督の起用は素晴らしいと思っていましたが、ああいう路線もこれからはやっていこうと思っているんですか。

紀伊 そうですね。ファンドのお金を管理する立場で言うと、やっぱりバジェットの低い作品はそれほどリスクはないですね。だから、こういう企画は問題ないですね。で、ミドル・サイズのもの、2億、3億のサイズがいちばん難しい。逆に大きくなったらなったで、腹もくくれるし。この真ん中のサイズは、日本映画の標準なんですよね。

掛尾 日本の会社は国内市場を基本としているので、そこから逆算すると、その製作費が標準になりますね。で、それに追加の条件があって、原作は何万部売れているか、ジャニーズは出ているか、みたいな、そういうパッケージですね。

紀伊 そういう日本映画パッケージで、あんまりここは興味がないわけですよ。だったら、もっとクソでかいもんで、アメリカを狙う。アメリカ狙いで俺やるとか。で、こっちはヨーロッパ狙いで、新人でヨーロッパの映画祭経由、世界を目指す。

映画を「金融商品」として考える

掛尾 ちょっと話がズレるのですが、パク・チャヌク監督の『しあわせな選択』は製作費が18億円もかかっているのですが、海外のプリセールだけでリクープしてしまったという話があります。そういうのも狙いたいですね。

紀伊 そうですね。だから、僕らがやってるのは、まさにそういうことです。 すでに公開した作品の中には国内よりも海外でめっちゃ売れて、もうタイトルとしてはリクープするものもあるし、そういうことが可能なんで。あと、映画製作というのは、金融的には、いわゆるデット・ファイナンス(debt finance=借入による資金調達)なんですね。映画って、ローンで作ったやつ、日本人はいないですよね。でも世界中、映画はローンで作るわけですよ。なぜなら、日本の銀行は、映画にローンをつけてくれたことがないんですよ。不確実だから。映画のビジネスって、興行収入だけじゃないじゃないですか。海外のプリセール、それから、「Netflixに配信権を売ります」というのもある。つまり、映画には劇場興行以外にも、海外販売や配信権など、将来の収益につながる権利がある。そういうものを金融につなげていくことができるわけです。

掛尾 例えば、海外だと、プロデューサーがある原作の映画化権を買って、それをもとに、監督と俳優を決めて、その企画を映画会社や海外の配給会社にプリセールする。その契約金額が500万ドルなら、その契約書などをもとに銀行から融資を受けることができるということですね。もちろん、完成保証保険(コンプリーション・ボンド)など、実際には複雑な仕組みがありますが、簡単に説明すると、そういうことになります。しかし、日本だと、その映画のために映画館をあけてもらえないこともあるから、難しい。まあ、シネコン時代になって、昔よりは劇場のハードルが下がったことはいいなとは思いますが。昔のチェーン・マスターを頂点にしたチェーンの時代は、劇場公開は簡単ではなかったですね。

紀伊 興行がノーって言ったら、製作を止めてたわけじゃないですか。要するに、製作の問題は興行が蛇口を締めるから起きる。だから、ここで解決できへんっていう。

掛尾 残念ながら時間がきてしまいました。今日は、もっと質問を用意していたのですが、このあと役員会があるということです。また、機会があれば、お話を聞きたいと思います。今日は、お忙しいところ、時間を調整していただき、ありがとうございました。

紀伊 宗之 プロフィール

1970年1月8日生まれ、兵庫県出身

東映映画興行に入社し、劇場勤務を経て株式会社T・ジョイに移動。シネコンチェーンの立ち上げに従事し、新宿バルト9の開業などに携わる。国内初のライブビューイングビジネスや「ゲキシネ」の事業化に関わる。T・ジョイ時代に小林政広監督「春との旅」で映画プロデュースを手がける。その後、東映本社に異動してプロデューサーを務める。東映時代には、『孤狼の血』シリーズ、『犬鳴村』、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』、『キリエのうた』、『リボルバー・リリー』、『シン・仮面ライダー』などの話題作を手がけた。

 2023年4月に東映を退職し、同年8月1日に「株式会社K2 Pictures」を創業。

日本映画の新しい生態系構築や海外市場進出を目指し、映画制作ファンド「K2P Film Fund I」などを手がける。

K2 Pictures製作の映画

禍禍女 2026年2月6日公開(U-NEXTで配信中) ©️2026 K2P

トロフィー 2026年7月10日 ©️2026 K2 Pictures

ルックバック 2026年9月11日公開 ©️藤本タツキ/ 集英社 ©️ 2026 K2 Pictures・集英社

襲名 2026年9月25日公開 ©️ 2026 K2 Pictures・3Top