第9回

U-NEXT 編成制作/映画部 部長の林健太郎さんインタビュー

朝日新聞掲載で広がった反響

掛尾:今回はU-NEXT 編成制作/映画部 部長の林健太郎さんにお話しを聞きたいと思います。と、かしこまってスタートしましたが、そもそもは、林さんと私は以前、同じ会社に勤めていた、まあ、同僚です。私はキネマ旬報社にいて、林さんは映画配給会社のGAGAの出版部門にいたのですが、キネ旬がギャガの傘下になり、その後、その出版部門とキネ旬がギャガから独立して、二つの会社が合体し、私はキネ旬、林さんは『ビデオ・インサイダー』の編集者になっていたという関係があります。

 早速ですが、先日の朝日新聞の夕刊(2026年6月4日)でU-NEXTと林さんのことが大きく取り上げられていました。「レンタルビデオ店を継承、監督・俳優などをテーマごとに“特集”を強みに、映画ファンを育てる」といった内容で、僕の周辺では、ちょっと話題になりました。あの記事が出たことで変化ありました?

林: 業界内の反応は大きかったですね。知人からの連絡が増え、久しぶりに「会おうよ」「飲みに行こうよ」と声をかけられることも多く、これまでいくつかの媒体やイベントに登壇してきた中でも、今回がもっとも反響が大きかったように思います。朝日新聞という媒体の影響力の大きさもありますし、内容を非常にキャッチーにまとめていただいたのも大きい。書いてくださった記者が若い方で、レンタルビデオ店にあまり馴染みがない世代だからこそ、「面白いことを言うな」と受け止めてくれたのかもしれません。

「人が選ぶ特集」が映画ファンを育てる

掛尾: それに関連するんですけど、今、シネコンの番組編成なんかも多分そうだと思うんですけど、観客の入りによって、大きいスクリーン、小さいスクリーンと変えていくのが、もうAIに判断を委ねているような、非常にクールにやっているんですけど、同じように、配信でも、視聴者の反応に機会的に対応して番組を組んでいく傾向が強いなかで、編成担当者の個性みたいなもの、監督や俳優で特集を組んだりする“個人技”が活かせるっていうのは、僕はいいなと思いました。その個性に対して、AIではない人間が特集を組んでいる編成に対して、実際にマニアックな映画ファンは「U-NEXTいいね」って言うてます。しかし、巨大なマーケットの最大公約数の一般の視聴者にとっては、効果ってどんな感じなんですかね?いわゆる名画座の「監督特集」みたいな、そういう特集をやることの効果っていうのかな。

林:監督別や小さめな作品を取り上げる特集には、間違いなく効果があると思っています。そもそも私がU-NEXTに入社した時のミッションのひとつは、「特集を作ること」でした。キネマ旬報社から移ったのが2014年です。当時、ビデオレンタル店の棚作りのようなキュレーションの発想は配信事業者にはあまりありませんでしたが、U-NEXTはそこを志向していました。

もっとも、当時の会員規模は今の20分の1程度で、効果が数字にはっきり表れているとは言い難い状況でした。また、見放題の映画本数が2000本程度と、棚づくりをするには作品が足りず、そこでまずラインナップを増やすことから始めようと決め、2017年から一気にブーストをかけました。

そこから3年経った2020年、コロナ禍に入って多くの方に気づいていただくことになりました。見放題の映画も8000本にまで増え、特集も整ってきていたタイミングでした。OTTサービス全体で会員数が伸びる中、「U-NEXTだけちょっと面白いことをやっていないか」という評価をいただくようになったんです。もちろん外資系のプラットフォームも好調でしたが、そこと比較してもらえるようになったのはこの頃からです。最初に注目してくれたのは映画ファンや映画業界の方々で、業界内でまずざわつきが起こり、そこからSNSでの発信や口コミによってどんどん広がっていった印象です。

それから6年が経ち、映画の見放題ラインナップは2万作品を超え、今では業界関係者を含めた映画ファンといえる方々が、U-NEXTの中に数十万人はいらっしゃる実感があります。会員数は500万人を超えていますが、その中のコアな数十万人は非常に重要な存在で、サービスのファンとして使い続けてくださる方々です。しかもその方々はインフルエンサーとして影響力を持っていることも多く、そこから作品をライトに見ている方々にも見えない形で影響が及んでいるのではないかと考えています。人数としては限られますが、狭く深く刺さることが、結果として広がりにつながっているという感覚です。

Netflix・Amazonとは違うU-NEXTの戦い方

掛尾: なるほど。まあ、次の質問の答えまで話していただいてしまいました。今、U-NEXTの戦略、特集を作ろうっていうことがあったんですけど、つまり、先行する巨大なAmazon、Netflixが日本に上陸してきて、そこでU-NEXTが立ち向かっていくという、なんて言うか、パワーでぶつかり合ってもなかなか勝てない相手に対して、特集で対抗していくということになったのですか。差別化という意味で。

林:U-NEXTのスタートは2007年で、来年で20周年になります。NetflixもAmazon Prime Videoも、2015年の秋から日本でサービスを開始しました。私がキネ旬からU-NEXTに転職したのは2014年ですから、両社が上陸する前からコツコツと特集づくりに取り組んでいたことになります。当時から「ビデオレンタル店のような、人間の血の通った店を作ることが大事なのではないか」と考えていましたが、外資系の2社のやり方はまったく違っていて、その方針の違いが、結果差別化になったという流れです。

映画は「商品」ではなく「作品」である

掛尾: しばらく前のビデオ業界でのことですが、林さんも『ビデオ・インサイダー』の編集者として見ていたと思いますが、セルDVDに対する考え方が、ハリウッド・メジャーのホームエンターテインメント部門と日本の映画会社のビデオ担当者とは大きな違いがありました。メジャーも映画配給部門は、映画を作品として宣伝していましたが、ホームエンターテインメントの担当者は、外資系の食品、スポーツ用品などのプロダクト・マネージャーみたいな前職の人が多く、マーケティング志向で、映画を作品というより商品として捉えて、DVDを3枚3000円とかの価格にすることもありました。一方、日本の映画会社のビデオ部門では、だいたい4000円台の価格を維持するようにしていたと思います。やはり、映画というものを長期的な視点で扱っていこうという姿勢が感じられました。ちょっと長くなりましたが、外資系の配信会社との差別化のために、特集を組むという話しを聞いて、昔のDVD時代のことを思い出しました。

林: 「映画をコモディティ化(独自性のあった商品やサービスの機能や品質の差が小さくなり、どれを選んでも同じに見える汎用品のような状態になること)する」という言葉を、当時のハリウッドスタジオの方々が使っていましたね。

掛尾:まさにそうでした。映画は1本1本、異なる作品で、歯ブラシや洗剤とは違うのですが、大量生産の消費財のように扱っていました。

林: 我々が常に言っているのは、TVOD(都度課金)とSVOD(見放題)の市場についての話です。TVODは必ず守らなければいけないと考えています。レンタル店が崩れていったのも、いわゆる100円戦争がきっかけでした。中には10円で貸し出すところまであり、そこからガタガタと市場が崩れていきました。その金額をもう一度正規化するという意味でも、TVODをしっかりと形作らなければならないと思ってやってきました。かつてビデオレンタル店では、新作は400円程度、その昔は1500円程度で貸し出されていましたが、その400円という金額をもう一度取り戻せれば、半分を映画会社にきちんと還元でき、1回転あたり200円が戻るような形が作れます。そしてレンタル店で旧作になるようなタイミングでようやく、アーカイブとして見やすくSVODにするのが理想なのではないかと。今まさに起きているのはTVODの危機で、劇場公開後いち早く見放題にすべきだという考え方の会社もある中、我々はその戦いのただ中にいて、市場全体が非常に揺れ動いている状況です。「映画はお金を払って見るものである」という考え方を、守らなければいけない。古式ゆかしい考え方かもしれませんが、ある程度きちんとウインドウを守った上でやっていかないと、映画の多様性も失われるし、そもそも映画館の存在も危うくなっていくのではないかと危惧しています。

コロナ禍が変えた配信サービスの勢力図

掛尾: 作品を大切にしよう、その結果、映画制作会社にもちゃんとリターンがあるということは重要なことですね。しかし、ユーザーの意識が変化していく中で、その姿勢を保つことが難しくなっていることですね。キネマ旬報時代の我々の同僚だった、ライターの稲田豊史さんが書いた「映画を早送りで見る人たち」、「本を読めなくなった人たち」という本がベストセラーになっているように、ユーザーの意識が変わり、発信側が映画を大切に扱っても、受信側がコスパ、タイパで受け止める。U-NEXTには、狭く深く刺さるユーザーのためにも、その姿勢で頑張ってほしいと思います。これは、ちょっと大きな問題で、別の機会に、また深掘りしたいと思います。ところで、朝日新聞の記事にも、コロナ・ウイルスが蔓延した2020年が変化の年、コロナの巣ごもりで、配信の需要が伸びたとありましたが、それは、数字として明確に見えましたか。

林: 2020年5月、1回目の緊急事態宣言でステイホームが求められ、しかもゴールデンウィークと重なったタイミングで、「配信というものがあるらしいから見てみるか」という流れが一気に広がり、利用率が跳ね上がりました。我々もその時期を機に会員が増えています。

掛尾: もともと、配信のユーザーは若い人が中心と聞いていましたが、高齢者も増えたのでしょうか。

林: 配信ユーザーは20代、30代がボリュームゾーンなのは今も変わりませんが、U-NEXTの場合は他社に比べて幅広い層に使っていただいていると思います。2007年にスタートし、STB時代から長く利用されている方も多いですし、韓流ドラマやゴルフ、そして古い映画など幅広く揃えていることもあり、中高年のお客様も相当数いらっしゃいます。

掛尾: なるほど、僕は、ずっと韓国語の学習をしているんですが、その学友が、おばさんばっかりなんですけど、コロナ禍で配信にみんな入ってしまいました。コロナ以前は、話題の韓国映画があると劇場行っていたのが、まあコロナ後、劇場に行かないでみんな配信で済ませていますね。あと、CDVJ(日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合)にいた姫野さんと言う友人と一緒に 全国の映画ファンの人とネットでのグループを作ったことがありました。全国のTSUTAYAの熱心な会員を中心に集まってもらい、定期的にオンラインで映画について語り合うグループです。そこで、地方のメンバーから聞いたのが、東京のミニ・シアターで上映される映画が地方では上映されないといことです。愛媛の松山市の熱心な方がいるんですが、その人は、そういう映画を見に瀬戸内海を渡って広島まで行くそうです。そして見逃した映画は配信で見ていると。

林:もちろんブロックバスター作品と比べれば桁は違いますが、ミニシアター作品に関しても、U-NEXTでは割と多く見られているという声は映画会社の皆さんからいただきます。先ほど申し上げた数十万人の映画ファンがいらっしゃるので、その方々の一部が「これはあのミニシアターでやっていた作品だ」「これは見たかった作品だ」と反応してくれる。地方の方々にも届いている感触はあります。絶対数としては小さいものの、決して侮れない人数には届いていると思います。

「見られなくても置き続ける」という哲学

掛尾: 狭く深い会員という意味では、私は、仕事などで、どうしても見なければならない映画があるとき、配信を調べるとU-NEXTにある場合が多く、その時に入会して、関連作品もあれば見て、用が済むと退会したりと、入退会を繰り返してします。地味な日本映画の場合U-NEXTにあることが多いんですけど、ラインアップを揃えるってことがU-NEXTの強みということですが、コスト的なリスクはあったりするのですか。

林: 映画配信の権利料は決して安くはありません。それに対して視聴数や視聴時間でどれだけワークしたかをデジタルに測定するのは避けられない宿命です。実際、払った金額ほど見られていないというケースは当然多く、例えば7割、8割の投資がショートしてしまうこともあります。ただ、その残りの部分をどう考えるかは社内でずっと議論してきました。数値化しにくい無形の価値、たとえば「この作品がここにしかないから加入しよう」という判断につながる効果は非常に大きいですし、今の加入者が離れない理由にもなっています。仮に東映の古い映画が1000本以上あって、それがあるから解約しないという効果は数値化しづらいものですが、そうした価値があると信じて置き続けています。コストが障壁になる部分はもちろんありますが、それでも「置き続けると決めている」という言い方が正しいかもしれません。

掛尾: 僕は、田辺・弁慶映画祭やっているんですけど、U-NEXTだとPFF(ぴあフィルム・フェスティバル)の作品を配信しているじゃないですか。ああいう作品は、さっき調達コストという話が出たのですが、基本的にMG(ミニマムギャランティー)を出す作品と出さない作品があるわけですよね。

林: そうですね、基本的にはレベニューシェアでの契約を働きかけるようにしています。お互いにフェアな形なので、それでやれるのであれば我々にとって大きなリスクはありません。もちろん、登録してエンコードして、サーバーに置き続けるコストなど、調達費用以外にも正直大きな負担はあります。ただ、そこは我々が飲み込んで、「見られた分だけお戻しします」というレベニューシェアの形が非常にフェアだと考えて推奨しています。

掛尾: 確かにね、1年に1、2回しか見られない作品をサーバーに置いて、家賃を払わなければならないということですよね。

林: その葛藤はありますが、それでも置き続けると決めています。他社の中には、「これはそれほど見られなかったから、今年は契約更新しません」という考え方で運用しているところもあると聞きます。我々は「成瀬(巳喜男)だから置くんです」と、もうそう決めているんです。思想の違いということだと思います。

インディーズ映画を届ける仕組み

掛尾:井村さん(注:ジーンハート株式会社代表取締役社長 日本の短編映画専門配信サービスGeneTheater代表、日本映画オンラインも運営)から、何か訊きたいことはありますか。

井村:ありがとうございます。先ほどサブスク(SVOD)とTVODの話がありました。TVODが非常に重要だということですが、ポイントを活用されてTVODを視聴される方多いイメージがあるのですが、課金利用される方も結構いらっしゃるんですか?

林: もちろんいらっしゃいます。ポイントの使い道はどんどん増えていて、映画館のチケットに交換できたり、電子書籍の購入に使ったり、NHKオンデマンドやサッカーパックに充当したりすることもできます。となると月々1,200円分のポイントを超えて利用せざるを得ない場面も多く、当然キャッシュ利用者もいらっしゃいます。

井村: 弊社の配信サービス(GeneTheater)では日本のインディーズ映画、しかも短編(60分以内)を配信しているのですが、GeneTheaterにしかない作品が多い一方で、メジャー作品が少なく認知度が拡がらないというジレンマがあります。U-NEXTさんもぴあフィルム・フェスティバルの受賞作などのインディーズ映画を配信されていますが、視聴状況はいかがでしょうか。インディーズ映画をサブスクで視聴させるための何か工夫はされてらっしゃるんでしょうか。

林: インディーズ作品の視聴状況は、ミニシアター系の作品と近い傾向にあります。大きな作品とはやはり桁が違いますが、映画ファンや映画業界の方、プロやセミプロの方々にしっかり見ていただいている印象があります。特集を組んでおくことで、その特集に属する作品を横へ横へと見ていただいたり、また、そういった作品を見た方のUI(ユーザーインターフェース)上に、近しい特集が上位表示されるアルゴリズムを動かしています。インディーズ系の作品を見終えた後には、次見るべき作品として、何かしら似た要素を持つ作品がレコメンド表示されるようにもしています。

掛尾: 今の話を聞いてちょっと思ったんですけど、毎年11月に開催される田辺・弁慶映画祭の受賞作品を、翌年、テアトル新宿、テアトル梅田で「弁慶セレクション(弁セレ)」として劇場でレイトショー公開しています。この上映は、2023年、2024年、2025年と観客動員記録を更新しています。その上映後、各作品はバラバラに単体で全国の映画館で上映しますが、弁セレのような勢いがありません。これは、パッケージとしての「弁セレ」が、映画ファンに浸透しているのではと思っています。このパッケージとしての「弁セレ」のポテンシャルはまだまだ広がると考えていて、来年から、東京、大阪以外にも広げていく予定です。このパッケージを配信でも活用したらと思います。

林: ぜひやるべきだと思いますし、大歓迎です。確実に意味があると思います。「去年のラインナップがここで見られるよ」という形で、お互いに送客し合える関係が作れるはずです。

U-NEXTが描く映画製作の未来

掛尾:最後に、U-NEXTの映画製作に対する方針を話せる範囲でお聞きしたいのですが。

DVD時代は、インディー系の映画プロデューサーも、DVDのMGが資金調達のハシラになっていましたが、配信時代になると、なかなか、配信のMGでは十分な資金とはならず、けっこう資金調達が難しくなっています。最近は、Netflixだと「ガス人間」、「地獄に堕ちるわよ」、Amazon MGMは「沈黙の艦隊 北極海大海戦」や「ミステリー・アリーナ」を製作していますが、U-NEXTも映画は「遠い山なみの光」、「盤上の向日葵」、「アイミタガイ」、大型実写ドラマとして「ちるらん 新撰組鎮魂歌」に参画をしています。映画のプロデューサーにとって、U-NEXTの方針は気になるところですが、今後の方針はどうなのですか。

林: ようやく準備が整ってきた段階です。今年の春には、大規模なドラマ作品として『ちるらん 新撰組鎮魂歌』をリリースしました。また4月には、CJ ENMとTBSとともに、StudioMonowa(スタジオモノワ)という会社の設立を発表しました。日韓の力を合わせてドラマを作っていく取り組みです。具体的な数字は申し上げられませんが、オリジナル作品の製作はだんだん増えていくと考えています。