この連載の第1回の掲載がシステムの都合でかなり遅れてしまい、第2回は1月28日に行われた映連(映画製作者連盟)の年頭の会見について触れてみたい。
昨年は、様々なメディアにも取り上げられたように「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来」、「国宝」の大ヒットで映画産業は活況の年だった。しかし、第1回の連載でも記したが、暗い影を落としたことも見落としてはならない。その暗い影に関係することだが、会見の最後のQ&Aで、外国映画の不振、ワーナーブラザースの日本での配給業務の終了についての質問が出たので、前回と重なるが、あらためて触れてみたい。
冒頭、映連の島谷能成会長(東宝代表取締役会長)は、年間興収過去最高を記録し、前映連会長、東映社長だった岡田裕介氏の悲願だった年間観客動員2億人もあと1歩に迫ったと語った。過去最高の興収に触れた時、島谷会長は図らずも「単価が違うので比較できないが」として、観客動員は、2000年からの興収での発表以後(それ以前は配給収入で発表)、2019年に次ぐ過去2番目の動員数だったと述べた。昨年の興業成績については、映連の発表した数字をもとに構成したチャートを参照いただきたい。(表1、表2、表3、表4 参照)
2019年の観客数は1億9491万0000人で平均入場料金は1340円。2025年の平均入場料金は1454円なので114円低かった。2019年の観客数で2025年の平均入場料金なら約2834億円になり、興収も2番目となっていたことになる。最近はIMAXや4DXなどの高額料金の上映も多く、作品によって平均入場単価も異なってくる。私が「キネマ旬報」の編集者だったころから書いていたが、やはり過去と比較するためにも観客数を分かる範囲で併記したらいいのではと思う。2019年と2025年のわずか6年の間でも順位が変わってしまうのだから。(表5参照)
冒頭で記したように、2025年の興収結果について、最後のQ&Aでは外国映画の不振についての関する質問がいくつかあった。壇上には映連各社の社長および映連会長、東宝の会長という日本映画の関係者のみの会見でありながら外国映画の質問が出るのは、それだけ外国映画の不振問題が大きいということである。島谷会長は日本映画、外国映画の実写映画、アニメーションを飛行機の4つのエンジンに例え、実写外国映画のエンジンが不調になっているのが現状で、ハリウッドのシリーズ作品が端境期にあたっており、新しいものが出てくれば回復するだろうと話した。
島谷さんには、私も何度か取材したことがあるが、本当にどんな質問に対しても、テクニシャンのボクサーがパンチをかわすように、巧妙に答える。ここでも、参加した記者からの質問を手際良くさばいていた。しかし、実際、この問題は言うほど簡単ではない。
そこで、ちょっと2019年を振り返ってみたい(表6、表7 参照)。邦洋の興収構成比は、2015の約75対25に対して2019年は約55対45で2019年の方がバランスがいい。そして、ヒット作品を見ると、2025年は「鬼滅の刃〜」の約400億円と「国宝」の200億円が突出している。仮にこの2作品の興収が半分(それでも凄い数字)としたら平凡な年だった。一方、2019年は邦洋、突出したヒット作がないにもかかわらず、多数のヒット作品が並び、観客数では2025年を上回っていた。まさに島谷さんが言う、4つのエンジンがうまく稼働していた。
この2019年と2025年の比較で結論を出すのは早計だが、私の印象では、この6年の間に、多様な作品を見る観客が減少したと思う。コロナ禍の後、ミニシアターの中心的な観客だった高齢層が戻って来ないと良く聞くが、その傾向が多様性を損ないミニシアター、小規模配給会社の苦境になっている。一方、2025年は、一部の作品のIMAX、ドルビーアトモスなどの高価格上映に観客が集まり、リピーターとなることで興収を押し上げている。高価格上映とリピーターのヘビー鑑賞者に支えられているなら興行は不安定になる。いずれにしろ、この6年間で観客の嗜好は大きく変わったと感じる。このような状況で、島谷さんが予測するように、数年後には、また4つのエンジンが快調に回り始めるのだろうか。
アメリカ映画産業の再編とハリウッドの戦略の変化
この6年の間の変化のきっかけとなった2020年、ポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」が素晴らしいヒット・スタートをした。2019年の勢いに乗り、2020年には私は間違いなく観客動員2億人は達成すると確信していた。ところが、2月上旬にコロナ・ウィルスの感染が確認され、ハリウッド映画の公開が延期となって映画興行は失速した。世界に蔓延したコロナ・ウィルスから立ち直ったのは2023年ころからだが、世界の映画界の風景は大きく変わっていた。コロナ禍で人々は外出を控えている間に、Netflix、Amazon Prime Videoなどの配信ビジネスが世界に普及した。
コロナ・ウィルスによる世界的なパンデミックによって状況が一変したのだが、実は2000年代半ばから、アメリカの映画界は再編の動きがあり、それがコロナ禍によって一気に顕在化した。時系列に並べてみよう。

前回にも書いたが、Netflix、Amazon Prime Videoの普及にディズニーはディズニープラスを立ち上げ、ハリウッドはビジネスを映画館から配信にシフトせざるを得ない状況になった。さらにディズニーはAIにも接近を試みている。
こうした映画館から配信へのシフトがユニヴァーサル、パラマウント、ワーナーの日本での配給業務の撤退につながる遠因になったといえる。
さらにもう一つ、ハリウッド各社が日本での配給業務から撤退する理由がある。それは日本市場の特殊性だ。世界的に見て、ハリウッド対現地国の構成比が25%対75%という国はない(インドを除く)。参考に韓国とフランスの年間興行ベストテンのチャートを見てください(表8 参照)。日本映画には興収100億円を超えるアニメが年間数本あり、さらに実写でも「働く細胞」、「劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』」といった作品が軽々とハリウッドの大作を超えている。
上記のハリウッドの世界戦略が劇場から配信へとシフトしたこと、それと日本市場の特殊性から、配給業務の撤退が考えられる。各社は興行収入がかつてのような規模を安定して見込めないことから、日本で配給部門を維持する合理性がなくなったと考えているのであろう。配信と劇場配給の役割分担、ローカルパートナー(東宝東和)の協力を得ることでのコスト、リスクの管理を強化するという流れになった。
こうした状況で、4つ目のエンジンとなる実写外国映画が以前のように回るとはなかなか考えにくい。私は、実写外国映画については、当てにせず待っていれば、いずれ大当たりもでるくらいの気持ちでいいのではないか思う。
日本の映画市場の特殊性を表す顕著な例として映画.comによる週末映画ランキング(2026年2月13日〜15日)を紹介したい。
1位:「ほどなく、お別れです」(東宝)
2位:「新劇場版 銀魂 -吉原大炎上」(WB/BN Pictures/Bandai Namco Filmworks/Aniplex/初登場)
3位:「ズートピア2」(WDS)
4位:「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」(Bandai Namco Filmworks/Shochiku/初登場)
5位:「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」(Khara/リバイバル上映)
6位:「劇場版 僕の心のヤバイやつ」(Toei/avex pictures/初登場)
7位:「クライム101」(SPE/初登場)
8位:「銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き」(Bandai Namco Filmworks)
9位:国宝(東宝/公開255日で興収200億円を突破)
10位:「純愛上等!」(SDP/初登場)
他のデータでは「BE:the ONE -START BEYOND DREAMS-」(Avex Filmlabels)が8位に入っていた。
実写の外国映画は7位の「クライム101」のみ。同じ2月13日に公開の「ブゴニア」(194スクリーン)は13位。1月30日公開の「ランニング・マン」、「HELP/復讐島」は消えてしまった。公開9週目でベスト15位からも消えた「アバター・ファイアー・アンド・アッシュ」はやっと興収25億円を超えたが30億円には届かず、最終的に27億円くらいが予想されている。韓国では「アバター」は、2025年12月17日に公開され、わずか17日間で500万人を突破、1月19日時点、約630万人の観客を動員している。自国映画が瀕死状態の韓国では観客が外国映画に流れるということもあるが、日本では、自国映画が強いのか、それとも日本人が外国映画を見なくなったのか。
Aniplex、Bandai Namco、avex picturesといった配給会社の存在感が強くなり、ユニヴァーサル、パラマウントに続いて今年からWBも日本での配給業務を東宝東和に委託したが、このベストテンを見るとそれもうなずける。
こういう市場で、試写室の管理・維持、宣伝スタッフ、劇場営業の人件費などを考えれば撤退、配給委託も致し方ないと思う。まあ、日本人には馴染まないキャラかもしれないが「スーパーマン」は全世界で6億ドル(890億円)を超える大ヒットとなったが、日本ではやっと10.3億円の興収だった。同じワーナーのローカル・プロダクション「はたらく細胞」の63.6億円と比べると、身も蓋も無い話しである。ハリウッドのメジャー・スタジオが日本での実写映画の劇場配給に対する熱が下がっていることは明らかである。
年間観客数2億人は、急速に進む少子高齢化による若い世代の減少との競争でもある。むしろ私が期待するのはアニメだけでなく、実写映画の海外進出を強化することだと考えている。日本の外で日本映画の観客を増やすことのほうが容易ではないか。2025年の訪日外国人はインバウンド効果もあって初めて4000万人を超える4270万人だった。それほど日本に関心を持つ外国人がいるわけで、実写映画の海外進出をもっと後押しすべきだ。ここには課題も多くあるが、それについては別の機会で議論したいと思う。
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