1月25日より公開の映画『Mothers マザーズ』について、総合プロデューサー・難波望さん、俳優・嶋村友美さん、小沢まゆさんにインタビューしました。

5人の脚本家が、真に描きたい物語を書き下ろした映画

――まず企画全体について、総合プロデューサーの難波さんに伺います。今回の『Mothers マザーズ』は5人の脚本家さんによるオリジナルの脚本で制作されましたが、この企画のきっかけになったのはどのようなことでしょうか。

(難波)脚本家のオリジナル作品を自分たちで発信する取り組みをやりたい気持ちが最初にありました。私は20代の頃からプロットライターという、脚本になる前の段階のあらすじを書く仕事をしていましたが、そのかたわらで沢山の映画企画に脚本家として参加していました。ただ長い歳月をかけて脚本を書き上げても、製作側の事情で企画が流れてしまうことが続いていました。そのうち、自分で責任をもって一から制作したいという想いが心の中に芽生えました。今年でデビューしてから十年以上経ちますが、今回は脚本家仲間と共に、劇場公開を目標としたオムニバス映画の制作プロジェクトを立ち上げました。

難波望さん

――脚本家さん自身がやりたいことを100%やるために、資金を出されたのでしょうか。

(難波)やりたいことを100%できるほどの制作費ではありませんが、スポンサーの意向で内容が左右されたりしないよう、5作品それぞれ脚本家自身が自費で制作しました。

――今回の作品のテーマが「母」ということで、脚本家さんたちにはそのテーマだけを伝えてストーリーは自由に描いてもらった感じですか。

(難波)作家のオリジナルを楽しんでいただく企画ですので、内容について口を出すことはほぼしませんでした。ただ、『BUG』の武田恒監督は学校の後輩ということもあって、企画段階ではプロットを都度送ってくれたので感想を伝えました。脚本になる段階からは口出しはしませんでした。

――今回のテーマの「母」について、難波さん自身に思い入れはありますか。

(難波)他の男性の脚本家もそうだと思いますが、母親について真正面から語ることには照れくさい部分があるんですよね。ですから直接自分の母に伝えたいことがあって書いた作品ではありません。ただ、作品を通じて感謝の気持ちが伝わると嬉しいです。
「母」というテーマは、母との関係や想いは人それぞれ異なりますから、5人の脚本家の個性が出るのではないかと思い選びました。

――お母さんに見てもらいたいですね。

(難波)実は、大阪で開催された十三下町映画祭でノミネートいただき上映していただいたんですが、そこで私の両親がこっそり作品を観に来てくれたらしいんですよ。うちの妻には連絡があったらしくて。まったく気付かなかったので驚きました(笑)。

――それはよかったですね。今回、難波さんは脚本・監督とともに総合プロデューサーであり、一番の責任者という立場もおありですが、ここまでどんな苦労があったでしょうか?

(難波)自分で映画づくりをした経験があるのは私と武田監督しかいなかったので、今回の企画に不安を抱えながら参加された人もいたかもしれません。でも私はこの人たちならできるだろうという確信みたいなものはありました。映画づくりでの苦労というよりは宣伝やPRをどうやるか、今も試行錯誤しながらやっているところですね。

――配給や宣伝を他の会社に任せることも選択肢としてはあったと思うのですが、そこをあえて皆さんでやっているのは、何か理由はありますでしょうか。

(難波)最初から全部自分たちでやろうという明確な気持ちはなかったのですが、完成後に周りの先輩方や配給経験のある方々に相談しました。私が脚本で参加した『おっさんずぶるーす』というオムニバス映画のプロデューサーでもある中村公彦監督、『人形たち〜Dear Dolls』というオムニバス作品のプロデューサーでもある大原とき緒監督、親しくさせていただいている前田直樹監督など、いろいろな方に相談しているうちに「ここまでやったら自分でやらなきゃいけないのではないか」という気持ちになりました。

――素晴らしいですね。この作品は、世の中の母親の皆さんに観てほしいですか、それとも母親・子ども両方でしょうか。

(難波)今回の作品では、子どもの視点から描いた「母」もあれば夫の視点から描いた「母」もあり、母親自身の葛藤など様々な視点から描いた作品ですので、幅広い方々に見ていただきたいという思いです。

嶋村さん「魂を消耗するような気持ち」で演じた『ルカノパンタシア』

――次に作品『ルカノパンタシア』について嶋村さんに伺います。嶋村さんの役は、特に役づくりが大変だったのではないかと感じましたが、いかがでしたか。

(嶋村)大変だったのは、娘の原田海凪役の森山みつきちゃんの方だと思うんです。私が最初に見ていた幻の海凪と本当の海凪を演じ分けるのに葛藤していた姿を撮影中見ていたので。私は自分が見ているものを本当に信じきって演じていたので、そういう意味ではそこまで大変じゃなかったです。

ただ内容的に、精神面ですごくきついというか。娘を亡くした気持ちをずっと撮影前から持ち続けているんですよね。それをずっと根底に持って、撮影中もスタッフと笑って話しているけれどその気持ちがずっとあるので、魂を消耗するような状態でした。

『ルカノパンタシア』主演の嶋村友美さん

――監督からは役づくりについて、こういう風にしてほしいなどの指示はありましたか。

(嶋村)指示は特にないです。台本の読み合わせがあり、さらに家族写真を撮る日が丸一日あって、これがすごく役づくりに良かったです。この作品は、大事件があったあとの話なので、登場人物たちが家族でいる時間がないんです。だけど「家族でいた時間」が見えないと何でもないお話になってしまうので、そこは元夫の町村茂役の藤井太一さんもみつきちゃんもみな同じ認識であり、家族での時間を持てました。

この、家族での時間が大事だという認識がみんなあると確認ができたのがすごく良かった。難波監督は私たちにお任せしますといってくれたので、きちんと応えたい思いでした。

――嶋村さんは、森山さんとの絡みが一番多かったと思いますが、お二人の息を合わせるのが今回この作品の肝の一つかなと感じました。お二人でどう演じようなど、話し合いはされたのでしょうか。

(嶋村)話し合いはしていないです。みつきちゃんとはほぼ「初めまして」で、お芝居するのも一緒の時間を過ごすのも初めてで。リハーサルの中で、彼女はこういうふうに来るんだなとかこうだからこうしようかなとか、そういう中で息が合ってきて。撮影は3日間ほどで濃密だったからその後本当に仲良くなり、一緒に旅行もしています。私には娘がいますが、もう1人娘ができたような感じです。

――難波さんに、監督として『ルカノパンタシア』について伺います。重い話だとは思うものの、そこまで重くならずに観られました。脚本や演出で、重い話だけどあんまり重くなりすぎないように、などと考えられたのでしょうか。

(難波)これまで書いた作品はどちらかといえば重めの作品が多かったのですが、今回は観終わったあとに、前向きになれるものを描こうと最初から決めていました。

――そうですよね!テーマ的には重い話ですが、締め付けられるほどの重さを少しやわらげたような感じを受けました。

(難波)希望のある話にしたかったんです。

――難波さん自身が脚本家ということで、セリフもこの映画の見どころの一つでしょうか。例えば、元夫役の藤井さんの「いつまでも都合のいい幻見てるんじゃないよ」というセリフは、あの優しい人が急に鋭い一言を放ったので驚きました。

(難波)私はあまり「いいセリフを書こう」という意識はなくて、どちらかというと誰もが日常会話で話すような言葉を選んで、大切なものは映像で語れたらいいかなと思っていて。むしろいいセリフを書かないようにしていますね。
自分の好きな映画はどちらかというと、映像だけでわかるような、カット割りも少なく、そこにただいる人たちの情景を切り取るだけで伝わるような作品なので、そういったものを目指しています。

『ルカノパンタシア』のワンシーン

――タイトルの『ルカノパンタシア』は、調べても意味が出てこなかったのですが、どんな意味が込められているのでしょうか。

(難波)造語が好きで、自分でつくった言葉です。ラテン語の「パンタシア」、つまりファンタジアから来ていて、主人公・路佳(ルカ)の見た幻影、という意味で「ルカノパンタシア」となりました。

――あえて「ファンタジア」にしなかったのはなぜでしょうか。

(難波)ファンタジアだと英語ですから、最初からストーリーが透けて見えてしまうので。これどういう意味だろう?と興味を惹くものにしようと思いました。

――『ルカノパンタシア』の見どころを教えていただけますか。

(難波)近年、私を映画の世界に導いてくださった恩人たちが相次いで亡くなられました。でも、私の心のなかでは生き続けていて、いつも励ましてくださっていると感じています。そんな経験から、人は人の心の中で生き続けることできる、という想いを込めて書きました。大切な人を亡くした経験のある人はたくさんいらっしゃると思いますが、作品を通じて改めて大切な人に想いを寄せて、温かな気持ちになってもらえたら嬉しいです。

無差別傷害事件を起こした息子の母親役。難しい役どころの『BUG』

――次に小沢さんが出演された『BUG』についてお伺いします。無差別傷害事件を起こして捕まった少年の母親という役どころですが、ストーリーがかなり衝撃的ですね。オファーが来て脚本を読んだときどう思われましたか。

(小沢)オファーじゃなくてオーディションなんです。だから、なかなか重い設定の話だというのはわかっていました。オーディション台本もかなり苦しいセリフのやり取りがあり、オーディションの段階から私は苦しかったです。
よく覚えているんですけど、オーディションで、あるセリフを言おうとしても言えなくて。人間としての私がそれを拒否してしまってなかなか言えなくて。のど元まで来たものをもう1回胸の奥に閉じ込めて、を3回ぐらい繰り返して、ようやく言葉にして出したら、その自分の言葉が耳で聞こえてくるので、さらに胸が締め付けられてしまい、とても苦しいオーディションでした。
でもこの私の様子を武田監督が見て役に選んでいただいたので、これは役に対しても物語に対しても本気で向き合わないといけないと思って取り組みました。

『BUG』主演の小沢まゆさん

(難波)オーディションの後、武田監督が小沢さんたちの組の芝居を見て「ビッグバンが起きました」と報告があったことは印象に残っています。

(小沢)夫である神崎智幸役の垣内健吾さんと一緒に夫婦役に選んでいただいたんですけど、オーディションでそのペアだったんです。垣内さんと私の夫婦のシーンが武田監督にとって衝撃的だったようで、それで2人一緒に採用していただきました。

――心のコントロールも含めてすごく難しい役だと感じましたが、役づくりとしては何か意識したことはあるのでしょうか。

(小沢)武田監督から母親役をお願いしますとご連絡いただいたときに、監督と同じ思いで作品をつくりたいので、監督とたくさんお話をしたい、話し合う時間を取っていただけますかということをお願いしました。
監督はそれを聞いてくださって、監督とだけでなくキャストやスタッフ全員で話す時間をすごくたくさんとってくださいました。脚本についてそれぞれの意見を出し合い、リハーサルで実際演技をしてみてやっぱりこれ違うかもしれないねといいながらみんなで作っていって。その度に武田監督が脚本を少しずつ直してくださって、最終的にみんなで納得のいく脚本で撮影に取り組めました。みんなと話し合いをしていく中で自然と「神崎鳴海」という人間が自分の中に入ってきました。

『BUG』のワンシーン

――通常、短編映画でそこまでやらないことが多いですよね。

(小沢)はい、多少はみんなで話し合ったり監督と個人的に話し合ったりしますが、あれだけキャストもスタッフも各々の意見を述べながらやるのはなかなかないことなので、武田監督に感謝しています。息子役の上田雅喜くんの気持ちもとてもよくわかったし、夫役の垣内健吾さんもどんな思いでこの父親役を演じていらっしゃるかとか、あと私と対峙する被害者の母親役である悦永舞さんも難しい役だと思いますが、彼女の思いもたくさん聞けてすごく良かったです。

――目の表情が、母親として子どもに向き合うときと、妻として夫に向き合うとき、加害者として被害者に向き合うとき、それぞれ全然違うと感じました。

(小沢)そうですね。武田監督はこの作品で「わからないものに向き合う姿を撮りたい」ということで。私が演じた神崎鳴海は、息子のことをわかっているつもりでわかってない。夫ともきちんと向き合わずに結婚生活を送ってきた。いろいろなものにきちんと向き合うことから逃げてきた人だったけれど、何が自分にとって一番大事なのか答えを見つけるために向き合う。それが目の表情の変化で表現できたらいいな、というのはありました。

――俳優・小沢さんは、撮影期間中はずっと役になりきって過ごすほうなのか、それともスタートがかかったら役に入るのか、どちらですか。

(小沢)根底には、撮影が終わるまではその役があります。撮影中とプライベートは切り替えるようにしていますが、もうずっと根底には役がありますね。だから『BUG』に関しては本当にきつかったです。「早く終わってくれ」と思うぐらいつらくて。
クランクアップしたときは本当に安堵でいっぱいでした。共演者の人に撮影後にたくさんしゃべりかけたから、「小沢さんって実はたくさんしゃべる人なんですね」といわれたぐらい『BUG』に関しては緊張感のある数カ月を過ごしました。心身ともに入り込むような役をいただけることは役者としてはありがたいです。ありがたいけど苦しいですよね。

(難波)現場に伺ったとき、一瞬お会いしましたが話しかけることが憚られました。

(小沢)そうなんです。すみません。私も難波さんがいるなと気づいたんですけど、集中モードに入っていたので。

――小沢さんとしては、『BUG』における「母の愛」はどのように捉えていらっしゃいますか。

(小沢)彼女はおそらく、母親としてやるべきことはきちんとやってきた人だと思うんです。しかし息子と心を通わせることにはあまり向き合ってこなかった人で、夫もそういう人。世間体をとても気にするタイプの人だから、息子は1人でいろんなことを我慢しながら、自分自身もわからなくなって、結局は無差別傷害事件を起こしてしまった。誰にも理解してもらえない、本当に孤独だったんだろうなと思います。なので、彼女にとっての母親の愛というものはここからです。ここから息子と向き合って、息子に本当の愛を持って接していく。息子から逃げない、自分自身からも逃げない、という決断を最後の最後でできた。ここからが彼女の母親としての新たな一歩だと思います。

――『BUG』の見どころについて教えてください。

(小沢)本当に大切なものは何なのかを彼女が見つけていく過程ですね。観る人が自分自身と重ね合わせるのはストーリー上難しいかもしれないけれど、「本当に大切なものは何だろう」「向き合わなければいけないことは何だろう」と考えるきっかけになるといいなと思っています。

――最後に難波さん、5作品全体を通しての見どころを教えていただけますか。

(難波)5編すべてにおいて「母の愛」が描かれていますが、それぞれ描き方や捉え方が全く異なるので、オムニバス映画としての楽しさを堪能できるものになっていると思っています。きっとどれか一つは心に残る作品を見つけられると思いますので、ぜひ楽しんでご覧ください。あとエンディングテーマ「おもかげ」も最後まで聴いて欲しいです。

Profile
難波望&嶋村友美&小沢まゆ

概要

作品概要

作品名:Mothers マザーズ
製作年:2024 年
公開日:2025 年 1 月 25 日
製作国:日本
上映時間:1 時間 55 分
作品フォーマット:DCP 16 9 |カラー|ステレオ
ジャンル:オムニバス
製作:映画マザーズパートナーズ
配給:GoldfishFilm
コピーライト:© 映画マザーズパートナーズ

公式

オフィシャルWeb サイト https://mothersfilm.studio.site/

オフィシャルX https://x.com/TeamMothers

本予告:https://youtu.be/lPY_Vr6lZMs

劇場公開

新宿 K's cinema  1/25~1/31

下北沢 シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』  2/7~2/13 

愛知 刈谷日劇   2/21~3/6 

大阪 シアターセブン  3/15~3/28 

その他、順次公開予定

インタビュアー
井村哲郎

以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。

自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。