ジーンシアターで配信中の短編映画について
── ジーンシアターでは沖田監督の作品を多数配信しています。『居候、麦茶を沸かし始めたる』は1カットで見せる実験的な短編映画ですが、ワンカットムービーをつくろうと思ったきっかけを教えてください。
愛知県の映画館シネマスコーレさんが主催する映画祭でワンカットのコンペティションがあり、その応募に向けてつくりました。この映画祭は、毎回異なる撮り方のテーマがあるそうで、その年は「ワンカット編集なし15分以内」という面白いテーマでした。その頃はコロナ禍で、思うように外出ができない中でしたが、ワンシチュエーションなら家の中設定の脚本を書けば撮影できるな、と。
── ワンカットムービーの演出でどんなところに苦労されましたか?
ワンカットは編集も不要なので完成もすぐです。1日の撮影で、同じ俳優さんで複数作品撮ることも可能かも!などと、軽く考えていました…。ですが、実際やってみるとすごく難しく、手元や表情のアップができないなどの見せ方の制約や、10分ほどの長回しでミスなく動けるよう俳優さんとの打ち合わせと練習に時間がかかり、テイク数も多くなり、複数別の作品を撮影なんて到底できなかったです。
コロナ禍でしたので、前もって顔合わせや本読みができないなと思い、撮影当日が初めましての人ではなく、以前から私の映画によく出てくださっている3人(坂城日日さん、成瀬亜未さん、堀内英二さん)にお願いしました。
特に、一番長く画面に登場する金髪の居候役を演じた坂城日日さんとは、台詞も多かったため、電話で脚本について色々と話し合いました。初稿について、私の書いた会話のやりとりは面白いけれど「心の動きや変化」が少なく、自分のやりたいことだけになっていないか?など坂城さんが指南をしてくれて、なるほど!と。書き直しと話し合いを何度か繰り返しました。成瀬亜未さんからは、台詞を読み込むにあたり、堀内英二さん演じる夫との出会いや坂城さん演じる居候/従妹である亮との家族関係など、実際に内容には出てこない背景を訊かれて、私もあらためてそこを考えて文字で書き、堀内さんにも共有しました。会えない中で、それぞれが人物設定と脚本の読み込みをし、積極的にかかわってくれたお陰で、当日はそれぞれの人物の心情に沿って動きをつなげていき、無事作り上げることができました。
タイトルの『居候、麦茶を沸かし始めたる』は友人が詠んだ俳句です。以前見せてもらったこの句のことを、今回ワンカットの内容を考える時に思い出し、そこから設定を膨らませることができた、という経緯です。
短編映画紹介
『居候、麦茶を沸かし始めたる』(ジーンシアターで配信)視聴はこちらから
ストーリー
これはとある夫婦と、共にその家に住まう居候の、早朝一コマを描いたお話。
妻のアミが、12歳年上の夫に対するささいな不満を募らせる中、夫エイジはそんな妻をどう感じているのか?
居候のリョウは2人との他愛無い会話の中で、夫婦の本当の姿を垣間見るのであった。
素直でいられること、本当の自分でいられること、そしてそんな人に出会うということの幸福が描かれた本作品。
視聴後、ぽかぽかと温かい気持ちにさせてくれる……そんな約10分の朝の一コマ。
── 沖田監督の作品は、どの作品もセリフがとてもいいですね。『居候、麦茶を沸かし始めたる』も何気ない会話でしたが、聞き入ってしまいました。脚本、特にセリフはどのように考えられているのですか?
自分一人でそれぞれ別の複数人物のセリフを考えると、どうやっても矛盾や場違いなやり取りが沢山出てきます。ここを私は笑うつもりで書いたけれど、実際の本読みでの会話は笑っていない、役者さんのトーンも想像と違う、ということも多々あって。最近は感情(「~と言いながら笑う」「~の後、落ち込んだ表情をする」など)を脚本に書かないようにして、場の雰囲気をみて決めるようにしています。
また、役者さんが何回も詰まるときは「セリフが自然じゃないのだな」と思い、その場で変えていきます。私は当て書きが多いので、脚本を書いていてセリフに迷った時、「この言葉にはどう返す?」や、例えば夢がテーマの時には役本人に「夢はなに?」と聞いたりして、その言葉をそのまま採用するなどもします。「このまま会話が続く」という一文を入れると役者さんたちそれぞれが自分たちで発してくれて、続きのやりとりを作ってくれて。そのセリフが観た人から好評いただくこともよくあります。そんなわけでセリフもかなり役者さん頼りです。
── 脚本を現場で直すことがよくある、ということですか。
これまで48時間映画祭へ参加してできた作品が多くあります。48時間映画祭は、文字通り2日間で、出されたお題を入れ込んで7分の短編映画を完成させるイベントです。開催初日の19時にお題が発表され、夜に脚本を書き、翌朝みんなに渡します。読み返して推敲する時間がほぼないため、役者とスタッフが朝集合したと同時に内容を詰めていく。できるだけ早く撮影に入りたいので1時間ほど全員で集中します。流れや辻褄があっているかなどを確認し合い、皆の意見をもらってつくっていく感じで、構成がガラリと変わることもしばしばです。その経験からか、48時間映画祭でない撮影でも脚本を現場で修正していくやり方になったのかもしれません。
初めて出演頂く役者さんから「監督は、一言一句セリフを変えないで欲しいタイプですか?」とよく訊かれますが「意味が合っていれば、言い回しや雰囲気はどんどん変えてください」と答えます。「役者さんがここでこのセリフは違うと思ったら、それも言って欲しい」と言いつつ、実際役者さんから「このセリフ言わないかも」など指摘されると、自分の脚本へのダメ出しに感じて一瞬シュンとします…。「誰の指摘であっても全部受け入れる」わけではなく、言って欲しい人にしか声をかけていないので大丈夫です。そこを言い合える雰囲気でありたいです。初めての役者さんとは、このあたりのことを話し合ってから撮影に入ってもらい、いつも出てくれている役者さんと私のやり取りを見て、自然となじんでくれているように思います。嬉しいことです。
── 短編映画『日常』は、言葉と動きのタイミングが絶妙な作品ですが、撮影現場での演出は大変だったのではないですか?
『日常』は、役者さん3人、カメラマン、私、の5人での撮影で、都度手が空いている人が音声をやるなど、協力しながらつくりました。「歩きながらしりとりをしていたら実物が出てくる」シーンは、外での撮影で。機材もコンパクトにしていたためモニターがなく、私は画角が見えずで。恋人同士役の成瀬さんと両角颯さんの二人とカメラマンの島田龍さんとで何度もテストをしてくれて、本番に入るときにカットをかけるタイミングだけ聞きました。歩いていた遊歩道も、綺麗ですが「変化がほしいかも」と、島田さんが歩道橋を渡るアイデアを出してくれて。みんなに任せっぱなしの撮影でした。
短編映画紹介
『日常』(ジーンシアターで配信)視聴はこちらから
ストーリー
恋する女の子コヒロ。彼女は今日、思いを寄せる彼とのデートを控えていた。
金髪のタロット占い師に相性を占ってもらうと、まさかの両想いとのこと。そして、ラッキーアクションは“しりとり”だと言う。
__場所は変わり、彼との待ち合わせ場所にて。
占い師の助言を実行すべく彼を誘い、さっそく2人のしりとりが始まる。
「ねこ」「こねこ」「こんぶ」他愛もないやり取りが続く中で少しずつ異変が。なぜか発した言葉が現実になる……これは偶然?それとも……。
沖田監督の演出について
── 沖田監督の映画は、ほっこりして優しい気持ちになる作品が多いですね。見る人がそのような気持ちになることを意識して制作していますか。
見る人には、それぞれどう感じてもらっても良いと思っているので、意識はしていないです。日常のこういう感情が私の好みなのだと思います。例えば『居候、麦茶を沸かし始めたる』の撮影の時に、坂城さんに「取っ手のない鍋蓋を箸で持ち上げて」と伝えたら、箸2本を使っていて。私は取っ手の取れた穴に箸を1本差して持ち上げるイメージで、普通と思ってやっていることも、それぞれ違って。ある人の日常は他の人にとって特別なのだ!と、日常って面白い!と思いました。
突飛な設定や事件性があるものや、SFやホラーなどの映画をつくるのは、他に断然上手い人が沢山います。私は経験していないことはなかなか書けないこともあり…、まだまだ日常の面白味を探っていきたいです。
── 普段のことを「ヒトコワ」的につくる人もいますけれど、沖田監督の作品は心地よく見られる感じです。このあたりを意識しているのですか?
例えば、何かに悩んでいるのは自分だけだと思っていても、全く知らない人が遠く離れた場所で同じような状況になっていることが、きっとあって。同じ言葉を同じタイミングで発していたり。こういったことを描けるのは映像の醍醐味だと思っており、見た人がそこを感じて何か想うような作品になれば良いなと思います。
また、普段「自分はずっと何も変わっていない」と思っていても、実は日々色んな人から影響を受けていて、少しずつでも変わるというか、成長、進化、退化もし続けていると思います。そんな「見えないつながり」が、どの作品にも常に根底にあると思います。
── 脚本を現場で変えるとなると、演技指導はどうされているのですか?
私から何かを言う前に、まず役者さんに本読みをしてもらいます。それを聴いて変な間があったりやりにくそうにしていたりで私の想像と違う箇所などは「このセリフや動きは、こういう意味で、このシーンのこの心情とつながっている」といった脚本の背景を伝えて、話し合い、再度本読みをして。これを繰り返して演技を決めていきます。実際動いてみて、元の案に戻ったりすることもあります。
── どちらかというと俳優の個性を生かす感じなのですね。こちらが決めたことに合わせて演じてくれというよりは、作品がこうだから、と。
そうですね。脚本よりも実際に演じる俳優さんが発するほうを選んでいくことが多いです。
── 俳優では着火塾の堀内英二さんはよく登場されますね。堀内さんは沖田さんの作品にとてもマッチしています。堀内さんを起用されるきっかけを教えてください。
堀内さんはどんな役もできますし、全体を見て自分でセリフや動きを加えてくれたりします。進行の声掛けや、優しくも言うべきことは言ってくれて、現場でよくテンパってしまう私も落ち着くことができ、本当に大きな存在です。
もともとは私がスタッフとして友人の映画制作を手伝っていたときに知り合い、打ち上げで意気投合しました。私も映画制作を始めるところだったので、一番に声を掛けたのです。そこからずっと出てもらっているので、たぶん最多出演です。その次は成瀬亜未さんですね。
── 他に起用される俳優さんはどのようなことがきっかけで出演してもらうのでしょうか?
私はNCW(ニューシネマワークショップ)の映画クリエイターコース・アドバンスで学んでいました。授業の一環で、学校のみんなと一緒に私の脚本で作品をつくることになり、オーディションもしました。その学校作品では出演頂けなかった人の中にも気になる俳優さんが多くいたので、今でも作品をつくる際に、その方々に声をかけたりもしています。今はSNSで発信されている方も多いので、イメージに合う俳優さんを探して直接DMすることもあります。
── 演出するにあたって、大事にしているのはどんなことでしょうか?
自分の意見を強く出せない性格で「こっちがいいな」と思うのに現場で言えないことがあるんです。でも、編集をしていて、みんなの意見を聞いて撮ったシーンのほうが面白い!と感じることがほとんど。結局、強く言えないのは迷いがあった場面だったのかも。それぞれアイデアを出し合えて、自分も関わるみんなにとっても映画づくりが面白い時間になればなと思います。
沖田監督のキャリア
── 映画をつくろうと思ったのはいつ頃からでしょうか?
友達夫婦の旦那さんが監督・撮影・脚本・演出を、奥さんが出演をして48時間映画祭に参加しており、それを手伝っていました。その姿をみて私もいつか自分で参加してみたいと思ったのがきっかけです。
NCWのアドバンスに通い、映像制作の流れやチームの役割分担についても学びました。
── やお80映画祭や福井駅前短編映画祭など、多くの映画祭で受賞されています。3年間で沢山作品をつくられていますね。
これまで48時間映画祭への参加が活動のベースとなっていました。48時間は、当初東京と大阪だけで。私が参加し始めた頃に福岡も開催地に加わり年に3回の開催となり、都合8回連続参加しました。それもあり作品を量産したように見えるのかもしれません。48時間に参加する合間にワンカットなどのおもしろそうな企画や、地元香川や、やお等の映画祭のコンペにも応募をしたり。
48時間映画祭は、先に準備ができるのはロケ地と俳優さんのみ。おおよその内容は考えておきますが、前もって脚本を固めすぎるとお題やジャンルを盛り込めなくなってしまう。なので、このイベントに参加することで、脚本、撮影、編集の流れを短期間で相当に鍛えられました。
── さまざまな映画祭で受賞されることは、映画づくりのモチベーションになっていますか?
普段映画を観ない人にも触れてもらうのが私の目標のひとつ。悩んだときに映画は心の癒しになると思います。短編映画だと入りやすいし、YouTubeでも色々な作品が観られます。忙しく働いていて、ごくたまに商業映画を見る、そんな人にこそ短編を気分転換に気軽に触れてもらえたらなぁと。一人でも多くの人に「シュンとしたときは映画を観よう」と思ってほしくて。映画祭で受賞している作品なら「おもしろいのかも」と、入りやすくなると思います。
映画祭が開催されればその地域の人が観に来てくれますし。受賞できれば、もし長編映画をつくったときにも「賞をもらった監督の作品なら観に行こうかな」と入場料を頂きやすくなります。俳優さんの魅力やスタッフの技術も、もっと多くの人に知ってほしいので、受賞や上映機会はその大きなキッカケだとも思います。もちろん自分にとっても賞を頂けることは凄く嬉しいです!
短編映画紹介
『鯛のムニエル』(ジーンシアターで配信)視聴はこちらから
ストーリー
__もしも時間を巻き戻せたとして、果たして”運命”は変わるのだろうか?
ここは、とある小さな居酒屋『金魚』。慌ててやってきた客の男は、今日ここにいたはずのアミに告白するつもりでいた。しかし仕事が長引いてしまった結果、もう店に彼女の姿はない。落胆した男は、壁に貼られた奇妙なメニューを見つけて……?
OSAKA 48 Hour Film Project2022で堂々の観客賞・脚本賞を受賞!
── 好きな映画監督、参考になる映画監督は誰でしょうか?
沢山いますが、伊丹十三監督です。作風はもちろん、『お葬式』は51歳で初めて映画を撮られた長編作品だそうで、私と年齢も重なるので。
── 作風も似ている感じがありますね。
え!すごく嬉しいです……!毒?があったり、いくつか別の話が同時並行で進んでいるのが、昔はよくわからなかったのですが。いま観ると、そこがおもしろく、何度も観たくなり、その時々のこるシーンが違っていたり。大好きです!
── 好きな映画は何でしょうか?
日によって変わるほど色々ありますが、ペネロペ・クルス主演の『ボルベール』が今うかびました。母親のおならの匂いを覚えているところとか。おもしろい、シニカル、泣ける、色がキレイといった色んな要素があり、凄くいいなと思います。
インディーズ映画について
── インディーズ映画は収益化が難しい側面がありますが、それでもつくるという映画監督としての理由やモチベーションを教えてください。
映画づくりはお金もかかり、人との関わりや自身の性格や力不足など…、色々落ち込むことも多く、毎回「これで終わりにしよう」と思うんです。でも「次はこの俳優さんでこういう作品をつくりたいな」と、やっぱり常に映画の事を考えてしまっています。そして、その妄想?を実際脚本に書くと完成を観たくなって。何だかんだ、やっぱりスキなんです、映画に関わる全部が。その繰り返しでやってきました。
── 自分のつくりたいものをつくりたい、という気持ちなのですね。
そうなんです。1年目は俳優さんやスタッフの皆にきちんとお支払いをしたくて資金面を意識していたのですが。今は「お金が関わると好きなものがつくれない」なぁと…。最初に支援いただくより、完成後いかに作品を周知していくかを考えています。
収益化すべく必死になっていた時期もあったのですが、相手の要望に沿ってつくるのは大変で。クラウドファンディングであっても、まだ作品ができていないうちに資金をいただいてしまうと「おもしろいものがつくれなかったらどうしよう」というプレッシャーで動きがとれなくなるので…。今は、自分が観たいもの、つくりたいものをつくっていけたら思っています。
── インディーズ映画の未来についてどのように考えていますか?
昨今は、自分で脚本を書いてスマホで撮影すれば、誰でも映画をつくれます。ただ、つくるにあたって「お金を生みたい」「仕事にしたい」など、人それぞれのスタンスがあって。インディーズ映画の未来も人それぞれあって良いと思います。業界として何か変えたい、というモチベーションでつくっている人もいると思います。私のような「お金をもらってしまうとつくれない」という人には会ったことがないですが(笑)。
── 今後はどのような活動をしていきたいですか?
いまのところ自作品での最長が30分。それ以上の長編をいずれは…。それと、今年はゼロから作品を撮ってみたいです。
今まで48時間映画祭のお題や映画祭のテーマやルール、福井での撮影、原作ありき等の「前提」があるものしかつくったことがないので。
果たして自分が何もないところからつくれるのかを試してみたいですね。
この映画監督の作品
井村 哲郎
以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。
自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。