吉祥寺は漫画家やアニメ制作プロダクションがひしめく街
──第18回(2023年)を迎える 「吉祥寺国際アニメーション映画祭」ですが、そもそも映画祭はどのような形で始まったのでしょうか。
吉祥寺は漫画家や作家、アニメ制作プロダクションなどが多く点在する街です。2005年、やはり武蔵野市在住の京都精華大学マンガプロデュース学科の教授をされていた編集家の竹熊健太郎さんが提唱され、この街からアニメ作品や映画を生み出せたら面白そうというのが、映画祭が始まったきっかけだと聞いています。
最初は「吉祥寺アニメワンダーランド」というイベントの一部門でしたが、年々数多くの素晴らしい作品が集まるようになり、映画祭で受賞された作家さんたちが活躍する場面も増えてきたので、第16回から映画祭単独で開催するようになりました。
── 吉祥寺国際アニメーション映画祭から世に出たアニメーション監督には、どんな方がいらっしゃいますか。
ストップモーション・アニメーションとして人気の高い『PUI PUI モルカー』の見里朝希監督や、『ポプテピピック』でアニメ界を震撼させた青木純監督などがいらっしゃいますね。その他にも、たとえばアニメ制作会社で作画を担当される方など、多くの方がアニメ業界の様々なところで活躍されています。
「いい作品は何でも評価する』が映画祭のポリシー
── 吉祥寺国際アニメーション映画祭の特色を教えてください。
通常のアニメーション映画祭の場合、一般受けするものや作画がきれいなものなどが受賞する傾向があると思います。でも私たちの映画祭では「いい作品は何でも評価する」ことが基本です。短編作品でも、一般の人伝わりにくいような芸術的な作品でも、いい作品はしっかり評価します。ギャグアニメ部門賞があるのも、世界の中で吉祥寺アニメーション映画祭だけかもしれません。
あとは、スタジオ4°Cさんなどアニメ制作会社さんに審査協力をお願いしていおり、作り手側の目線から作品を審査している点も特長だと思います。
── ギャグアニメ部門の他にどのような部門があるのでしょうか。
応募部門としての設定はしていなくて、グランプリ・ギャグアニメ部門賞・ストップモーション部門賞という受賞枠を作っています。こちらが勝手に評価するので、制作者が全く意図していないのに、なぜかギャグアニメ部門賞を受賞するということもありえます(笑)。
企業賞とギャグアニメ部門賞のダブル受賞もありえますし、グランプリ該当作品なし、ということもあります。一切の忖度がないという意味では、公正・公平な審査をしていると思いますね。埋もれていた作品が吉祥寺アニメーション映画祭で日の目を見ることも十分にありえます。
審査員は全員アニメーションのプロフェッショナル
── アニメ制作会社さん以外の審査員は、どのような方々なのでしょうか。
アニメーション史研究家の津堅信之さんや『チェブラーシカ』の中村誠監督など、アニメーションのプロフェッショナルの方々にお願いしています。一般企業が審査に加わらないという点においても、商業的価値というより、いかにクリエイティブかという点で作品の審査が行われています。
── どのような方々がどういった作品を応募してくるのでしょうか。
応募者も応募作品も幅広いですね。学校に応募要項を配布していることもあり、学生さんからの応募も多いです。学校の卒業制作の作品とか。個人の方が1人で作られた作品もあれば、共同制作の作品もあります。
ジャンルとしては、最近ではストップモーション・アニメーションの作品が増えている気がします。中国・韓国の方やアヌシー国際アニメーション映画祭で優秀賞をとった方から応募があるなど、年々広がりを感じています。
── 今回(2023年)の映画祭の見どころを教えてください
グランプリ審査を2月26日に武蔵野公会堂で行いますが、授賞式後に審査員の皆さんと受賞作品の講評セッションを企画しました。スペシャルゲストとして『機動戦士ガンダム』シリーズを手がけた安彦良和氏をお招きしており、これからの時代を担うクリエイターたちへの激励なども頂けるのではないかと思っています。ぜひ楽しみにしていてください。
目指すのは「吉祥寺“国際”アニメーション映画祭」
── インディーズアニメ映画の現状をどのように思われますか。
YouTubeやTikTokの登場で、作品が日の目を見る機会が増えた一方で、あまりにも数が多すぎて、いい作品が埋もれてしまっているようにも感じます。アニメ=オタクといった見方もなくなり、制作者も作りやすい状況になったけれど、なかなか評価してもらえないのが現状です。正当な評価を受けられる仕組みが必要だし、その手助けができればと考えています。
日本で生まれた素晴らしい作品や豊かな才能が、海外に流出してしまうのはもったいない。日本の財産として、国がアニメ業界を積極的に支援してくれたらうれしいですね。
── 今後、映画祭をどのように発展させていきたいですか。
埋もれている才能を見つけ出し、吉祥寺アニメーション独自の評価をしていきたいですね。クリエイターと企業のマッチングや吉祥寺という街からのバックアップなど、できることからやっていきたい。さらに素晴らしいアニメーション作品を世界中から集めて、ゆくゆくは国際的な映画祭にしていきたいですね。「吉祥寺“国際”アニメーション映画祭」を目指します!
井村 哲郎
以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。
自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。