──「TOHOシネマズ学生映画祭」の成り立ちを教えてください。
TOHOシネマズ学生映画祭は2007年春に、八王子にある「TOHOシネマズ南大沢」で第1回目が行われ、2024年3月に第17回目を迎えます。南大沢は学生がとても多いエリアなのですが、当時は学生映画を披露する場があまりなかったので、そのような作品が披露される場所をつくったら地域活性化にもつながり、盛り上がるのではということで始まったそうです。
この1回目がとても良いイベントだったということで、どんどん広げていこうと。一時期は、東は南大沢、西は京都の二条で予選会をやって、決勝会場がお台場というような年もありました。「お台場シネマメディアージュ」が閉館するタイミングで会場を日本橋に移し、2019年からは「TOHOシネマズ日比谷」で開催しています。
コロナ禍で少し間が空きましたが、基本的には年に1度、毎年3月に開催しています。3月は卒業制作の方の作品も学生のうちに出せるギリギリのタイミングですしね。大学4年生も学生として最後の活躍の場にしていただければという思いで、有志の大学生が中心となって運営しています。
──映画祭のミッションやコンセプトを教えてください。
学生だけではなくTOHOシネマズさんとタッグを組ませていただき、プロを目指す方の登竜門となれるような映画祭を目指しています。今まさに第一線で活躍しているプロの方々に、学生クリエイターやスタッフが関わった作品を見てもらう機会を用意することで、映画業界や映像産業で活躍するための入り口になれるような、未来のキャリアにつながるような場にしたいと思っています。
昨年の応募作品は226作品で例年200作品前後が集まりますが、今年は250作品を目指しています。
バラバラの場所にいた学生が一体となって映画祭の運営を担う
──主に運営業務を担うのは学生さんが中心ということですが、どのような部分が大変に感じられますか?
例えば映画祭で行うプログラムでどんな方に出演いただくのか、企画段階から学生の実行委員会で決めてオファーします。自分たちの力で企画を練り上げて、プロの方にプレゼンし呼び込むという部分がとてもシビアで大変ですね。
学生ではなく社会人の方同士で話していただいた方がスムーズに進むかもしれないようなところも学生の力で行なっていくので、学生同士の活動レベルでは終われないところが難しいと感じています。
──今、活動する上での課題はどんなところに感じていますか?
一番の課題は、実行委員同士のコミュニケーションにあります。というのも実行委員は同じ大学、同じサークルに所属する知り合い同士などではなく、映画祭に興味を持った人たちが個人単位で集まっているんですね。最初のうちはどうしても役職を持っている人や、責任感や積極性の強い人が中心になって進めがちなので、せっかくやりたいと思って集まった人たちがバランスよく参加ができない部分が生じます。
20 人を超える実行委員の中には、すごく映画が好きという人も入れば、イベントを運営することに興味を持った人もいますし、映画祭というお祭り自体が好きという人もいて、目指す方向が少しずつ違う部分もあって、今はその差が結構大きいかなという風にも感じています。
──実行委員長としてはまとめるのが大変ですね。
そうですね。私がもうちょっと頑張らないといけないかなと思っているんですけど。
みんな初対面からスタートして、スムーズにコミュニケーションが取れるようになるまで、チームとして成熟するまでにはまだ少し時間がかかるかなと。でも最近はどんどん、意見も出るようになってきているとも感じています。毎回、活動期間は半年程度あるので、映画祭当日にはしっかりまとまっていて、映画祭以降もスタッフ同士の関係がずっと続いていくことも多いんですよ。
特に大学も出身の場所も全然違う人たちが集まっているので、実行委員に参加しなかったら絶対会わなかった縁だと思うんですね。でも、大体の人が映画好きで集まっているので、そういう繋がりを持って集まれるっていうのはいいなと思っています。
ノミネート作品は全て映画館の大スクリーンで上映
──ノミネート作品が「TOHOシネマズ日比谷」でも500席近くある大きなスクリーンで上映されるというのは、応募者にとってもとても大きなモチベーションになっているのではないかと感じます。
そうですね。2回の審査を経て選ばれたノミネート作品が全て上映されるので、受賞された方へのインタビューなどでも、自分の映像作品や自分が担当したBGMが、映画館のあの大きいスクリーンやスピーカーで流れたっていうところに1番魅力に感じたという声が多いです。そこがすごく強く記憶に残っているというお話を多く聞いています。
私が別の映画祭でボランディアに行った時に聞いた話ですと、コロナ禍の影響で自分の作品を持ち込んでいた映画館が閉館になったりして、上映される機会自体が少なくなっていたようなので、やはりスクリーンに作品が映る機会があるということは、特に今は大きいことなのかなと感じています。
──映画祭の当日はノミネート作品を全部流した後、最終審査を経て受賞作品を決めて、授賞式までやるっていう形ですね。かなり長い1日になりそうです。
そうですね。ノミネート作品を流して審査員に見てもらい、審査時間中に企画プログラムをやらせてもらって、結果発表という流れです。受賞作品が発表されたら受賞者のコメントをいただき、そして写真撮影みたいな。1日で完結させるので、イベント自体が結構長いですね。
──アカデミー賞のように、当日までどの作品が受賞するのかわからないというのはスリリングで面白いですね。
そうですね。受賞作品の監督にインタビューすると、名前呼ばれて驚いた、どうしたらいいかわからなかったなんて声もよく聞きます。
実際に活躍の場を提供する「GEMSTONE賞」も
──「TOHOシネマズ学生映画祭」で受賞されて、現在プロとして活躍されている方はもういらっしゃるのでしょうか。
最近だと『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』でキャラクターデザインを担当された谷田部透湖さんですね。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では副監督も担当されています。そのほかにもドラマやアニメーション作品、映画の監督をされている方、CMディレクターをされている方など多方面にいらっしゃいます。
──「TOHOシネマズ学生映画祭」の賞では、受賞後に活躍の場所が用意されている「GEMSTONE賞」がユニークだなと思います。
「GEMSTONE Creative Label」という制作レーベルにて新作の映像制作に携われる権利が付与されるのですが、それだけに受賞基準はとてもシビアです。昨年は残念ながら該当なしになってしまいましたが、業界への一つの入り口として、たくさんの方に目指していただきたいですね。
── 一次審査、二次審査、最終審査のなかで、一次審査は実行委員会で行われますね。200を超える作品を選考するというのは、かなり大変なのではないですか?
みんなで見ていますが、やっぱり大変です。先ほどお話した通り、実行委員のメンバーもいろいろなタイプがいるので、どういう基準で選考していくのか、基準を決めてそこに沿って選考していくというのはとても大変な作業です。
TOHOシネマズの社員の方や、最終審査を担当される審査員の方のご意見などお聞きしながらミーティングでどういう基準にするかというのをしっかり話し合った上で審査は進めているんですけども、みんな学生で忙しく大変な中でつくっているというのも、同じ学生だからこそわかるので、見える頑張りや工夫も含めて、学生だから出来る審査を心がけています。
── 二次審査は学生の実行委員とTOHOシネマズの社員の方が作品を見るということですが、二次審査でどのくらいに絞られるのでしょうか。
例年ばらつきはありますが、一次審査にて約半数ぐらいの作品が二次審査に進みます。
二次審査を経て、映画祭当日には約20作品ほど上映されます。
──どういう作品が多いなどの傾向はありますか?
ショートフィルムだとキレイにオチがあるドラマみたいなものが一番多くて、たまにこう、笑える要素があったりとかあるんですけれども、社会問題をテーマにするみたいなものよりも、学校生活だったりとか、大学生の日常などつくり手に身近なテーマを取り上げた作品が多いのかなという風には思います。
それに加えて、やっぱり卒業制作のためにつくったという方が多くて、受賞者の方には学生生活の最後に才能を認めてもらえて嬉しいと話される方も多いですね。
誰でも応募ができて若き才能を発掘できる映画祭を目指したい
──過去には最終審査で声優や俳優として活躍をされている津田健次郎さんや、映画『ゴジラ-1.0』で監督を務めた山崎 貴さんなど、著名な方が最終審査を担当されています。最終審査の審査員は今年はまだ発表前ですが、今後も含めて、この映画祭をどのように発展させたいと思っていらっしゃいますか?
今までの学生映画祭というと、撮影技術などを専門的に学んできた人がキレイな作品を出すというのが主流だったと思うのですが、今はスマートフォンのカメラ性能も上がってきていて、誰でも映像を撮れる時代になりつつあります。だからこそもっと気軽に、誰でも応募できるような映画祭に発展していって欲しいです。
興味はあるけど専門機材がないから撮れないという人も少なくないと思うんですね。でも荒削りな作品でも、ノミネートされればプロの人に見てもらえるチャンスが手に入るわけですから、もっと幅広く応募される方が増えるといいなという風に思っています。
また、作品を見に来られる方には、将来の映像監督を先取りして見たい!というような心持ちで、期待を持って足を運んでくださる方が増えると嬉しいですね。
開催概要
第17回 TOHOシネマズ学生映画祭
第17回 TOHOシネマズ学生映画祭 概要
日程:2024年3月28日(木) 14:00 開始 20:00頃 終了予定
会場:TOHOシネマズ 日比谷 スクリーン12(東京宝塚ビル地下)
料金:入場無料
協賛:コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 都築電気株式会社
後援:株式会社ロボット GEMSTONE Creative Label TOHO animation
上映作品タイトル
◾️SF
『愛してよサバイブ』
『ボウル ミーツ ガール』
『變化拍』
『悪夢、ストリートスナップ』
『罪業流転』
『THIS/SME』
◾️SA
『クロ子』
『にわとりはじめてとやにつく』
『まひるのおばけ』
『まよなかの探しもの』
『いにみにまにも』
『エスケイプ』
◾️PV
『私は映画と出会う』
『With POP & COKE』
『#POP&COKEは魔法だ』
『変わらない相棒』
『これがなくっちゃ始まらない!!!』
『映画戦士 ポップアンドコーク』
◾️U-18期待枠
『PICTO』
井村 哲郎
以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。
自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。