34回目を迎える東京学生映画祭の開催のきっかけ
── 東京学生映画祭は今年で34回目ですね。映画祭としてとても歴史がありますが、どのような経緯で設立されたのでしょうか?
もともと1987年に、早稲田映画祭りという早稲田大学のサークルの合同上映会があったんです。早稲田映画祭りで知り合った有志たちで早稲田映画祭りとは別に、1988年に約15の大学で学生映画の上映会を行ったのが始まりです。昔の資料を読むと、1988年は今のようなコンペではなく、参加した大学の学生が自分たちでつくった映画を上映して、プロの審査員を呼んで講評してもらうというスタイルだったようです。第5回目の開催からコンペ形式になりました。
── 東京学生映画祭のコンセプトを教えてください。
「旅に出よう」というキャッチフレーズがありますが、これは東学祭がひとつの“出発点”であってほしいと思って使っています。今年に関してはコレ!というコンセプトはないんですけど、学生のための映画祭なので、学生監督や制作に携わるスタッフが将来を目指して映画業界とつながる架け橋になれたらと考えます。
── 東京学生映画祭が目指しているものを教えてください。
まずは、今まで34回も続いてきましたので、この映画祭をさらに続けていくことが目標です。
本映画祭は世界で一番古い学生映画祭といわれていて、学生だけで運営している映画祭は世界を見ても東京学生映画祭だけなんですね。ベネチアにも学生が主体の映画祭があるんですが、それもまだ20年くらいのキャリアですから。
さらに、東京学生映画祭が学生と映画業界で働くプロの人々が出会う場所になることも目指しています。
有名な映画監督も審査員に名を連ねるコンペ部門
── 東京学生映画祭はコンペと特別企画がありますね。まずコンペから伺います。今回の応募数や審査方法を教えてください。
今年は216作品の応募があり、その中から上映するのは21作品になります。審査は1次から3次までは私たち運営本部が手分けして観ていますが、最終審査はゲスト監督の審査員にしていただきます。
1次から3次審査の基本はディベートで進めていて、形式的なディベートというより激論を戦わせるような感じです。ひとつの作品にすごい時間をかけて話しているときもあります。
今回、とても印象的なことがあったんです。私が推した作品に関して全体の意見が割れてしまった場面がありました。議論は長引いて自分に賛同してくれる人も少ない状況で、「もういいや」と思ってしまったんですね。でも、その時に「自分たちには選ぶ責任があって、賞をあげたいと思う作品はとことん推すべきなんじゃないか」という意見が同じ運営スタッフの磯部さんから出て、その言葉が胸に刺さりました。
来年、自分がセレクションするとき、きっとその言葉を思い出すだろうなと。東京学生映画祭スピリッツとして、心に留めておきたいと思いました。
── 最終選考に残った作品は渋谷のユーロライブで上映されるのですね。
今年は8月18日から8月20日のスケジュールで開催します。
私は映画をつくったことがないので詳しいことはわからないのですが、それでも作品を観て「すごく手が込んでいるな」「カメラワークを工夫しているんだな」という作り手の情熱を感じるときがあるんです。思いを込めてつくられた作品が上映される場があるというのは、とても意味があると思います。
── 最終選考に残った作品は渋谷のユーロライブで上映されるのですね。審査員は5名。実写短編部門、実写長編部門は首藤凛監督、長谷川和彦監督、石井岳龍監督、アニメは幸洋子監督、原恵一監督ですね。すごい方々が審査されるのですね。どうやって交渉したのですか?
運営チームの中で審査員をお願いしたい人について意見を出し合い、ジャンルや方向性に偏りがないようバランスを考えながら選ばせてさせていただきました。すでに映画業界で活躍されている方のなかには学生映画出身の方も多いですし、特に石井岳龍監督は日本の自主制作映画のパイオニアのような方ですから。ご自身のお仕事が忙しいのにも関わらず、皆さん我々の依頼には快くお返事くださいました。
── 受賞はどのような賞があるのでしょうか?
年によって変わる部分もあるんですが、基本的には「観客賞」「審査員特別賞」「グランプリ」になります。
たとえば去年は上映作品がそもそも少なくて12作品だったんですね。「審査員特別賞」で3作品が受賞して、「観客賞」「グランプリ」含めて12作品のうち6作品が賞を取ったんです。
今年は実写の長編、短編、アニメの部門でグランプリと審査員特別賞を設けています。また、観客投票による観客賞は部門関係なく全体から選出します。
大林宣彦監督とオダギリジョーさんにまつわる特別企画
── 特別企画についても教えてください。今年はどのような企画を行うのでしょうか?
今年は特別企画が2つあり、大林信彦監督とオダギリジョーさんをピックアップしています。
まず『大林宣彦と学生映画=いつか見た夢たち』ですが、大林監督が学生映画を撮っていた頃の情熱を今の学生にも見てほしいと思い企画しました。
僕は本映画祭の運営を2年やっていますが、たくさんの学生映画を観て思ったのが「みんな上手だな」ということなんですね。デジタルや技術の発達もあって、フィルムで映画を撮っていた時代とは比べ物にならないくらい、技巧という点では高いレベルの作品を今の学生はつくっているんです。それはそれですごいんですけど、「ちょっと上手くなりすぎていないか?」とも感じています。僕はフィルム時代の自主制作映画をよく観るんですが、昔はプロのような技術がなくても、それを補うアイデアやこだわりがあったと思います。技巧的に下手でも思いが伝わる作品があったんですね。
今は、昭和期の自主制作映画を観られる機会がほとんどないので、映画を志す学生にはぜひ見てほしいです。当時の空気感を伝えられればと思っています。
もうひとつの『オダギリジョーさんの特別講義』ですが、オダギリさんはアメリカ留学をしてエンタメを学び、帰国後にメジャー作品と自主映画作品を行き来するような活動をされています。俳優だけでなく監督もされていますし、幅広く映画界に貢献されている方なので楽しみです。
オダギリさんが映画をどう考えているのか、学生監督やクリエイターに対する思いを伝えてもらいたいと思います。
── 学業との両立が大変かと思います。具体的にどんな運営状況になっているのでしょうか?エピソードがあれば教えてください。
学生だからこその苦労は確かにあるんですが、そこが東京学生映画祭の良いところだと思っています。協賛企業はいますが運営自体を手伝ってくれる大人はいなくて、映画祭の企画も進行も広報も全部自分たちでやるので、学生ならではの空気感は大事にしたいです。
個人的には、何か発言すればちゃんと聞いてリアクションしてくれるムードが好きで、安心感を覚えています。自分が言ったことに対して真剣に反応が返ってくるんです。東京学生映画祭のような議論が繰り広げられる場面はほかにあまりないですし、私はそういう雰囲気がすごく好きです。ストレートに意見交換し合い、協力して進められるというのが東京学生映画祭の良いところだと思います。
── 過去に東京学生映画祭で受賞した監督にはどんな方がいますか?
初期でいうと、青山真治監督が受賞されています。ここ最近でいえば、山戸結希監督が審査員特別賞 を取って、当時の審査員を務めたのが井土紀州さんだったんですが、のちに井土さんが脚本を書かれて、山戸さんが監督をされるカタチで「溺れるナイフ」(2016年)を制作されています。
また、中村義洋監督が受賞されたときの審査員が崔洋一監督で、中村監督が崔監督に「助監督をやらせてください」と申し出たことで本格的に映画界に入ったというエピソードもあります。
こういった東京学生映画祭での出会いがのちの活躍につながっているケースは少なくありません。
── 東京学生映画祭をどのように発展させていきたいですか?
東京学生映画祭は学生が運営するものなので、スタッフには代替わりがあってどんどん移り変わっていくのですが、「学生監督と業界をつなぎたい」という意志はずっと変わらずにあります。そして、学生がつくった映画をもっとたくさんの人に観てもらいたいと思っています。コアファンはいますが学生映画はまだまだメジャーではないので。私もこの映画祭にスタッフとして参加するまで、学生がつくった映画を観たことがありませんでした。東京学生映画祭が学生映画を広く一般的に観てもらえる場になればいいなと思います。
開催概要
第34回 東京学生映画祭

開催情報
日時 : 2023年8月18日(金)〜 8月20日(日)
場所 : 渋谷ユーロライブ(渋谷駅から徒歩 9 分)
東京学生映画祭とは…
東京学生映画祭とは「東学祭」の名で知られる国内最大規模の学生映画祭です。
学生の制作した映像作品を全国から募集しており、コンペティション形式でグランプリを決定します。企画・運営の全てを学生のみで行っており、学生ならではの自由な発想や感覚を大切にしています。学生映画と映画界全体の振興に貢献し、映画を志す学生と映画界の架け橋になることを目的としています。
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井村哲郎
以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。
自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。