ジーンシアターで配信している作品について

── ジーンシアターでは『潜入!アイドル自宅訪問』と『オムニバスSF映画「リモートゥ・ザ・フューチャー」』の2作品を配信しています(2023年8月現在)。まず『潜入!アイドル自宅訪問』について伺います。アイドルの裏側を見せて、見ている人が共感できないキャラクター設定をしていますね。いい人が襲われるのがホラーの王道だと思うのですが、共感できない人が襲われる設定にしたのは何か意図があったのでしょうか?

まさにそれが大きな狙いです。視聴者から好かれているヒロインが襲われると、見終わった後の不快感が大きすぎてしまうので、視聴者から共感されていない主人公が襲われることで「襲われても当然だ」という風に見てもらいたかったんです。主人公が共感されにくいように、例えばファンと握手した手を、嫌な感じで文句を言いながら洗うような演出にしました。

── ストーリーもシンプルで面白いですが、どのように思いついたのですか?

基本的に、映像の中で幽霊は見えてしまったら怖くなくなる。でも幽霊がいないと幽霊ホラーにはならない。こんな矛盾が常にあると思っています。その中でどうやって幽霊を見せず怖がらせるかと考えた時、「スマホで自撮りしていたら顔認証が何もない空間で起動する」という絵が最初に浮かびました。そして自分の家の中の誰もいない空間に顔認証が起きたら怖いだろう、家の中で自撮りするならアイドルかな、という順番で構成を考えました。

── 最初から最後まで目が離せず、引き込まれます。演出や撮影でのこだわりを教えてください。

映画をつくる時は基本的に全カットの絵コンテを描くのですが、照明のあたり方やレンズの選択などを事前に考えて現場に持っていくことにしています。特にホラー映画は、この位置に幽霊が出てくる、といった1カットずつの緻密さは事前に考えておかないと良いものにならないと思っているので、すごくこだわっています。

短編映画紹介

『潜入!アイドル自宅訪問』(ジーンシアターで配信中) 視聴はこちらから

ストーリー

アイドル活動をする女の子。家に帰っても、その仕事は終わらない。したくもない握手会を終えた後は、SNSの更新が待っているのだから。ファン達へ思ってもいない感謝を書き連ね、お決まりの自撮り写真を投稿する。
インカメラにして、ポーズをとってみるが…
(__ あれ?おかしいな。)
そのスマホのピントが合わされる先は、女の子の背後なのだった。

──『オムニバスSF映画「リモートゥ・ザ・フューチャー」』について伺います。これはホラーでもありながらコメディ要素が満載ですが、コメディ要素を意識してつくられたのですか?

コメディをつくろうとか、ホラーをつくろうという意識はなくて、どちらかというとSFを目指していました。あの頃はコロナ禍でクリエイターはどう作品をつくっていけばいいのだろうという空気感があり、Zoomを軸にした作品ができると考えた時にSFの題材を思いつきました。
Zoomを活用するとなると絵的にSFは難しく、役者の掛け合いを優先した結果としてコメディ要素が強くなりました。後半はリモートの空間を活かしたホラーの演出もありかなという自分の好みが出て、徐々にSFから外れていきました(笑)。結果的にSFでありコメディでありホラーである、という作品になりました。

短編映画紹介

オムニバスSF映画「リモートゥ・ザ・フューチャー」』(ジーンシアターで配信) 視聴はこちらから

ストーリー

ウェブ通話サービス、「Zoom」に視点を置いた短編SF、3本立て。
#1 コロナ失恋

恋人から別れを告げられ、落ち込むも束の間。画面にはもう一人、の自分の姿が。どうやら、そこには別れた後の自分の行動が映し出されている…?
#2 心の声?

「早く会いたいねー」「うん、俺も」なんて、画面を通して仲睦まじくお喋りを楽しむカップル。しかし、空気が一変。怒りに満ちた表情の彼女が、もう一人現れ…。
#3 1分後に死ぬ私

オンライン飲み会を楽しむ女性4人。そろそろお開きに、と皆が退出していく。1人残った女性の画面には、驚くべき姿の自分が映し出されており…。

ホラー作品の演出に対する考え方について

── 三重野監督の演出について伺います。ホラー作品を数多くつくられていますが、ホラー作品にこだわるきっかけや理由を教えてください。

本音を言うと、ホラー映画1本でやろうという意識はあまりないです。
もともとSF、アクション、サスペンス、ホラーの「ザ・娯楽映画」が好きだったのですが、特にホラーは他のジャンルと違って絵的にそのジャンルを体現しやすいですね。映画をつくり始めた高校3年生の頃、ホラーならやりやすいと思ってつくり始めました。ホラー以外もつくりましたが、映画祭含め評価していただけるのはホラーが多かったので、自分はホラーが向いているんだと思ってホラーばかりをつくるようになりました。
全カット絵コンテをかかないと気が済まないとか、カメラの位置や照明の位置まで事前にある程度考えたいという心配性な性格がホラーというジャンルと相性が良かったみたいで、それで高く評価してもらえる作品がつくれるようになったのかなと思います。

── 怖がらせる演出で気を配っている部分があれば教えてください。

ホラー映画はパターンが決まっているので、まずはその「型」をしっかりと認識することです。例えば気づいたら背後に人が立ってて、それがボケていて何がいるかよくわからないのが怖い、といった「型」があります。誰もいないと思ったら急に人がいるとか、ピアノの音が鳴ったと思ったら猫がピアノの上を歩いているのも「型」ですよね。その知識が自分の中に蓄えてあり、このお話だったらこの「型」が使えるかなと組み込んだり、一方でその「型」をあえて破ったり、一つひとつの「型」をうまく映像に当てはめていくことを意識しています。

── ホラーは他ジャンルより演技が重要だと思っています。三重野監督はうまく演じさせていると感じますが、俳優さんの演技指導などはされていますか?

俳優が脚本から読み取ったものを現場に持ってきて、それが大きくズレていなければ、基本的にはほぼ口出ししません。ただ、もう少し補足すると、バランスはとても考えています。感情やキャラクターは置いておいて、「本当に怖い時って声上げるでしょうか?」と問いかけてみたりはしています。実際の現場では、幽霊とか怖い現象は起きていませんが、本当にそうなったときにどういうリアクションをするのかは自分で考え、俳優が脚本で読み取ったこととバランスを取っています。

── リアリティを追求されているということですね

そうですね、ここまですると芝居に見えてしまうというラインには気をつけています。
『潜入!アイドル自宅訪問』と『リモートゥ・ザ・フューチャー』のラストも怖い人が出てきますが、叫び声を上げるところまで持っていかないですね。呼吸が速くなるとか、涙を流すとか、本当に涎が出るとか、カット単位で芝居の強弱を調整しています。

──「恐怖」には幽霊系のものや、サイコ系がありますが、三重野監督は両方つくられていますね。幽霊系の演出とサイコホラー系の演出や脚本で何か違いがありますか?

実は違いがないのでは、と考えています。幽霊にしてもサイコホラーにしても、語りすぎないことが大事だと思っています。人物について冒頭で語るのは映画の基本ですが、そこで語り過ぎないことは、恐怖ものを作る上で後半に活きてきます。
『潜入!アイドル自宅訪問』でも手を洗っているだけで、彼女がアイドルをしている姿は省略しても進められる部分です。いかに全体のバランスを見て最初で説明しすぎないかが、ホラーに効いてくる技の一つだと思います。

三重野監督のキャリアと最新作『NEW GENERATION/新世代』について

── キャリアについて伺います。三重野監督はホラー系自主映画以外にユニクロのCMや乃木坂46の個人PVなど、さまざまな映像制作をしていますね。そもそも映像系を仕事にしようと思ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

映画は小学生くらいからずっと見ていました。高校3年生の頃、大学の映像学科に推薦で早い時期に合格が決まり、時間があったので友人に声をかけて、自分でカメラを回してアクションホラーコメディみたいな作品をつくったのが一番最初です。その後は大学で、授業でもサークルでも映画をずっとつくっていました。
卒業後は、シネアドの営業をする会社に就職しました。1年くらい勤めていて土日で友人たちとつくった『潜入!アイドル自宅訪問』がNHKミニミニ映像大賞のグランプリを獲得したことがきっかけで、映像制作会社に転職しました。そこでユニクロさんといったクライアントワーク、生駒里奈さん主演のホラー映画『ROOOM』をつくったりしました

── 生駒里奈さん主演の映画も監督をされていたのでしょうか?

そうですね。60分くらいの中編で、配信限定の映画です。劇場公開映画ではなく、スマホでLINEのチャットに参加しながら映画を観るという変わった試みです。

── 今話題になっている最新の『NEW GENERATION/新世代』がSSFF(ショートショートフィルムフェスティバル)やゆうばりファンタスティック映画祭で入選されましたね。『NEW GENERATION/新世代』はどういった映画なのでしょうか?

角川の日本ホラー映画大賞のためにつくった作品です。既存のホラーとは違った形で何かつくれないかという思いが最初にありました。
ホラーや恐怖の「型」をどうすれば違う見せ方ができるかなと考えていて、ホラーの怖いドキドキと恋愛のドキドキって実は似ていると思い、その区別がつかなくなっていく男が題材になったら面白いのでは、と考えて生まれた作品です。恋愛がよく分からない主人公が、可愛いらしい新入社員を宇宙人なんじゃないかと疑いだして恐怖心を抱きながらも、可愛らしいが故に恋も同時にしてしまう話で、目の前でのやり取りはホラーなのか恋愛なのかが、主人公の中で分からなくなるSFホラーコメディですね。

アルフォンソ・キュアロン監督が理想の監督

── 三重野監督が影響を受けた映画監督は誰でしょうか?

映画の監督としての一番の理想像はアルフォンソ・キュアロン監督です。『ゼログラビティ』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『ROMA/ローマ』とかつくっている監督です。作品のテーマ、核があって物語も面白く、常に新しい技術を取り入れるバランスの良さ、その上で俳優に対してのアプローチ、撮影や編集などの技術的な部分も人物的な部分も含めて尊敬しています。
一番好きになった理由は、ハリーポッターの4作目以降をやらなかったのが、家族と一緒にいたいからずっとイギリスに行って撮影を長いことやるのが嫌だという理由で断ってると聞いて(笑)この人信頼できると思い、人柄も含めて好きです。

── 三重野監督が怖いと思うホラー映画3本を教えてください。

一番は『悪魔のいけにえ』です。この映画の凄さは、その凄さが言語化できないことです。リメイク含め似たような構造の映画のどれを見てもこの映画にかなわないです。撮影がすごく上手とか血の量がすごいとかでもなく、とんでもなく怖いって本当にすごい映画だなと思います。
2番目が2013年の『死霊のはらわた』のリメイク版です。これは言語化できる面白さがあって、明確にアングルのセンスや照明のあたり方、こういうことをしたら怖いというオンパレード。映画のクライマックスで血の雨が降るのですが、絵的な迫力がすごすぎて(笑)その面白さ気持ちよさ、これだけホラーをつくってて耐性がある人間でも「ああ、これはすごい怖い、グロいな」と圧倒されます。
3番目は『スクリーム』です。自分がホラー映画をつくろうと思ったきっかけの1本にもなります。ホラー映画の殺人鬼はすごく強くて怖いというのが基本の「型」ですが、『スクリーム』は殺人鬼が強くない。ミステリーの要素も入れながら、強くないがゆえに発生する笑いなど細かい演出も含めてメタホラー映画をやっているのは本当に面白いと思います。自分が『NEW GENERATION/新世代』など作品をつくっていくときに、何か新しい1本をつくるってこういうことなんだなと思い出させてくれます。

インディーズ映画業界について

── インディーズ映画は収益化が難しいですが、それでもつくり続けたいという映画監督としての理由やモチベーションを教えてください。

シンプルな回答になりますが、ただただつくりたいだけだと思います。収益が出ない映画をつくることははたから見たら、別にやらなくてもいいことだとは思います。それでも自分も含めインディーズ映画をやっている人がたくさんいる理由は、本当にただつくりたいからだと思います。自分の場合だと『潜入!アイドル自宅訪問』の自撮りカットとか、この絵を撮りたい欲みたいなものに突き動かされています。

── 今後はどのような活動をしていきたいですか?

『NEW GENERATION/新世代』は、自分の中ですごく力を入れてつくった作品で、自主制作でやれることはやり尽くした思いは少しあります。あれ以上の作品をつくるには、自分の中の価値観や考え方、映画作りの手法を変えないとステップアップは難しいと思ってしまいました。
今後は海外にいって勉強したり、俳優や脚本の学校に通ったりできたら、自分の中に蓄えができると思うので、いい作品をつくるための準備は今後も続けていきたいと思っています。

Profile
三重野広帆
映画監督、映像ディレクター。 ホラーを軸としたシリアスな映画作品から、お笑い芸人を起用したCMやYOUTUBE動画まで幅広く演出する。 元乃木坂46の生駒里奈主演のホラー「ROOOM」や乃木坂46 27th個人PV、ミルクボーイが出演する「ユニクロ21周年CM」、YOUTUBE動画「志田未来、髪を切る」などを監督。 商業作品のみならず、自主映画においても全国の映画祭で多数受賞。

インタビュアー
井村 哲郎

以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。

自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。