幻想的な画づくりの『青い竜は少女を乗せて』『雪柳』
── まずは『青い竜は少女を乗せて』について伺います。少女の成長を描いている作品ですが、登場人物に女性の車掌という少し珍しいキャラクターが登場したのが印象的でした。
確かに女性の車掌さんは珍しいですね。福井県のえちぜん鉄道では女性の車掌さんがいるんです。私も福井で育ったのですが私の友達にも一人、車掌になった子がいました。

── タイトルの『青い竜』というのは電車のことを指しているのだと思いますが、どういった意味が込められているのでしょうか?
『竜』は『登竜門』という言葉と、福井で一番大きな川である『九頭竜川』からとっていて、『青』はえちぜん鉄道の車両の青色から取っています。えちぜん鉄道の電車を青い竜に見立てて、その竜の背に乗って成長していく女の子、というイメージを込めました。
──『青い竜は少女を乗せて』はどこか幻想的な映像が印象的でした。撮影で幻想的な画づくりは意識されたのでしょうか?
私の好みとして、くっきりした映像よりも、曖昧さのようなものが感じ取れるふわっとした質感の映像が好きなんです。撮影の時は普通のレンズを使用していて、編集の時に私が手を加えて、柔らかい感じの映像にしています。他の方に言われたのですが、私の作品は『曖昧さ』がテーマになっていることがよくあるので、そういった部分が映像にも表れてるんじゃないかと思います。
── ラストシーンの台詞がとても素敵でした。脚本家とは台詞について細かくやり取りをしたのですか?
あの台詞は脚本家が考えてくれました。その方にはもともと、前作の『泡沫少女』で制作した楽曲の歌詞を書いてもらっていて、他の作品なども見た上で「言葉の紡ぎ方が素敵な人だな」と思いまして、今回脚本をお願いした形になります。だから私も半分お客さん気分で脚本を読んで、「素敵な台詞だなぁ」と思いました。
──『青い竜は少女を乗せて』は日本国際観光映像祭で賞を受賞していますが、制作の際にどこかから出資があったのでしょうか?
はい。福井市役所さんの方で『ふくチューバー養成講座』という、福井の魅力を発信するYouTuberを育てようという取り組みがありまして、その中のフィールドワークとして映画を撮影させて頂きました。制作費も市役所の方から出資して頂いています。
短編映画紹介

『青い竜は少女を乗せて』(ジーンシアターで配信) 視聴はこちらから
ストーリー
―― 少女を取り巻く世界は、ひどく狭い。自分が今見えている世界だけが、世界のすべてではない。――
彼女はまだ女子高生。今の環境から一歩外へ踏み出してみたい……ただそれだけの思いで飛び出し、とある職業体験へとやってきた。
慣れない仕事をして、見たことのないものを見て、ひとつの答えへとたどり着く。“最寄りの世界”を離れて、やっと分かった自分の進む道しるべ。
── ジーンシアターで公開している『雪柳』は、映像やストーリーがとても幻想的で、夢か現実かわからないような独特な作品でした。
もともとは『花に恋をする男の子』というイメージを描きたいな、というところから始まった映画でした。ただ『雪柳』は、私が好きなものを描いていい、という形で作らせてもらった作品なので、あまり「見た人にこう思って欲しい」というのは決めていないんですよね。前作の『泡沫少女』を含め、どの作品もそうですが、映画を見た人が考えて、想像して、そうやって辿り着いたものが作品の本質だと思っていて、明確な答えというものは決めていないです。

短編映画紹介

『雪柳』(ジーンシアターで配信) 視聴はこちらから
ストーリー
丁寧につむがれた詩に乗せられたやわらかな映像が、ミステリアスで美しい雰囲気を演出。どこか儚さ・切なさを感じるこの作品を、あなたはどう解釈しますか……?本作の監督・西端実歩氏は、ローマ短編映画祭で最優秀賞を受賞するなど、世界各国で評価されている注目の映像作家。彼女による、唯一無二の表現力と独自の世界観をお楽しみください。
世界で20の賞を受賞した『泡沫少女』
──『泡沫少女』についても伺いたいのですが、海外の映画祭で高く評価されていますよね。私は予告編しか見れていないのですが、どういった作品なのでしょうか?
『泡沫少女』のストーリーとしては純粋で控えめな葵と天真爛漫で自由奔放な椿、そんな幼馴染の女の子2人の物語です。窮屈な世界にいる葵を救い出してくれる椿は葵の憧れの存在。大人になり椿と疎遠になっていた葵の元に、ある日、前触れもなくひょっこりと金魚鉢を持った椿が現れ、2人の共同生活が始まり、どちらからともなく、2人は深く結びついていきます。だが、椿には葵が知らない秘密を抱えていました。葵の前から忽然と姿を消す椿を追って、葵は、はじめて囚われていた世界から飛び出していく。という成長物語をセリフなしのノンバーバル映画で描きました。
ストーリーを簡単に説明すれば、葵の成長物語という単純なワードになってしまいますが、ストーリーが重要なのではなくて、映し出される画、映るもの、小道具や装飾、天気など1枚1枚に込めた想いを感じ取ってもらいたい作品です。
この作品こそ、見た人が“何か”を感じた瞬間、それこそが『泡沫少女』という作品が完成した瞬間だと思います!是非、見る機会があれば1枚1枚を五感で感じてもらいたい作品です。
この作品は「LGBTをテーマにしたのですか?」と聞かれることがありますが、たまたま女性同士が惹かれあったというだけで、LGBTをテーマにしたいわけではありません。
──『泡沫少女』は世界で20の賞を受賞しておられますが、どういった点が海外からの評価を集めたとお考えですか?
恐らく、日本の風景や和服といった、日本の要素がある部分でしょうか。それから台詞が無くて、ビジュアルのみで伝えるというアートに近い部分があったのも、海外のアートの考え方に合致したのかなと思っています。ただ正直、私もはっきりとはわからないので聞いてみたいです(笑) 映画祭が行われた時も、できれば現地まで行きたかったんですが、ちょうどコロナ禍の真っただ中だったので…。受賞した実感もあまり無いんです(笑)
── LGBTというワードが出てきましたが、ジーンシアターでも配信しているMV『「Alice」 -結ばれないゆびきり -』はLGBTを描いたものなのでしょうか?
そのあたりは曖昧でいいかなと思っていて、こちらもたまたま女性同士だった、ぐらいの感覚でいます。性別で壁を作るような話があまり好きじゃなくて、人と人が引き付けあう、ただそれだけでいいんじゃないかと思っています。境界線というのは、はっきり別れているかのようで実はモヤがかかっていて、その入り混じっているモヤの部分に神秘を感じ惹かれ、描いているのかなと感じています。
短編映画紹介

『 -結ばれないゆびきり -』(ジーンシアターで配信) 視聴はこちらから
ストーリー
大人になった今、地元へ帰り訪れた母校の教室。窓際で彼女が思い出すのは、学生時代いつも一緒だったあの子。空高く指切りしてみるが、一人になった今、その小指はもう結ばれることはない……。世界各国で評価される映像作家・西端実歩氏が手掛ける本作。感動のラストに注目してほしい、新たな世界観とストーリーが切なくも前向きにさせてくれる作品。
「ここにない世界を作り上げる」ための演出方法
── 西端さんは『青い竜は少女を乗せて』のようなドラマをはじめ、『IMAGINARY FRIEND』のようなイメージビデオに近いもの、ミュージックビデオやホラーなど、幅広い映像作品を作られていますよね。映画監督、映像クリエイター、映像作家など様々な呼び方がありますが、どう呼ばれるのがしっくりきますか?
何でもいいんですけどね(笑) 私は表現をするのが好きで、今は映像を仕事にしているのでそれを軸に表現していますが、もっと大きな枠組みで言うと『ここにない世界を作り上げたい』という思いが大きいんです。たとえば、現実にありそうだけれど、現実とはちょっと違う異世界に触れられるような場所を作ってみたい。だから映像に限らなくても、空間の表現でもいいと思っています。その空間の中には映像もあるし、ダンスやショーがあったりと、色々な要素でその世界を感じることができる…そんな表現をやってみたいですね。だからしっくりくる表現というと…アーティストとかかな?(笑)

──『IMAGINARY FRIEND』は印象的なロケ地が多く登場する印象です。ロケ地探しはこだわっていらっしゃるのですか?
作品のためにものすごくロケ地を探しているというよりも、普段生活している中で「あ、近くに良いところがあったな」と、ふと作品づくりの時に思い出してロケ地を決めることが多いですね。「美しさって本当は普通の日常の中にあるんだ」ということも私がつくる作品のベースにあるのではないかと感じています。『IMAGINARY FRIEND』の撮影当時は滋賀県に住んでいたのですが、家のすぐ近所にある橋で撮影を行いました。『Alice』では福井県の三国サンセットビーチで撮影を行いましたが、そこも実家から一番近くにある海でした。
── では演出するとき、「こんな画を撮りたい」と思って撮影するというよりは、場所に応じて臨機応変に撮影することが多いのでしょうか?
私自身、ストーリー構成より、視覚情報や音の情報からインスピレーションを得て作品をつくりだす方が得意だと感じていて、本当の理想を言えばロケーションを見て感覚を得てから、そこである程度の画を想像し、そこからストーリー自体をつくりだす方法の方が合っているのではないかと感じています。今までは先に画のイメージを持って、それに合わせてロケ地も探すという順序でやっていましたが、結局撮影の時に二度手間になってしまうことが多いので。
── 実際に撮影場所を見て、そこでどんなカット割りにするかを考えるやり方の方が、ご自身に合っているということですね。
そうですね。『青い竜は少女を乗せて』での屋上から青い空を眺めているメインビジュアルのシーンは、本当は教室の中から覗いている画にしようと思っていたんです。ただロケハンに行った時に「屋上もありますよ」と言われて、実際に行ってみたら「めちゃくちゃ良い!」と思って、シーンごと変更してファーストカットにしました。私が福井に帰った時、「空ってこんなに広いんだ」と感じたのですが、その気持ちと屋上から見る空の広さが良い具合にマッチしたんです。
── 西端さんの作品は、幻想的なシーンの演出が特に印象的です。過去の回想や、夢の中のシーンが多いですよね。
確かに、夢の中を描くことが多いですね。登場人物が見る夢というのはその人物の心情の表れだと思っていて、その夢が現実と交わっていくような曖昧な世界観が好きです。
── 演出の時に心がけていることなどはありますか?
感覚的なことなので、言葉で説明しづらいんですけど…。撮影している画面を見ててグッとくる瞬間があるのですが、その時の感覚を信用しています。少しでも違和感を感じたら、たとえお芝居が成立したとしても、もう一回撮り直した方がいいと思っています。
── 幻想的なシーンが多い分、台詞が少ないことが多いので、俳優さんへの演出が難しいかと思うのですが、どういった方法を取られているのですか?
今までは動きで説明することが多かったのですが、『泡沫少女』の演出を務めてくれたMASAさんとの出会いで、俳優の過去の出来事を作品の感情と重ね合わせることで、より現実的な表現につながることを学びました。最近では俳優の過去の出来事と役でマッチする部分を探して、その気持ちを引き出してあげるようにしています。
台詞の少ない作品だと、言葉のない部分の表現が大切になってきますが、私としては言葉があると誤魔化せてしまう気がしてしまうんです。やはり作品をつくるうえでは、気持ちの部分を大事にしたい。だから私の気持ちもきちんと伝えて、どういう表現をしたいのかをわかってもらったうえで、俳優の中にある役と被る部分を引き出してあげるのが一番合っているのかな、と思います。
呼吸ができなくなるほどの多忙から独立に至るまで
── 次にキャリアについて伺いたいと思います。大学で映像制作を学ばれて、関西の制作会社で3年働いた後に独立されたということですが…。
はい、3年以内に独立することは最初から決めていました。しかし2年目には金銭的にも精神的にもつらく、呼吸がずっとしずらい状態が続いていました。しかし、私は自分のつらさを自分自身で気づきにくくて(笑)。まだ平気だと思っていたのですが呼吸のつらさが悪化し、会社でも過呼吸が起きるようになり、初めて自分のつらさに気づきました。そこで「独立しよう」と決心しました。
そのことを会社に相談したところ、会社の事情でもうしばらく在籍することになりました。ただ私の中では独立するという気持ちは変わらなかったため、社長と相談したうえで週3日勤務、残りは私個人の仕事ということを認めてもらいました。今ではすぐに完全に独立するのではなく、この2つの仕事を1年続けたおかげでフリーランスとして良いスタートが切れたと感じています。
── 独立してから6年ほどで、映画やCMなど全ての映像の仕事は一通りやってこられていますよね。
ありがたいことに、色々な繋がりでプロモーション映像やCM、ファッションフィルム、映画やMVなど、幅広く様々なお仕事をいただけています。『泡沫少女』をつくってから、短編映画をつくるというお仕事もいただけるようになりました。
最近ではドキュメンタリーの依頼が増えてきました。本当に素晴らしい方々の人生に密着させていただいています。表面上だけでなく“人”の深い部分を知ることが本当に好きで、その方の人生の挫折や努力、葛藤そして信念などを知ることが刺激的で、とても楽しく、自分自身の人生についても考えるきっかけもいただき、成長につながっていると感じています。映像をつくることは自分にとって“天職”だと日々感じています。
── 西端さんが参考にしている映画監督などはいらっしゃいますか?
やはり岩井俊二監督の作品の雰囲気はすごく好きですね。岩井監督が「『迷い』を映画に入れることが多い」ということを仰っていたのですが、私も『人生は迷いの連続だろうな』と思っているんです。だから岩井監督作品の不安定なカメラワークや演出、映像の色合いや光の具合といった、幻想的で繊細な表現がとても好きです。ただ私は映画を見る時、ストーリーよりも画で好きになることが多いので、「この映画が好き」という感覚はあまり無いんですよね。
「作品づくりは深呼吸」インディーズ映画と表現の未来
── インディーズ映画は大半が収益化されるわけではなく、制作しても赤字になることも多いですが、それでも作品を作るモチベーションは何なのでしょうか?
私は表現をすることが好きなので、完全に好きだからやっている、という感じですね。仕事は仕事、表現は表現として違う見方をしています。私にとって作品づくりは、自分の中で深呼吸をすることであり、人生の足跡のようなものであると考えていて、なくてはならないものなんです。もちろんお金が儲かればそれに越したことはないですが、あまりそこに収益化を求めていないですね。
──「作品づくりは深呼吸」とおっしゃった件について、もう少し詳しく教えてください。
表現というのは息をすることだ、と思っているんですよね。それこそ制作会社で働いていた時、忙しくてお金もなくて息もできないような状態でしたが、作品作りだけは絶対にやめませんでした。私にとって表現とは、呼吸をしなければ生きていけないように、それがないと生きていけないものなんです。
── インディーズ映画の未来について、どのようにお考えですか?
私は映像が好きで映像を用いて表現しているだけなので、そんなに気にしていないです(笑)。 子供が絵を描く時、絵を自由に書きますよね。絵の業界の未来なんて気にしないじゃないですか。それと同じで、私としては好きなものをクレヨンで絵を描いているような感覚なんです。だから未来があろうが無かろうが、ただ好きなことをやり続けるだけです。
── 日本を出てフランスに半年ほど短期移住されるということですが、今後どういった活動をされていきたいとお考えですか?
ヨーロッパのアートに対する考え方を知りたい気持ちがずっとありました。実際に住んで直接文化に触れてみないと知れないこともあると思って、フランスに行こうと決めました。パリではなくフランスの中でも美しい村であるアルザス地方に住む予定です。もう、建築や景色がものすごく私のツボに入り、可愛すぎるのでこの絵本のような場所に身を置きたいと思い、ここでアートや文化に触れながら作品づくりを続けていきたいと考えています。今後フランスのお仕事もできると嬉しいな(笑)。日本に帰ってもフランスでの学びを生かした表現をしていきます!フランス語も勉強中ですが、、、、こちらはとても難しいですね(笑)
今後の活動としては映像を用いて、映画、ドラマなど様々な表現を続けつつ、ダンスや言葉、ショーや写真、映像など様々な媒体を用いて五感で感じていただけるようなインスタレーション表現にも挑戦したいと考えています。そこにない世界を生み出したいという想いはずっと変わらず持っていて、その空間に来た人が何か心動く体験ができるそんな空間を表現していきたいですね。
そしてゆくゆくはブランドにしたいなと漠然と思っています。ブランド名は「NISHIBATA」。「NISHIBATA」に頼めば、CMでも映画でも、空間でもこの世界観で紡ぐことができるというような、まだざっくりですが、そんなブランドにできたらいいな、と考えています。
井村哲郎
以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。
自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。