足元のローカット、クレーン代わりの肩車

── ジーンシアターで配信している作品の演出について伺います。短編映画『くすのき』は、駅舎を貫くように枝を伸ばしたクスノキが世代を超えて住民たちを見守っている、という素敵な短編映画です。まずあの木の存在に驚いたのですが、大阪では京阪本線の萱島(かやしま)駅のクスノキは有名なのでしょうか。

  いえ、知らない人も多いのではと思います。京阪本線沿線に住まれている方なら毎日通る風景の中に印象としてあると思いますが、大阪の人はそれほど乗らない路線なので、知らない人が多いかもしれないです。

── このクスノキを実際に見るとその大きさに圧倒されます。この木をテーマにいつか映画を撮りたいと思っていたのでしょうか。

そういうわけではなかったのです。僕は明石市の出身ですが、大阪の枚方市に引っ越してから京阪電鉄に乗る機会が増えて。「すごい木が生えているな」という印象だけは頭の中にはありました。 そんな中で、知り合いの監督から寝屋川市のNISショートムービーアワードという映画祭に出品してみないかというお話をいただきまして。「寝屋川市の魅力を伝えられるショートムービー」が条件だったのであのクスノキの存在を思い出した、というのが『くすのき』をつくるきっかけです。

短編映画紹介

 『くすのき』(ジーンシアターで独占配信)視聴はこちらから

ストーリー

大阪府寝屋川市にある萱島駅(かやしまえき)。ここのホームには大木・クスノキがそびえ立つ、全国でも有数の珍しい駅だ。 アヤは幼少期、大好きな母から聞いた“クスノキは街のみんなを守ってくれている……”そんな言葉を思い出していた。 やがて大人になったアヤ。どんな時でもここにいて、暖かく見守ってくれていた、クスノキを見上げる。そんなアヤの隣に立つのは……?  

── 短編映画『くすのき』は、2018年にNISショートムービーアワードでグランプリを受賞されていますね。ほかの映画やドラマなどのロケ地にはなっていないのでしょうか?

なっていないと思います。駅を新設する際には伐採予定だったそうですが、保存できないかという周辺住民の方の要望を受けて残す形を選んだそうですよ。

── 駅の改札そばにある萱島神社のご神木ですからね。『くすのき』には好きなシーンが数多くありますが、中でもカメラワークが印象的でした。女子高生になった主人公が階段駆け上がるシーンは、足元をローカットで撮影されていますが、ほとんどブレていないのに驚きました。

ありがとうございます。あれはジンバルを使って、パーっと一緒に上がっていく感じで撮影しています。スピード感を合わせたくて確か3、4テイクほど撮影しました。 

── すごく自然なカットですね。足元を撮るのはよくありますが、階段を駆け上るシーンは珍しいです。

「あ、このシーン撮ろう」「ここのカット撮ろう」と現場で気づいて撮ることが結構多いです。

── 駅のホームでもクレーンかステディカムを使っているようなシーンがありましたが。

あれは、実は肩車なんです(笑)。僕がカメラマンを肩車をして、カメラを下からこう、上げてもらったっていう…。 

── それでクレーンで撮ったみたいになるのですね! 他にもカメラワークを工夫されたシーンはありますか?

カメラを止めて撮るのをあまりやりたくない気持ちが、昔からあるんです。常にカメラを動かした絵で構成したくて。今まで数多くの映像作品を見てきて、それらから真似るわけではないですが、その風景に合うカメラワークを自分の頭の中にある引き出しから探して撮るイメージですね。  

元ミュージシャンならではの「音楽も含めて映画をつくる」過程

── 私は西脇さんの作品では音楽も好きなのですが、すごく映像にマッチしていると思います。心にじーんとくるような。オリジナル楽曲を使われているのですか?

はい、オリジナルです。元はミュージシャンなので、音楽先行で映像を作ることが多いんですよ。フックになるシーンを撮るときは、頭の中でこんな音楽があるからこのスピード感で撮ろうなどと考えながらやるので、映像とマッチしてくるのではないかと思います。 『くすのき』の楽曲は、1番盛り上がるサビのような部分は僕が口笛を吹いて録音し、それを僕の好きなタッチでピアノを弾いてくれる方に鍵盤で弾き直してもらう、というつくり方をしています。
地蔵盆という作品については制作期間が少なかったのでオリジナル音楽を作れませんでした。

── 『お父さんの仕事着』の音楽もやはりすごく良いですが、いわゆるフリー音源は使わないのでしょうか。

そうですね。やはり自主制作の作品は、全てが自分の創造物であってほしい思いがあるので、できる限り自分が思い描く音楽をあてたいです。といっても僕が弾いているわけではないですが。

  ── すごい武器ですよね。

自分で弾けたらもっといい武器ですが(笑)。もともと音楽をやっていたから、その辺がどうしてもこだわりとして出てしまうのかなと思います。    

心に響く短編映画の極意は「どう削るか」

── 短編映画『お父さんの仕事着』についてうかがいます。こちらは80秒でつくられていて、2017年のやお80映画祭や米子映画事変3分映画宴でノミネート作品に選ばれていますね。80秒でありながらもしっかりとストーリーが成り立っていて心に響く作品に仕上がっています。「超短編」とも言える短さですが、この心を動かす作品づくりの極意を教えていただけますか?

超短編作品やコマーシャル尺のものは、1つの物語を短くするために削る作業が発生します。まず「これが撮りたい」という全体像のストーリーをつくったら、 それをどういうシーンで構成するか。必要のないものをどんどん削っていくけれど、『お父さんの仕事着』では少女が大人になる過程はしっかり見せられるよう意識しました。  

短編映画紹介

『お父さんの仕事着』(ジーンシアターで独占配信)視聴はこちらから

ストーリー

堤防沿いに一人佇む、喪服姿の女性。 彼女の名はすみれ。その手には一着の作業服が抱きしめられている。オイルや鉄のにおいが染み付いたこの作業服は、今は亡き父親がずっと着用していたものだった。 すみれの幼少期も、大人になり内定が決まった時も…… 記憶の中ではいつも作業服姿だった、そんな父親との思い出をたどる愛に満ちた物語である。  

── 仕事で数多くコマーシャルを手掛けている経験が生きていますか?

そうですね。やはりどれだけ短い中に圧縮できるかが求められる世界なので、どう削るかがポイントかなと思います。  

── 西脇さんの作品は出てくる人が優しくて、見ているほうも優しい気持ちになります。この「優しさ」は映像をつくる上で意識されている部分なのでしょうか?

おそらく僕が何かをつくるときは ほっこりとした優しいタッチのものをつくりたい思いが根底にあって。今まで見てきた中でも好きな作品はそういうものが多いです。ファンタジー系とか。 僕が映像の仕事をしたいなと思ったきっかけの作品は、竹内結子さん・中村獅童さんの『いま、会いにゆきます』です。高校生の時にあの作品を見てから、ああいう優しい画の撮り方を意識しているんだと思います。

── その「優しさ」を人に伝えるために、ライティングやセリフ、演技などで意識されている演出はありますか?

おそらくサイズ感ですね。「絵のサイズ感」を意識して撮ってる気がします。広角で撮ると人の形が歪むし、生っぽくなっちゃうので、できるだけミドルに近いレンズで撮っています。撮影場所が狭いとそのあたりのコントロールも制限されてしまいますが。あとはキャスティングも重要ですね。表情というか、フェイス重視でキャストを選ぶことが多いです。

絵コンテにこだわりすぎず現場で臨機応変に

── 『くすのき』『お父さんの仕事着』『地蔵盆』の3作品を見て、足元のカットが多いと気づきました。足元だけを映したカットで会話も進行するようなシーンがありますが、何か意図があるのでしょうか?

僕が影響を受けた映画作品の一つ『世界の中心で、愛をさけぶ』の始まりのシーンが、走る主人公の腰から下のショットでした。堤防をこう、バーっと走っていく。で、それが高校生/大人/高校生と、カットがパッパッパっとかわっていく…。そのシーンがすごく頭の中に残っていて。
足元だけの描写は、立ち止まっていたり、走っていたり、歩いていたり、視聴者にその人が進んで行く先に何が待っているのか、どんな心境なのか想像させるのに良い演出のように思います。
全身や表情を1発で見せて説明するなら簡単ですが、想像させて、期待させたあとの次のカットで何が出てくるのか。このワクワク感やゾクゾクさせる繋がりの連続が映画には必要なのかなと思っています。だから視聴者に何か意味を探させる足元のカットを好んで多く撮ってはいるんですが、尺の関係上使わないものも多くあります。

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『地蔵盆』(ジーンシアターで独占配信)視聴はこちらから

ストーリー

東京から引っ越してきたばかりの陽琉(はる)は、同じクラスのしおりから突然縁日の誘いを受ける。陽琉は “地蔵盆(じぞうぼん)”が何かも分からなかったが、彼女に言われるがまま市内のお地蔵をまわり、大人たちからお菓子ももらう。 時に大笑いして、大興奮して、はしゃいで……この夏は、陽琉にとってかけがえのない、この町で初めての夏休みになる。  

── いろいろと考えられたカット割りをされている印象があり、絵コンテをしっかりつくり込んでおられるのかなと思っていたのですが、ちょっと違いますか?

そうですね。ある程度は描きますが、結局、現場に行くと変わります。 ただ『くすのき』 に関しては、駅の中の撮影に関してはかなりきちんと描きました。駅が昼間の2時間と夜の1時間しか使えなかったんです、すごく(使用料が)高かったので()
でもあの日は小道具を紛失して話がつながらなくなったアクシデントもあったのです。『くすのき』は、実はストーリーが当初と変わっているんですよ。受験当日の設定で、主人公がクスノキの前で、本当はお守りを握りしめるシーンでした。でもそれができなくなって。
本当は改札口で落とすのはハンカチタオルではなくてお守りのはずだったんです(笑)。
女の子が受験前にくすのきに向かって願掛けするシーンのはずが、ただくすのきを見上げるシーンに変わりました(笑)。

── なるほど。絵コンテは描くけれども、現場で臨機応変に変えていくのですね。

はい、もう大体そうなってしまっていますね。  

── 西脇さんの作品には「庶民的な大阪の風景」がとても印象に残ります。これは西脇さんの中で重要な位置づけなのでしょうか?

僕がショートムービーを撮るきっかけの多くが映画祭への出品ですが、募集要項に「この地域の魅力を映像化してください」という条件が入っていることが多いんですね。それで、絵になりそうな場所や物語をその土地で模索していくことが多いからだと思います。 あとは、映像で見た時に、「あ、なんかロケ地っぽい」って一般の人が思うような場所を選んでいるのはあったりはします。だから『地蔵盆』の舞台となった「久宝寺」もちょっと変わった雰囲気がありますよね。そういう場所を、あえて選んでいるからかもしれないですね。

リラックスムードで意見が出しやすい現場に

── 演出にあたって、大切にしていることや心がけていることはありますか?

実はあまり意識して現場に立ったことがないです。初めは役者さんに任せますが、結局細かいところまで指導しながらやっていく形になっていますね。ただ、基本的には役者さんに任せたいと思っています。 現場を見てきたスタッフには「監督がふざけすぎている」って言われそうです(笑)。自主制作の現場なので、和気あいあいとやりたいというか。だから小ボケをかましたりしてみんなを楽しませることを大切にしています。

── チームに一人くらいはそういう人がいますけど、監督自らそれをやる。

そうですね(笑)。いや、ほかの人たちはできないと思うんですよ。僕が動かしている現場なので、みんな必死にやってくれているけれど、僕がまだ心に余裕がある雰囲気でいることで、みんないろいろなアイデアを出しやすくなったりとか、リラックスしていろんなことに取り組んでくれたりするんじゃないかなという期待があります。

── いい話ですね。その通りだと思います。今後西脇さんの30分くらいの短編映画も見てみたいですが、撮られる予定はありますか?

実は本業の方が結構大変になってきていて、いざ撮りたいなと思った時に、なかなか段取りができなくて。節約できないタイプで、撮れるなら自分のこだわりポイントに妥協したくないので、結局すごくお金を使ってしまったりすることが多いんです。 お願いする役者さんが想像通りの服を持っていないとなったら買ってきたり、絶対やりたいロケーションの使用料に5万円かかるとなれば出してしまったり。だから結構段取りが大変になってきて。もう少し気楽にやったらいいんでしょうけど、なかなかそうはいかず…。 すぐには取りかかれなという状況ですが、ね。でもつくりたいなとは思っています。

30歳での独立を目標に約9年間映像づくりの経験を積む

── もともとはミュージシャンだったと先ほど伺いましたが、映像関係の仕事をすると決めたのはいつ頃からなのでしょうか。

小学生の頃からスピルバーグ作品が大好きで、映画監督になると言っていたようです。 それが、小学校5〜6年生ぐらいの時に覚えたギターが楽しくなり、ミュージシャンを目指しました。中学・高校とずっと音楽ばかりやっていました。高校生時代は毎日路上ライブをやり、プロになるために専門学校に入ったのです。 1年生の終わりでミュージシャンは諦めたのですが、ミュージシャンコースで入学してミュージシャンになれずに卒業するのは、学費ももったいないし嫌だなと思って。そこで手に職をつけるじゃないですけど、映画・映像コースに専攻を変えました。映画はずっと好きでたくさん見ていましたし、映画音楽をつくる道というのもありますしね。 ただ、当然1年足らずではきちんとは学べず、しかも就職氷河期と言われる時代だったので、生活のために作業服の販売代理店に就職しました。撮影も映像編集もできると伝えていたので、すぐにそういう仕事をさせてもらえました。 仕事と並行して、週末や祝日を使って、結婚式場の撮影やミュージックビデオを撮らせてもらうなど経験を積みました。30歳で映像作家として独立することを目指しながら、約9年間独学で映像を勉強してきた、という感じです。  

企業VPは映画のワンシーンのような映像美に仕上げる

── 今は「Cinematic(シネマティック)」という映像制作会社を経営されていますが、主にどんなものをつくっていますか?

企業のVP(Video Package)が多いですね。あとはコロナ禍で広まったライブ配信や、音楽ライブの収録などが主な業務です。今後はコマーシャルなどを増やしていきたいですね。  

── 今までよく他社で使われずに残っていたと思うほど、社名がかっこいいですね。

「映画のような」みたいな意味を込めています。さまざまな映像を映画のワンシーンのようなタッチで撮りたいと以前からずっと思っていたので。シネマティックなコマーシャルやVPとかですね。  

── カメラは主に何を使っていますか?

ソニーの「FX6」などのシネマカメラですね。  

── 高かったのではないですか?

高かったですね(笑)。主に「FS5II」と「FX6」と「FX3」の3台を使用しています。VPもそうですが、音楽ライブもシネマカメラを集めて、望遠で撮影をしています。すごく画質がキレイですよ。  

── 好きな監督や影響を受けた監督を教えてください。

やはり、小さい頃から見ているスティーヴン・スピルバーグ監督の影響が強いです。 『ジュラシックパーク』は 特に…数日前も家で見ましたし(笑)あれだけは見飽きないんですよね。人の表情をとらえるのがうまいというか、「このタイミングでヨリが来るのか!」など、この辺は真似したいと感じますね。    

自主制作のモチベーションは「人に評価をしてもらうこと」

── 次に、インディーズ映画について伺います。自主制作映画を何度か撮影され、映画祭でも大賞を受賞されていますが、収益化は難しい状況ではないかと思います。持ち出しでも制作を続けられるモチベーションはどのように維持していますか?

賞レースに自分の作品を出品すれば人に評価をしてもらえるという点にありますね。多くの人に見てもらって評価をしてもらうことが、良い評価でも悪い評価でも自分の仕事をブラッシュアップする上で重要だと思っているので、そこがモチベーションになっていると思います。  

── 単につくるだけではなくて、自分の映画が市場価値としてどれぐらいあるのか試すということですね。

そうですね、そこからいろいろ広がっていきそうな気がしますよね。  

── 最近は一眼レフだとか、場合によってはスマートフォンなどいろいろな環境で、高画質映像が撮れるようになってきました。映像編集もソフト一つでできるため、映像をつくる人は増えてきていますが、西脇さんはインディーズ映画の未来をどんなふうに見ていますか?

インディーズ映画は、「ここはお金がなかったんだな」という部分が全て作品に反映されてしまいますよね。お金がないし時間もないから、自分たちができる範囲でやる風調になるのがもったいないなと感じています。 もっと収益化できる状況であってくれたら、そういうチャンスがもっとあれば、インディーズ映画をやっている人たちのモチベーションも上がっていくのではないかと思いますね。  

── 最後に、西脇さんの今後の活動予定を教えてください。

自分でシナリオを書いて作品をつくることが、やりたいことで得意なことと思っています。今おかげさまでVPを中心にいろいろな仕事をいただいていますが、脚本や監督の仕事を増やしていきたいですし、そのためにパワーをつけていきたいですね。

Profile
西脇祐也
Cinematic株式会社 西脇祐也 1988年6月生まれ。 大阪スクールオブミュージック専門学校卒業。 幼い頃から音楽と映画にのめり込み、社会人となり、服飾系販売代理店でグラフィックデザインや企画ディレクション、フォト、映像制作等、あらゆるクリエイティブ現場の最前線で活躍し、30才でフリーランスのカメラマン・映像作家デビューとなる。 映像そのものの美しさのみならず、グラフィック技術や音楽等、総合芸術を駆使した映像表現が口コミで評判を呼び、TV業界・企業・学校など幅広い顧客から映像制作全般のリピートを獲得している。 視聴者の人生に感動の余韻を残す完成度の高い映像を制作するため、全ての作品に映画的要素を取り入れた映像作りを心がけている。インドネシア等の海外でも、ドキュメント映像の企画・制作を行うなど、国境を超えて活動の幅を広げ、自主制作短編映画で国内の様々な映画祭で受賞する。その後、Cinematic株式会社を設立。若手クリエイターも育てつつ、チームでさらなる高みを目指す。 Written by Masako Kojima

インタビュアー
井村 哲郎

以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。

自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。