「若手制作者の“青春”を支える場」として——池袋みらい国際映画祭10周年
ーー池袋みらい国際映画祭は2026年に10回目の節目の年を迎えますね。そもそも、どういったきっかけで始まった映画祭なのでしょうか。
(とびた)映画祭の出発点は、会場にもなっている「みらい館大明ブックカフェ」という場所の成り立ちに関係しています。ここは豊島区若者学びあい事業の⼀環で豊島区といけぶくろ⼤明が協働で運営しているスペースです。みらい館⼤明ブックカフェを使っていた若者から卒業制作等の⾃主映画を、地域の⼈々に鑑賞してもらいたいという要望があがったことなどから、本映画祭の企画がスタートしました。
というのも、映像制作に関わる若い世代が制作した作品を発表する場が少ない、という課題がありました。作品を見せ合い、意見交換できる機会をつくりたい——そうした想いを、ブックカフェの運営側(サポーター/スタッフ)が支えながら形にしていったのが、映画祭の初期の姿だと聞いています。

ーー第1回はどのような形だったのでしょう。現在のような部門立ては当初からあったのですか。
(とびた)第1回当時の詳細は現メンバーの中でも把握しきれていない部分があるのですが、開催当初は「コンペティション部門のみだった」という認識です。
“4日間開催”への転機と、招待部門・シンポジウム部門の創設
ーー過去の開催記録を拝見すると、第6回までは1日間開催でしたが、第7回から一気に4日間開催に拡大しています。ここでどのような方向転換があったのでしょうか。
(とびた)大きな変化は、コンペティションに加えて招待作品を上映する枠が加わったことです。第7回からは、インディーズ映画を紹介する番組「シネマ・チラリズム」のメンバーが実行委員会に参加し、番組で紹介してきた作品の中から「これは良かった」と思うものを選び、スタッフ間で共有・検討して招待作品として上映する流れができました。
また、4日間へ拡大した理由としては、助成金の要件に「4日間以上続ける」があり、それをクリアする必要があったことが挙げられています。そこを満たすために規模を広げ、そのタイミングで招待部門やシンポジウム部門が整っていきました。
ーーシンポジウム部門は、どのような狙いで設けられたのでしょうか。
(曽我)「映画は劇場で観るもの」という入口だけでなく、映画が“どうつくられているのか”という裏側への関心にも応える狙いがあります。たとえば近年、映画業界でも課題として語られるハラスメント問題など、作品の外側にある現実も含めて、監督や業界関係者が話す場をつくることで、一般の観客だけでなく業界の人にも興味深い内容を提供したい。シンポジウム部門はそうした位置づけです。

第10回(10周年)に向けた企画:作品と社会、演技史、留学生企画、記念作品制作
ーー第10回のシンポジウムは、具体的にどのような内容を想定されていますか。
(曽我)ハラスメント問題を“作品に絡めて”扱う企画を検討しています。
招待作品の知多良監督の『ゴールド』はハラスメントを扱っているため、知多監督と、毎年ハラスメントをテーマに発信してきた東海林毅監督との対談を予定しています。今回は特別審査員として野本梢監督が参加するため、三者でのトークも行う予定です。
さらに、インディーズ映画監督であり、演技トレーナーでもある小林でびさんの「映画の演技の歴史」の講座は昨年好評で、第10回も開催します。映画の誕生から現在に至るまで、演技がどう移り変わってきたかを細やかに解説する内容で、昨年は役者さんも集中して聴いていたのが印象的でした。

ーー10周年記念作品の制作も進んでいるようですね。
(曽我)こちらはシンポジウムとは別枠で、10周年に合わせて「何か作品をつくろう」という話が第9回終了後から動き始めました。
2025年の入選・入賞作品の一つに聖徳学園中学・高等学校 動画研究部&理科実験部の『mirror』(監督:澤 和澄)があります。今回は聖徳学園中学・高等学校から「学校で作品をつくり、それを10周年記念作品にできないか」という申し出もあり、事務局と共同で新作をつくり、その作品も今回の映画祭で上映します。
ーー留学生に関する企画もあると聞きました。国際映画祭という名前に絡めた取り組みでしょうか。
(曽我)留学生企画は昨年からの流れで、豊島区自体に外国人や留学生が多いこと、また映像教育の現場でも留学生比率が高いという実感を踏まえ、「留学生と一緒に企画イベントができないか」という想いから立ち上がりました。
内容としては、留学生が「なぜ日本に来たのか」、中国で学ぶ映画の手法と日本で学ぶ技法の違いは何か、さらに日本で学んだ人が母国に戻って作品を撮るときに何が起こるのか——制作手法の違いが作品にどう表れるのかを掘り下げる場にしたい、という内容になります。

映画祭の“国際”と、“若手支援”というミッション
ーー「国際」という名前が付いていますが、コンペは国際色が強いのでしょうか?
(とびた)いえ、決してそういうことではありません。ただコンペには海外からの応募もあり、実際に韓国からの作品があったため、「国際」と名乗る以上、積極的に選出していきたいという想いはあります。
さらに監督は日本人でも海外を舞台にした作品なども含め、日本作品だけに偏らないよう意識しています。
「国際」とつけた大きな理由は、「若いクリエイターに、夢は大きく、世界に羽ばたいてほしい」という願いが大きいです。
ーー映画祭のミッションやコンセプトを教えてください。
(とびた)「若手クリエイターの支援」です。発表の機会が少ない若いつくり手に出品できる場を提供し、次の一歩を踏み出すきっかけをつくりたい——映画祭全体が、その目的に沿って運営されています。
ーー応募に年齢制限はありますか。
(とびた)応募自体に明確な年齢制限は設けていません。“若手”の捉え方は一様ではなく、たとえば監督が年齢を重ねてから一念発起して撮った初期衝動の作品でも、想いが伝わる作品は選びたいと思っています。

会場の魅力、2月開催の理由、当日の苦労とやりがい
ーー会場がA・Bに分かれています。それぞれの役割はどのように分かれていますか。
(とびた)招待作品の上映は主にA会場で、もともと給食室だった場所を改装したスタジオを使用します。防音設備も整っているので、映画の上映には適していると思います。
B会場はカフェ(ブックカフェ)で、シンポジウムを行い、表彰式などを開催します。

ーー2月開催というのも、映画祭としては少し珍しい印象があります。あえてこの時期にしている理由はありますか。
(とびた)映画祭が秋に集中しがちな中で「まだチャンスがある」「もう一つ映画祭が残っている」という場を示したい意図があります。
ーー運営してきた中で、大変だったことは何でしょう。
(とびた)やはり当日出てくるドタバタに尽きますね。時間を間違える、登壇者が来ないなど、予期せぬトラブルは必ず起こる。その都度、現場で対応して乗り越える。大変ではあるものの、「人がつくっているものだ」と実感する瞬間でもあり、皆で協力して乗り越えられた経験が積み重なって今がある、と振り返っています。
登壇者との事前打ち合わせも重要性です。初対面で当日を迎えるケースほど、準備不足だと会話が噛み合わないことがあるため、そこは神経を使う部分ですね。
ーー逆に、やっていてうれしかったこと、やりがいはどこにありますか。
(とびた)「お客様の笑顔が見られること」。それについて印象深いエピソードがあります。60代半ばと思われる女性が映画祭に参加し、「今度は自分で、スマホで映像を撮ってみたい」と熱心に話してくれました。
作品を観て終わりではなく、観客の側が“自分もつくってみたい”へ踏み出す。そうした刺激を提供できたと感じたときに、「やっていてよかった」「これこそ意味なのかもしれない」と実感しました。
コンペ作品の応募は作品尺の制限なし
ーーコンペの応募要項を拝見すると、作品時間に制限がないですね。3分でも2時間でも大丈夫なのでしょうか?
(とびた)はい、作品尺の制限は設けておらず、同じ土俵で戦ってもらう方針です。分ける案が出たことはありましたが、運用上の難しさもあり、現状はあえて区切らない形を取っています。
短い作品について制限を設けない理由は明確です。「撮って出し」と言えるような初期衝動——一歩踏み出そうと思った人が、気軽に応募できる映画祭であるべきだという考えがあります。過去の入賞作には、スマホ1台で撮った3分程度の作品もありました。
ーー応募数は増えているのでしょうか。
(とびた)応募数はここ数年で増加傾向にあり、2024年は約50本、2025年は約100本、2026年開催の第10回は200本以上です。
ーー審査料や鑑賞料は発生しますか。
(とびた)審査料は取っていません。鑑賞については、招待作品とシンポジウムは有料で、コンペ作品は基本無料で観られる仕組みです。

ーー審査はどのようにされるのでしょうか。
(とびた)審査は一次審査は運営側で行い、入選作品を一定数に絞り込んだうえで、映画祭当日に主に四つの賞を選出します。
一般の観客にオンライン等も含めて点数を付けてもらう「一般審査員賞」
みらい館大明や地域に関わる人たちが審査する「地域審査員賞」
特別審査員が入選作を観て選ぶ「特別審査員賞」
そして「シネマ・チラリズム」が、演技・照明・音楽など“推したいポイント”を切り口に選ぶシネマ・チラリズム賞です。
全体のグランプリを別立てで設けるというより、「入選作品の中から四つの賞を決める」形です。
ーー第10回の特別審査員は野本梢監督ですね。
(とびた)はい。第9回は『呪怨』の清水崇監督に特別審査員をお願いしました。第10回は女性監督にお願いしたいこともあり、インディーズ映画もたくさん撮られている野本梢監督に依頼しました。
ーー副賞も特徴的ですね。会場を撮影利用できる優待があると伺いました。
(とびた)一般審査員賞・地域審査員賞・特別審査員賞などの受賞者には、みらい館大明の撮影利用として使える優待(無料利用の権利)を副賞として渡しています。撮影期間は「3日間」です。若手監督にとってロケ地使用料の負担は大きいので、実制作につながる実利のある副賞として意義があると思っています。
“青春”と“旧校舎”——映画祭の個性、そして今後
ーー池袋みらい国際映画祭が、他の映画祭と比べて大きく違う点はどこにあるとお考えですか。
(とびた)一つは「青春」を明確に掲げている点です。募集の段階で「青春作品を送ってください」とうたっており、若者のきらめく青春だけでなく、60〜70代の“青春”まで含めて、多様な青春の物語を受け止める、としています。
もう一つは会場そのものです。旧小学校というロケーションで映画を観る体験が新鮮で、「懐かしい気分になった」「こういう場所で映画を観る経験が新しい」という声が多いです。会場体験が映画祭の魅力として立ち上がっていると思います。

ーー最後に、今後この映画祭をどう発展させていきたいと考えていますか。
(曽我)根本は一貫していて、「若い人たちが発信できる場の提供を続ける」ことを大切にしたいことです。情報が溢れ、宣伝が難しく、無数の発信が埋もれていく時代だからこそ、映画祭という“場”があることで作品やつくり手の情報が際立ち、羽ばたくきっかけになるのではないか、と思っています。
また、近年はSNSの力で自主映画が爆発的に広がる例も増えている一方で、「どうやればいいか分からず足踏みしてしまう人」も多いと聞きます。映画祭として、そうした人たちの助けになる存在にもなりたい——シネマ・チラリズムもYouTube番組を7年運営してきた知見を、つくり手に還元していきたいと考えています。
開催概要
第10回池袋みらい国際映画祭

概要
2026年2月20日(金)〜2月23日(月・祝)の4日間
会場:みらい館大明(〒171-0014 東京都豊島区池袋3-30-8)
主催:特定非営利活動法人いけぶくろ大明
企画・運営:池袋みらい国際映画祭実行委員会
入選作品
『ゆいとゆいと』乙木勇人監督 25分
『夜中のポップコーン』藤本匠監督 45分
『タイムスリップ・リモート会議』水津亜子監督 9分
『ZENRYOKU! – インドネシアに芽吹く地下アイドル魂 –』大渡皓太監督 25分
『감자에 싹이 나서(カムジャエ サギ ナソ)/英題: Sprout』安永彬監督 11分
『オトコジョタイ!』後藤 寛明監督 42分
『summertimegirl with Awesome robot』平賀由楽監督 11分
招待作品
『米寿の伝言 』
『温泉シャーク 』
『結婚の報告』
『ゴールド』
『ボールドアズ、君。』
『リバティダンス』
『窓[MADO]』
シンポジウム
映像業界ハラスメント問題2026
映画と演技の歴史
中国人留学生たちが描いた日本映画
10周年記念作品
学校法人聖徳学園(高校)の動画研究部のみなさんとの共同制作映画の上映
クラウドファンディング
2026年2月19日23:59まで
https://motion-gallery.net/projects/miraifilm10
公式
Webサイト
https://miraifilmfes.tokyo
井村哲郎
以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。
自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。