2019年のOSAKA 48 Hour Film Projectでグランプリを受賞した『コンフェッション・ジンジャーティー』

── 『コンフェッション・ジンジャーティー』について伺いたいと思います。ジャンルとしてはスパイ映画になるかと思うのですが、すごくお洒落でかっこいい映画だと思いました。

(木下監督)ありがとうございます。この映画はもともと48 Hour Film Projectにて制作した作品です。2日間で1本の映画を完成させるコンペティションなのですが、そこで出されたのが「スパイ映画を作れ」というお題だったのです。撮影するにも制限が多々あったのですが、クールなテイストのスパイ映画を目指しました。

短編映画紹介

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ストーリー

とあるビルの屋上で、電話相手に怒号を飛ばすガラの悪い男。そしてそんな男に一杯のジンジャーティーを差し出す、ミステリアスな黒衣の女…。どうやら男をこの場に呼び出したのはこの女のようだが、その目的は依然としてしれない。すると女が突然、このビルが女の両親が出逢った場所だと語りだす。
そして物語は過去へ飛び、女の両親が出逢った頃まで遡るのだが…。ジンジャーティーのようにピリリと辛い、キケンな男女の愛を描いたスパイ×ロマンスムービー!

── 脚本は本日同席の二朗松田さんが担当されています。インディーズで映画は監督が脚本をつくることも多いと思いますが、監督と脚本を分担されていますね。タッグを組まれて長いのですか?

(木下監督)結構長いですね、かれこれ10年くらい一緒に映画をつくっています。

(松田さん)僕は普段は演劇の仕事が多くて、映像は素人なので(笑) 演出は木下監督に全部お任せしています。

(木下監督)二朗さんはコメディをよく書かれる方で、実は『コンフェッション・ジンジャーティー』もコメディとして脚本を書かれたのです。でもそれをそのままコメディとして演出してもつまらないと思って、クールな作品として演出しました。作中に登場人物がビルから飛び降りるシーンがあるのですが、本当に飛び降りているようなかっこいいシーンとして撮りました。

(松田さん)スパイ映画として真面目に撮ってくれたことで、逆にコメディ要素が高まった感じもしています。かっこいいシーンがフリになってくれて、ラストのどんでん返しでちゃんとオチてくれる。そのあたりの演出のセンスについては全面的に信頼しています。

── 強い信頼関係があるのですね。

(松田さん)もちろんシナリオを書きあげる前のプロット作成の段階で、監督と主演の白井くんと一緒に「どんなストーリーにするか」という話し合いはしています。48 Hour Film Projectはお題もありますし、制作上の問題もありますから、そのあたりをしっかりと守るようにしていますね。『コンフェッション・ジンジャーティー』でいうと「舅・姑」というお題が出題されたのですが、呼んでいる役者さんが最高でも40代ぐらいで、舅・姑役とするのに年齢が合わなかったので、作中で描く時代を分けるという構造にして対処しました。

──制作期間が2日間厳守ということは、カット割りや演技指導などは全部現場で行ったのでしょうか?

(木下監督)はい、基本は現場で演出して、カット割りもその場で考えています。ロケ地も限られていて、ビルの屋上と屋内の部屋の2か所でしか撮影できなかったので、なるべく観客を飽きさせないように緊張と緩和を強く意識しました。たとえば、主人公の男と女スパイの会話シーンがあるのですが、そこはカメラを長回ししてワンカットで撮影しています。

(松田さん)『コンフェッション・ジンジャーティー』は役者さんがどちらも演劇をやっている人なのですよね。だから台詞の間とかが絶妙で、ワンカットでも観客を飽きさせないし、緊張を保てる演技をしています。

円谷プロダクション公認の自主制作映画「ウルトラセブンの子」を撮影したきっかけ

──木下監督のキャリアについて伺いたいと思います。もともとはアートディレクターやグラフィックデザイナーをされていたのですね。

(木下監督)そうです、主にパンフレットのデザインなどの仕事をしていました。一応、社内で誰か結婚した時にお祝いビデオをつくったりして、多少は映像に触れていました。東日本大震災の影響で、紙の原料が高騰していったのをきっかけにパンフレットの仕事が減り、そこから映像の仕事をするようになりました。

──木下監督が映像業界に入ってきたきっかけとして、円谷プロダクションからも承認を得た自主制作映画『ウルトラセブンの子』の存在は大きいかと思うのですが、この作品をつくろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

(木下監督)当時たまたま見たニュースで、ある若者が公務員試験に受かったのに在日であるという理由で不採用になった、という事件が報じられているのを見て、「そんな世界があるのか」と大きなショックを受けたのがきっかけです。見た目は相手も自分もまったく変わりないのに、ある日突然「お前は俺たちと違う」と突き付けられるのってどんな気持ちなのだろうと、人種差別について考えるようになりました。ただデリケートな問題ですし、無関係な人間が軽はずみに扱っていい題材でもないので、いっそ人種を宇宙人に置き換えたらどうかと思いつきまして。ウルトラマンを題材に、『ウルトラセブンの子』という自主制作映画を作るに至った、という感じです。

──『ウルトラセブンの子』を制作するまで映像はどのように学ばれたのでしょうか?

(木下監督)映像は独学です。グラフィックデザイナーをしていたので、構図づくりなどのノウハウはあったのですが、「ウルトラセブンの子」を今見返すとまだ甘い部分があるな、と思いますね。あとやっぱり脚本は大事だと改めて思いました。

──おふたりが影響を受けた監督や、好きな監督はどなたでしょうか?

(木下監督)僕はアキ・カウリスマキという北欧の監督の作品が好きですね。若い頃、毎日仕事漬けで疲れ切っていた時に、深夜のテレビで放送されているのをたまたま見たのですが、その時すごく心に響いたのですね。表現がすごく静かで、監督の顔が見えてこない感じといいますか、押し付けがましくないのが好きで。仕事が落ち着いてきた2年後くらいに同じ作品を見たら、前に見た時とはまた違う印象を受けました。同じ映画で見る時期によって違う印象を受ける映画って凄いなと思います。

(松田さん)僕も映画はとても好きなので、好きな監督はいっぱいいるのですけど…。影響を受けた監督はタランティーノですね。自分が好きなコンテンツを切り貼りして別のものをつくる、というヒップホップのサンプリング的な手法を映画で最初にやったのはタランティーノだと思っています。はじめて見た時は「こんな演出をやっていいんだ」と衝撃を受けました。
それから、なんだかんだいってスピルバーグが好きですね。「そんな有名人のどこが好きなの」と思われるのが嫌で、一度は距離をとるのですけど、改めて見返してみると物凄くニッチなことをしていることに気付いて、やっぱり好きだと戻ってきちゃいます。一番好きな作品は『宇宙戦争』で、スピルバーグの全てが詰まっていると思っています。

48 Hour Film Projectで制作した映画『ウェルテル無頼』がカンヌ国際映画祭へ

──お二人は48 Hour Film Projectに何度かご参加されていますよね。

(木下監督)インディーズ映画の制作となると、48 Hour Film Projectでの活動が主ですね。「ウエスタン」というお題で制作した『ウェルテル無頼』という作品が、世界各国でのコンペを勝ち抜いた作品が集まるFilmapalooza(フィルムパルーザ)で最優秀男優賞を獲って、カンヌ国際映画祭で上映されたこともあります。

(松田さん)カンヌ映画祭で他の国々の監督作品を観た時に、画作りそのものは海外の方が豪華で「お金をかけているな」と思いました。しかし脚本や演出では全然負けていないと思いましたね。

(木下監督)『コンフェッション・ジンジャーティー』はカンヌまでは進めなかったのですけど、撮影賞でノミネートされました。撮影や照明などの技術部門でアジアからノミネートされたのは僕たちが初めてだったそうなんですよ。日本映画が海外勢と戦って技術面で勝つこと自体は、難しいけど不可能ではないんじゃないかな。なんだか自慢話みたいになっちゃいましたけど(笑)

──自身の作品がカンヌで上映された時のお気持ちはどのようなものでしたか?

(木下監督)やっぱり鳥肌が立ちましたね。カンヌのホテルで二朗さんと一緒にいた時、「俺たちカンヌの会場に来ているんだ…」としみじみしましたよ。ただ僕たちの作品が上映されたのは映画祭内でもまあまあ小さめのスクリーンだったのですよね。

(松田さん)カンヌ国際映画祭はつまるところは買い付け市場という面もあります。映画監督の展示場みたいな感じなので、48 Hour Film Projectの作品はまた別枠なのです。会場の盛り上がりだけでいえば、その前のFilmapaloozaの方が盛り上がっていたような気がします。

木下隆之&二朗松田タッグが考えるインディーズ映画の未来と今後の目標

──インディーズ映画は現状、収益化することが難しく、より多くの人に見てもらうためのプラットフォームも足りていないのが実情だと思うのですが、今後インディーズ映画の未来はどのようになっていくと思いますか?

(木下監督)僕は個人的に、短編映画には需要がある、と思っています。たとえば毎日仕事でいそがしくしていて、2時間ものの長編映画を見る時間は取れない人がいたとします。そんな人が「ただ働いて寝るだけじゃなんだし、ちょっと何か見たいな」と思った時、10分くらいの短編映画であればそこまで負担にもならないですし、「自分は今日映画を見たんだぞ」という満足感が生まれるじゃないですか。でも今その市場を占めているのはYouTubeだと思うのです。夜寝る前にYouTubeで好きなコンテンツを見る人に、どうやったら短編映画を見てもらえるのか。そこの客層を取り合ってマーケットが成立するのか。短編映画とYouTubeの動画との住み分けを今後どうしていけばいいんだろう、ということは少し考えますね。

──最後におふたりの今後の活動目標を教えてください。

(松田さん)48 Hour Film Project以外のところでいえば、僕は普段演劇の脚本を書くことが多いのでそっちは今後も続けていきつつ、お声がけ頂ければ映像の方の脚本もどんどん書いていきたいと思っています。僕らってカンヌで上映された割にはあんまり声かけてもらってないのですよね(笑)

(木下監督)僕個人としては、将来的に撮りたいと思っている作品が一応あるのですが、制作費とか諸々のことを考えてしまい、つい先延ばしにしてしまっています(笑)。今は機材が進化していて、個人でも高クオリティな映像作品を作ることが難しくないので、なおさら中身をしっかりしないといけない時代ですし。映画はある意味生もので、その時代に合うかというのもすごく重要なので、制作のタイミングを見計らっている状態ですね。

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木下隆之&二朗松田 

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