映画の可能性を信じ、推しの映画をみんなで審査する、映画ファンがつくる映画祭

おおぶ映画祭とは

――おおぶ映画祭は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか。

(永吉)愛三文化会館の管理運営を指定管理者として担っている大府市文化協会と株式会社ピーアンドピーが、愛知県大府市から「映画に関する事業をぜひ企画して開催してほしい」との依頼を受けて、当指定管理者が企画する自主事業として始まりました。大府市は市が策定する文化芸術振興指針に基づき各種の事業を展開していて、その一つとして映画祭を核とした市民の文化振興を図る狙いがあります。市内には映画館がないことから、この事業を通じて映画に関する文化が地域に根付かせたいということですね。
第1回は大府ショートフィルムフェスティバルとしてスタートし、運営を模索していく中で第3回からおおぶ映画祭という名前に変えて再スタートした、という流れです。

おおぶ映画祭運営委員会事務局 永吉優希さん

――名前はなぜ変わったのでしょうか。

(永吉)「大府(おおぶ)」が、漢字にすると「大阪府」と間違えられることと、ショートだけではなく長編の作品も扱いたいことがあったからです。

――おおぶ映画祭のミッションやコンセプトを教えてください。

(永吉)「映画の可能性」をテーマに、生きる喜びなどのメッセージ性が高いもの、今伝えるべきメッセージが込められた作品を上映していきたい思いがありました。作品を通して、つくり手の価値観やメッセージを観客がさまざまに得られると思いますので、自主映画には人の心を動かしていく力がある、という可能性を信じる意味で、この映画祭は「映画の可能性」をコンセプトに開催しています。

(瀬戸口)キャッチコピーは「私たちと作り手との距離が最も近い映画祭。」ですね。

過去のおおぶ映画祭の風景

――いいですね!「最も近い」は具体的にはどのようなことでしょうか。

(瀬戸口)上映する映画の制作者や演出者を必ずお招きして、映画の合間に登壇してもらい、トークセッションでその映画にまつわることを話していただいています。観客が製作者と同じ時間を過ごすことで作品そのものに親近感を持ってもらえますし、休憩時間や上映後に監督さんたちにロビーに出てもらい、観客が直接話ができる場を提供しています。これらを通して、より作品に親しみを持ってもらえていますね。

おおぶ映画祭運営委員会 瀬戸口康樹さん

(永吉)今回から初めての取り組みになるのですが、上映の最後に、その日に上映した作品の関係者に舞台に上がっていただきトークセッションをした後に、交流の時間を設けまして、観客と監督さんが一緒に客席やホワイエなどでコミュニケーションを取れる時間をプログラムにも組み込みました。

――事務局と愛三文化会館と大府市との共同運営のような形ですが、役割分担はどうなっていますか。

(永吉)おおぶ映画祭運営事務局がその名の通り、事務処理をしている事務局です。応募作品の取りまとめや監督さんとの連絡を取り合うといったことをやっています。愛三文化会館は施設の提供ですね。控え室や当日のホールを貸し出してくださっています。大府市からは事業費をいただき、運営資金の原資にしています。また、フィーチャーシネマプロジェクトは主におおぶ子ども映画祭に携わっており、子ども支援事業を中心として活動している団体になりますので、共同でおおぶ子ども映画祭の方も一緒に運営している形です。私はおおぶ映画祭事務局で、瀬戸口さん、花井さんは運営メンバーですね。

――事務局と運営メンバーの違いっていうのはどういうところでしょうか。

(永吉)運営メンバーは、コンセプトやサブタイトルなどの方針を、今回はどうしていくか、事務局と一緒に決めています。

――運営メンバーは何人ぐらいいらっしゃいますか。

(花井)10人ぐらいですね。運営メンバーは会館に属しているのではなく、有志で参加しています。おおぶ映画祭を観にきて「いい映画祭だな」って思ったのがきっかけで。ですから年代も職業も違いますし、県外からも、熱量高いメンバーがボランティアでつくり上げています。

おおぶ映画祭運営委員 花井将之さん

――映画祭は2日間にわたって行われると思うんですが、初日と2日目では違いがあるのでしょうか。

(永吉)特に違いがあるわけではなく、作品の内容や所要時間などのバランスによってそれぞれの日に上映を振り分けています。

(瀬戸口)1日目が終わると、運営メンバーと監督さんたちとで交流が深まります。そうすると2日目は、トークセッションの内容もお互い見知ったような感じで盛り上がるので、雰囲気では違いがありますね。

映画の可能性を感じられる部門、生まれたての作品の部門

――「映画の可能性部門」と「2024部門」の違いは何でしょうか?

(永吉)わかりやすくいうと制作時期を問うかどうか、ですね。「2024部門」については2024年の1月1日から2025年の2月28日までに完成あるいは完成見込みである作品、という条件で募集しています。「映画の可能性部門」では制作時期は問わず、映画を通してメッセージ性がある作品を募集しています。

――そうすると、「映画の可能性部門」に2024年完成の作品も応募できるのでしょうか。それとも2023年の12月以前の作品のみでしょうか?

(永吉)どちらに応募していただいても大丈夫です。条件に該当しさえすれば応募はできます。

――応募する人が選べるのですね!

(永吉)数年前までは、映画の可能性を信じよう、というコンセプトの「映画の可能性部門」とショート部門だったんです。ただ映画がメッセージを伝えるには、長い短いもないだろう、と。それなら、新しい生まれたての1年目の作品を公開しようということになりました。そこで「映画の可能性部門」を残してショート部門をやめて、「2024部門」にしています。さらに今回は、固定カメラで撮影されたワンシーン・ワンカットの実写映画を上映する「oneCut@scene部門」という新部門も加わっています。

――おおぶ子ども映画祭もありますね。こちらはどんな内容でしょうか。

(永吉)かつてはおおぶ映画祭と一緒に同時開催していたのですが、運営が大変な面があり、別の時期に開催しています。次世代のクリエイターを育てるというコンセプトで、大府市内の子どもたちを中心に、優れた映画やアートに触れてもらう内容です。映画にまつわるワークショップなどを開催して、子どもたちと家族の皆さんが一緒に楽しめるようなイベントを通して、次世代のクリエイターが育っていくといいなという思いで開催しています。

――子ども、というとどのくらいの年齢のお子さんが参加されるのでしょうか。

(永吉)未就学児が多い印象ですね。2024年には『パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー』という子ども向け映画を上映しています。

――今まで運営をされてきた中で、苦労されたことはありますか。

(永吉)事務局としては、応募していただいた方からお返事いただけなかったりとか、ボランティアがあまり集まらなくて少ない人数で何とか回したりといったところが苦労しましたね。

(瀬戸口)運営メンバーとしては、審査のための時間の捻出ですね。応募が総数で163作品あったのですが、それらを全部観て、自分の推しの作品を決める第一次審査があります。嬉しい悲鳴ではありますが、普段の生活の中で観る時間を捻出するちょっとした大変さ、これを苦労と言っていいのか…。根気強く真剣に一つひとつ観ているので、時間を要するのはある意味大変ですね。

(花井)苦労というか課題ですね。映画祭の課題として、単なる上映会ではないので映画祭をいかに楽しんでもらうか、気持ちよく帰ってもらうか。僕も最初参加したときに「想像以上にいい作品を上映しているな」という感動から入ったんですね。そういう思いを、いかに多くの人に感じてもらうか。おおぶ映画祭を知ってもらい足を運んでもらって制作者や観客に交流してもらえるか。ファンづくり、おもてなしが課題ですね。

過去のおおぶ映画祭の風景

コンペはなし。1位を決めることより、映画のメッセージを伝えることが重要

――コンペを行う映画祭が多いですが、行わない理由があるのでしょうか。

(永吉)セレクト、順位をつけるということではなく、あくまでも映画の可能性というところで楽しんでもらいたい。作品のテーマ性やメッセージ性を皆さんに伝えたい。こういう映画に対する思いを大事にしたい、ということですね。

(瀬戸口)審査するメンバーは好みがそれぞれ違いますから、賞としてどれか一つを選ぶとなると納得がいかない部分が出てきます。そうではなくて、自分の推しの作品、花井さんの推しの作品、というようにそれぞれが出すならば、何回か観るうちに良さが伝わり、新たな発見があるので、それぞれの推しの作品を出して上映するのはいいところかなと思っています。

(花井)〇〇部門で受賞した場合、どうしても「そういう点で優れた作品だ」という目で観てしまいますよね。そうではなくて、作品からのメッセージを、観た人が心の中で審査すればいいのかなと思うんですよ。

おおぶ映画祭運営委員 花井さん

――協賛はどのようになっていますか。

(永吉)大府市は協賛ではなく事業費であり、協賛は別で募っています。今回はKeePer技研株式会社さん、愛三工業株式会社さん、豊田自動織機さんなど、大府市内で地域貢献されている企業に協賛いただいています。

――おおぶ映画祭の特徴は何でしょうか。

(永吉)一番は、コンペではないところです。1位を決めるのではなくその映画の良さを伝えたい。あとは、映画館のない市から映画を盛り上げていく、というところも特徴かなと思います。

作品の尺は自由

――作品時間に制限を設けていない理由を教えてください。

(瀬戸口)メッセージを伝えるのは時間じゃないですよね。作品そのものが大事で。

(花井)ショートフィルムが増え、映画祭でも多くなっていますが、尺ではないよね、という話になったんですよね。

(永吉)それで、ショートではなく2024部門になり、出来上がってすぐの作品を皆さんにご提供できることにもつながった、いうところですね。

――審査費や入場料は取られていますか?

(永吉)審査費はないですが、応募手数料ですね。9~10月頃作品を募集していますが、その際2,000円~3,000円ほどです。入場料については、1日フリーパスということで1,000円で出入り自由で見放題、となっていますね。

――審査は1次審査だけでしょうか。

(永吉)1次審査と、最終審査があります。まず運営メンバーが1人につき推しを3作品選び、それらの作品が1次審査通過になります。それぞれの3作品をもう一度観て、やっぱりこれだという1作品をそれぞれ決めて、バランスを取って10作品に絞ります。審査を行う運営メンバーは、10代から60代の県内外のさまざまな職種の人が集まって、あらゆる視点から審査を行います。

上映作品の監督は映画祭に参加必須

――10作品に選ばれた方に対して特典はあるのでしょうか。

(永吉)「上映が決定した監督は映画祭当日のトークイベントに参加する」ことが応募条件になっていますが、その際の往復の交通費と宿泊費はこちらで負担します。

(瀬戸口)審査したメンバーが「なぜこの作品を推したか」という熱いメッセージを一つの文章にして、それを当日監督さんたちにお渡ししています。

――講評ではなく、監督にお手紙をお渡しするのですね。

(瀬戸口)直接そういったメッセージを監督さんが受けとると刺激になるんじゃないかと思い、2023年から始めました。

(花井)気になりますよね。なぜ選ばれたのか、と。

――招待作品は、応募作品とは別ですよね。どのように選んでいるのでしょうか。

(永吉)今回の招待作品の『忘れっぽいハムレット』(監督:佐藤さやか)については、大府市内でテレビ愛知さんが撮影した短編映画でテレビの全国放送で放映された作品です。市内で撮影されたテレビドラマということで、大府市からぜひこれも上映してほしいと依頼を受けました。

セントギルダ映画祭から招待された作品は、大府市がオーストラリアのポートフィリップ市と姉妹都市となっており、そこで開催されている歴史あるセントギルダ映画祭から交換上映ということで何作品か候補をいただいて、その中から1本上映しています。

ワークショップイベント作品は、今回「oneCut@scene部門」というワンカットの作品を募集しまして、第1回目のためどんな部門かという紹介も含めたワークショップを映画祭前の2月15日に開催し、ワークショップの中で撮った作品を上映します。

――おおぶ映画祭はこれからますます回数を重ねていかれると思いますが、どのように発展させたいでしょうか。

(瀬戸口)監督さんの思いを込めて制作されたメッセージ性の高い映画をきっかけに、観客が新しい価値観に気づいたり、あるいは心が動かされ行動が少しでも変わったりすることを、こちらも期待しながら提供していけたら、という思いがあります。

(永吉)インディーズ映画は、商業映画とは違って一般的に目にするようなものではないので、知ってもらうためのPRをどう工夫したらよいのかを模索しています。

――おっしゃる通りですね。内容としてはすごく良い作品があるものの、なかなか知ってもらう機会がないですよね。そこのジレンマに私もチャレンジしており、映画祭、全国各地の映画祭がどんどん盛り上がってくれるのがいいなと思っています。花井さんはいかがでしょうか。

(花井)映画っていいところがたくさんありますが、世の中はだいぶ変わってきている。運営面でも「変わらない価値を提供し続けるために変わり続ける」ということが大事なのかなと思います。

Profile
おおぶ映画祭運営メンバー&事務局

おおぶ映画祭2025

日程
2025年3月15日(土)16日(日)

開催場所
愛三文化会館 もちのきホール
愛知県大府市明成町1丁目330 大府市勤労文化会館
https://www.obu-kinrou.com/access/

料金
1日フリーパス 1,000円(前売、当日券とも)
大学生以下無料

上映作品
3月15日
『たまには蜂蜜を。』
『ラストオーダー』
『あいのかたち』
『ふたりの吉田』
招待作品
『忘れっぽいハムレット』
『お母さんごっこ』

3月16日
『フューチャー!フューチャー!』
『遠く離れて』

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セントキルダ映画祭より招待作品 
『KATELE(Mudskipper)』
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映画制作ワークショップイベント作品 
『ハッピーバレンタイン岩田さん?』
『アイツ』
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『炎色反応』
『だめだし』
コミュニティムービー「30」

問い合わせ
おおぶ映画祭運営事務局(愛三文化会館内)☎0562-48-6151

公式
Webサイト 
https://www.obufilmfest.net/

X
https://x.com/obu_filmfes

インタビュアー
井村哲郎

以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。

自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。