地元・岩槻のみんなで映画祭のお客様をおもてなししたい
岩槻映画祭とは
――岩槻映画祭は埼玉県さいたま市で2014年より開催されているということで、成り立ちから教えてください。
私はもともと地元の情報誌にたずさわっていて、取材や営業で地域を回っていました。岩槻は人形作りがさかんで「人形のまち・岩槻」と呼ばれているのですが、あるとき人形屋さんの前で映画の撮影をしていたんです。この映画はどこで観られるのかと聞いたら、これは短編映画でコンペに出すものだから劇場では観られない、と現場にいた監督に言われたんですよ。そこで僕は「その映画をいつか上映できるようにします」とその監督に約束したんです。そして2年後ぐらいに、埼玉で撮られた映画の上映会を開催しました。それが2014年の第1回岩槻映画祭なんです。
――初回はコンペがなかったのですね。
そうなんです。映画を上映して、監督と役者さんに舞台挨拶していただきました。それが1回目の映画祭でしたね。
――約束を本当に実現して、実行力がすごいですね。いつからコンペ形式になったのですか。
1回目のとき、映画が好きな人やイベントをやりたい人が集まってくれて、「映画祭はコンペや舞台挨拶があり、レセプションがある」という話をしてくれて。それなら来年はコンペをやろう、ということになり、第2回からコンペが始まりました。

――第1回のときは何人ぐらいで開催されたのでしょうか。
運営メンバーは、映像部門のメンバーは5~6人で少人数でした。映画祭全体ではボランティアスタッフがいて、手分けして運営した感じです。現在は実行委員会のメンバーが6人ぐらいで、外部技術者とボランティアスタッフが加わり総勢20人ほどで運営しています。
――齋藤さんは、会社で働きながらボランティアで開催されたのでしょうか。
小規模な出版会社だったので、比較的自由にやれました。街のことというのは仕事でもあるので。出版会社をやめて別の会社でサラリーマンになった時期があり、その間は映画祭が中断したんですよ。2018年の第5回が終わって中断し、2022年に復活させました。
かつては嫌いだった地元・岩槻を盛り上げたい
――齋藤さんが中心となって映画祭を立ち上げられたのですね。岩槻映画祭のミッションやコンセプトを教えてください。
市民でつくり、市民が楽しむ、市民参加型の映画祭であり、岩槻のみんなで全国から来る監督さんや役者さんをおもてなししたいんです。
僕は地元の情報誌の仕事をやる前まで、実は地元が嫌いだったんです。仕事も東京で勤めるし、絶対地元に住まないと思っていたぐらいだったんですよ。それが、岩槻に帰ってきて情報誌に関わるようになって街をくまなく歩いたときに、街の人が代替わりして店をやっていたり、伝統の文化を一生懸命発信していたり、そういった動きを見て反省したんです。僕はなぜ地元に背を向けていたんだろう、と。
街のために頑張らないとだめだなと思い、懺悔の思いで街のことをやろうって思ったんです。街おこしというとおこがましいかもしれないですが、地域活動して、何か盛り上げたいというか、街の人たちに喜んでもらいたいです。監督にロケ地を紹介する、岩槻ロケーションサービスも映画祭とほぼ同時に立ち上げました。問い合わせが来るようになって、岩槻で撮られた映画がいくつも完成しています。「この映画は岩槻で撮られたんだよ」といわれると街の人も喜ぶかなと思うし僕も嬉しいので。
――岩槻が嫌いだったのは、何か理由があるのですか?
僕は世代的に、漫画『翔んで埼玉』の時代なんですよ。小学生のときに、タモリが「ださいたま」という言葉をつくったのもあって「埼玉県はダサイ」というイメージを当時の小学生は植え付けられてしまって。今は良いイメージができてきていると思いますが。
――岩槻映画祭は2月が開催時期ですね。他の映画祭はあまり開催されない時期ですが、2月にした理由は何かあるのでしょうか。
当初は4月に開催したのですが、4月の前半はスポンサーさんがいそがしく、3月は人形のまち岩槻はひな祭りなどのイベントで忙しいということで、2月になりました。1カ月ずつ前倒しになった感じですね。
――第9回は2025年の2月8日・9日と2日間行われますが、それぞれの日のスケジュールはどのようになっていますか。
1日目はイベント、2日目はコンペです。イベントでは「レジェンドコーナー」という催しを毎年やっており、岩槻映画祭で入賞した監督を1人特集するというコーナーがあります。今回は、第6回映画祭のときグランプリを受賞した瑚海みどり監督です。今、長編を撮られていますが、これから有名になりそうな監督なんですよ。その監督をお招きして紹介します。
また、さいたま市の北区にある北図書館というところで、さいたま市のイベントとして中高生向けにワークショップをして中高生が短編映画を撮る「北図書館ショートフィルム制作プロジェクト」という企画が10月に行われたのですが、その映画の上映やプロジェクトのエピソードを語ってもらうコーナーもあります。
今までは同じスケジュールを2日間行っていたのですが、運営が大変になるので、イベントとコンペを分けました。受賞作品が多すぎると上映しきれなくなるので、受賞数は上映できる本数までにしています。
――協賛する企業や団体が多いですね。地元を盛り上げる活動が理解されてきている感じでしょうか。
まだ十分認知が行きわたっていない部分もありますが、少しずつですね。
――映画祭には、地元の人もいらっしゃいますか。
地元の人も来てくれます。短編映画をあまり観たことはなかったけれど、映画祭に来て以来面白いといってくれる人も出てきましたし、ありがたいですね。岩槻で撮った映画を上映するときは集客が圧倒的に多いんですよ。エキストラを募集したり、ロケ地の提供してもらったり、ロケ弁の手配なども地元で全部やっているので、そこに関係した人が来てくれますね。
大御所不在。みんなで議論を重ねて審査する
――日本には100以上映画祭がありますが、その中で岩槻映画祭が他の映画祭と圧倒的にここは違う、といったことは何かありますか。
審査体制がいいのかなと思っています。他の映画祭では、業界の大御所や監督などのプロが審査に入りますよね。うちはそれがない、というのが売りなんですよ。大御所がいない、アマチュアが選ぶ、ということにしています。アマチュアについても、他の映画祭では「映画を年に〇回以上観る人」などの公募基準があったりしますが、そういうのも特に設けていないです。今の審査委員会のメンバーは、僕のほか、役者さん、映画にちょっと出たことがある人、映像の技術者、あとは映画マニアの人、かつて映画監督を志そうとした人、古い映画が好きな人など、いろいろな人がいます。
何かしら映画に関わってはいるけれど映画のプロではない人が集まって、みんなで審査するんですよ。この体制の何が良い点かというと、「面白い」「心に何か残る」といった感覚を大切にできるんですね。僕も映画についてアマチュアですが、映画祭をやっていることでかなりの本数を観ているんですね。技術的にはわからなくても、作品については良いと思える感覚を持っています。
もし大御所や有名な監督が出てきて審査で発言したら、誰も何もいえなくなってしまいますよね。それがなくて、みんなそれぞれの意見をぶつけ合う。審査委員会は、オンラインで3時間ぐらいやるんですよ。みんなでそこで話し合って真剣に選んでいます。
――1次審査で事務局が選び、2次審査では大御所が選ぶ、といった映画祭もありますが、1次審査も2次審査も同じ人が選ぶのでしょうか。
2次審査から、審査する人が増えるんです。1次審査は僕を含め5人ほどで観るのですが、今回は140本ぐらいの応募があったので、1次審査で30本ほどに絞りました。そして2次審査からは8名で審査します。僕らも人の意見を聞くと気持ちが変わるので、もう1回2次審査で観て、30本から12本の入選へ絞りました。
また、審査委員長は映画の監督経験がある医師なんですよ。映画大好きのお医者さんで。
――審査員長はお医者さんなのですね!
第4回か第5回の映画祭で、協賛金をお願いしようと思ったんです。そうしたら「お金を出すから、俺の賞を設けて選ばせてほしい」というんです。そんなわけで、そのときは審査員特別賞…ではなくて「特別審査員賞」があったんですよ(笑)。
――特別審査員の賞ですか!
そこからメンバーに入り、審査委員長をやっていただいています。
――岩槻映画祭の受賞作品は、毎回素晴らしい作品を選ばれていますね。
いろいろなタイプの作品が受賞するので、審査基準がまた変わったなどといわれます。野口雄大監督のようにプロの役者さんを起用した作品が賞を取るときもあるし、インディーズ低予算の作品が取ることもあるし。その辺りのジレンマはあるのですが、それが岩槻のいいところかな。審査基準が一定ではないというのがいいですね。

――コンペ対象は「上映時間40分以内」の短編映画となっていますが、他の映画祭では30分以内としているところが多いようです。40分にした理由は何でしょうか。
最初は作品が集まらなかったので、時間を延ばしました。そうすると30分を超えてしまった作品が集まりやすくなるので。30分の短編をつくったもののもう少し加えたくなり、納得のいく作品になるのが40分、とかですかね。
――審査料や入場料はありますか?
審査費は1,000円、入場料も1,000円ですね。入場料は2日通し券ですね。小・中学生は無料です。
――受賞した方への賞金や特典はありますか?
賞金はあります。賞としては、グランプリ、準グランプリ、観客賞、俳優賞(男性/女性)があります。
歴史ある映画祭の受賞監督でいてほしいから、回数を重ねていきたい
――映画祭で受賞された方で羽ばたいていった監督はいますか。
もともと羽ばたいていた方かもしれないですが、松本動監督が岩槻映画祭で受賞してから全国何十カ所で受賞した、ということがありました。うちが一番初めだったんですよ。うちでグランプリ取ってそれをきっかけにして。うちの映画祭が年初めだからか、ベンチマークにされているのかなと思うときもあります。
また、内田英治監督はコンペ受賞ではないですが、岩槻で映画を撮っていて、映画祭に何回も来てくれています。
――岩槻映画祭を今後どのように発展させていきたいでしょうか。
続けることですね。映画祭はお金がかかります。何度もやめようと思ったんですが、やめると過去の受賞監督に申し訳ないから。消滅した映画祭の受賞歴は価値がないと僕は思うので、続いていて回数を重ねた映画祭の過去受賞監督であり続けられるよう、やめないで続けよう、と。監督へのリスペクトで続けることに価値がありますよね。
開催概要

第9回岩槻映画祭
2025年2月8日(土)
会場 市民会館いわつき
2025年2月9日(日)
会場 市民会館いわつき
コンペ作品の上映・表彰式
ノミネート作品
『密談長屋 Tenement of Secret Talk』 Abu Shahed Emon 監督作品
『世界の音が聞こえたら』 ワタナベカズキ 監督作品
『遠く離れて』 黒田 晋平 監督作品
『のこされたもの』 高上雄太 監督作品
『アノサ カアサン』 田野聖子 監督作品
『ルサンティール』 小原正至 監督作品
『scenario』 三浦和徳 監督作品
『瞳の向こうに見えるもの』 山本尚志 監督作品
『落日』 岡本 崇 監督作品
『生いたつ赤』 宮原悠 監督作品
『秘事himegoto』 みやたにたかし
公式ホームページ
井村哲郎
以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。
自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。