行方不明の夫に似た男が、保険金受け取り直前に現れて…『帰ってこなかった男』は一体誰なのか?

映像ディレクター歴20年超の小嶋監督が、満を持してサスペンス映画を劇場公開

――『帰ってこなかった男』は、小嶋監督にとって初めての劇場公開作品ですね。ストーリーを教えてください。

「失踪宣言」という法的制度があります。失踪者が7年経つと死亡扱いになって、例えば生命保険がかけられている場合は保険金が支払われるのです。
本作はある女性の夫が6年半前に失踪し、あと半年で失踪した夫の生命保険が下りるという状況で、女性には現在の夫がいる。現在の夫がベンチャーを立ち上げるための費用としてその生命保険を使おうと思っていた矢先に、失踪した夫と思われる男が現れて……、という話です。

――この作品を着想したきっかけや製作に至るまでの経緯を教えていただけますか。

「失踪宣言」についてどこかで知って、そこから着想しました。人が死んだか生きているかわからないのに死んだとみなされる、社会からオミットされる、ということがルールとして存在することに興味を持ちました。
社会を円滑に回していくために、人を排除して残った人たちだけでやっていくルールが他にもあると思うのですが、そういう違和感のあるルールを映像化して知ってもらうことで、自分たちの生きている場所のことを考えてほしい、という想いがあります。

――面白い視点ですね。今までの小嶋監督作品とはちょっと違う形かなと感じましたが、このようなサスペンス系の作品をつくってみてどうでしたか

基本的には物語やプロット優先で話が進んでいく形式が好きで、サスペンスではなくホームドラマやヒューマンドラマでやってきたんですが、直球でやってみようかなと思いました。これまでで一番、人の心に響いた手応えがありました。

――どのように手応えを感じましたか?

2024年の北海道国際映画祭にノミネートされ観客賞をいただいたのですが、映画マニアという感じではない観客の方たちが「面白かったよ」と言ってくれたんです。テレビドラマと同じように楽しんでくれるんだ、と感じたときに手応えを感じましたね。

――小嶋監督の作品は、人のさまざまな心情を丁寧に描いている印象です。人の気持ちを動かすことを意識して脚本をつくっているのでしょうか?

脚本を書くときのスタート地点として、自分の身に起こったとしてもすぐには解決しなさそうな問題を考えます。それはおそらく、映画を観る人も同じように何かすぐには解決しないことに巻き込まれた経験があって共感してくれるのではないか、と。そうやって感情が動いていくのかなと思い、書いています。

――今回の『帰ってこなかった男』もそうですが、登場人物たちの気持ちが手に取るようにわかるんですよね。このあたりは脚本に書いてあるのでしょうか。

脚本をもとに、役者さんが肉付けしてくれるからですね。僕は作品を俯瞰して見ているのでキャラクターそれぞれの深いところまでは降りていなくて、役者さんは自分が演じる役を僕以上に深く見てくれるので。彼らが思って表現してくれたことが肉付けになって、気持ちが伝わりやすいんじゃないかと思います。

『帰ってきてしまった男』から『帰ってこなかった男』へ変更

――当初は『帰ってきてしまった男』というタイトルでした。『帰ってこなかった男』へ変更した理由を教えてください。

当初は『帰ってきてしまった男』という、何か引っかかるようなタイトルにしていました。ただ「こいつのことだ」と観客が何となくわかってしまうんですね。『帰ってこなかった男』は一体誰のことなのかを、観終わった後でも考えてほしいと思って変えました。

――キャストは、卯ノ原圭吾さん・斎藤千晃さん・実倉萌笑さんの3人がメインですね。この3人を起用した理由をそれぞれ教えてください。

卯ノ原圭吾さんは2、3回僕の作品に出てもらっていて気心が知れていることと、あとはやはり芝居がすごく上手くてどんな役でもできる方だからです。

斎藤千晃さんは包容力のあるイメージで、「巻き込まれる男」がうろたえても受け止めてくれる女性だと感じたので起用しました。

実倉萌笑さんは、最初に書いた別の脚本でキャスティングしていたものの、『帰ってこなかった男』のあゆみ役は実倉さんの普段のキャラクターとは違う印象だったので、お願いするか迷っていました。でも新しい脚本を読んで「ぜひやりたい」と言ってくれて、例えば芯の強い部分などを彼女の中から見つけ出すなど一生懸命取り組んでくれて。最終的にはベストキャスティングだったと実感しました。

――小嶋監督から「こんな風に演じてほしい」といった演技指導はされたのでしょうか。

撮影前に5日間ほどリハーサルがあり、そこで役づくりをしました。5日間のうち3日間は実倉さんのあゆみ役をみんなで考えることになり、例えばセリフにないちょっと意地悪なことを彼女に言ってみて意見を出していく、といった時間がありましたね。残りの2日で他のキャラクターを一緒につくり上げた感じですね。

――3人以外で、特に注目してほしい役はありますか?

米元信太郎さんが演じた坂本という居酒屋の店長です。失踪した元夫を雇っているのですが、その元夫のことも、それを探りに来た主人公夫婦のこともいぶかしく思い、主演の卯ノ原くん演じる孝明を揺さぶるんです。米元さんは芝居の引き出しがめちゃくちゃ多い人で、いろいろな演技で孝明を翻弄する様子がすごく面白いので、そこは注目していただきたいですね。

――ロケ地について伺います。映画館や自宅など、ロケ地がストーリーとマッチしてリアリティがありましたね。どのように探したのでしょうか。

自主映画では美術などで凝ったことがなかなかできないので、もともと存在する場所をうまく使うことが重要だと思います。今回の映画はビジュアルでも楽しんでほしいと思ったので、例えば家なら普通の家ではなく、多少古くて現代に住むにはちょっと違和感があるけれど誰もが知っていて親しみのある場所を、ライティングでちょっと変わった風に見せて、レトロだけど新しい感じにしたら面白いかなとイメージして、いろいろなところを探しました。

――この作品の音楽について伺いたいのですが、小嶋監督はこれまでミュージックビデオを数多く撮られてきましたね。

ミュージックビデオの制作は25年ぐらいやってきました。メジャーとインディーズを半々ぐらいやってきて、一番長く手がけているのはストレイテナーというバンドです。あとはthe pillows、THE COLLECTORS、柴咲コウ、秦基博、真心ブラザーズなど……。950本ほど手がけました。

――すごい数ですね。2024年には、稲垣潤一さんの『クリスマスキャロルの頃には』のミュージックビデオを撮られましたね!どうでしたかあの名曲は…?

最初、冗談かな?と思うぐらい驚いた依頼でしたが、誰もが知っているあの曲のミュージックビデオを自分がつくるんだということにちょっと震えましたね。ドラマ風ミュージックビデオをつくりたいとご依頼いただき、この数年ずっとやっていた『帰ってこなかった男』も含め自主映画の技術を活かすようなドラマづくりができたと思います。

――『帰ってこなかった男』の音楽はShizuka Kanataさんですね。どのように依頼されたのでしょうか?

曲を作ってください、という依頼はしていないんです。映画音楽を探していると話したら、Shizuka Kanataさんがアルバムを出されたときにつくられたデモ音楽がたくさんあり、15曲ぐらい送ってくださって、ここから好きなものを使ってくださいと言ってくれたんです。そこから、映画に合うものを探して付けていきました。

――映画に合わせてつくられた曲だとしか思えなかったです。『帰ってこなかった男』の中で、今まで数多くつくられたミュージックビデオの技術が逆に役立った、ということはありましたか。

今までは自主映画にミュージックビデオでの経験を活かすことはしてこなかったのですが、今回はエンターテイメントに振りたかったので、ミュージックビデオが持つ面白さみたいなものも活かしたいと思いました。妄想のシーンや夢のシーンでは、思いきりミュージックビデオの気分で編集しましたね。

『帰ってこなかった男』の見どころは?

――最後に、『帰ってこなかった男』の見どころを教えてください。

失踪宣言というルールに翻弄される人々をサスペンスタッチで描き、かつ場面によってはちょっとコメディ、ミュージックビデオテイストなど、さまざまなテイストがギュッと詰まった47分です。ジェットコースタームービーのごとく観ていただけたら幸いです。

――映画館で観るのにふさわしい、照明暗めのシーンが多かったですよね。映画館上映を意識した撮影でしたか?

そうですね、僕も映画好きなので、映画館で観ていただくことをイメージして撮った部分もありますね。今回は初めての映画館上映が叶ったので、僕が見ていただきたい形、イメージした形で観ていただけると思うんです。映画館の闇で観るにふさわしい雰囲気を持った映画をつくることができたので、そこを楽しんでいただけたらなと思います。

――『帰ってこなかった男』は、1度観て結末がわかっても、伏線がたくさんあるので2度観ても面白いかなと思いました。いかがでしょうか。

そうなんです。2回、3回、重ねて観ることで自分の中でどんどん謎が明解になっていく楽しさを持ち得た映画だと思うので、複数回観ていただいて、いろいろな、皆さんなりの<帰ってこなかった男>を頭の中で想像してもらえると嬉しいです。

Profile
小嶋貴之

概要

作品概要

出演
卯ノ原圭吾 斎藤千晃 実倉萌笑 小幡貴史 松本響 島林瑞樹 八木亜希紗 鐘ヶ江佳太 佐藤達也 宮本聖矢 米元信太郎

監督/脚本/編集/製作
小嶋貴之

撮影監督
Keisuke Mizushima 

照明
Jun Hirota  

録音
Jo Terauchi  

美術
Hibiki Matsumoto 

メイク
大島美保 

撮影助手
白井絢香 

助監督
宇津野竜輔、革崎文

制作進行
大塚勝彦 

制作助手
山口正弘 

美術助手
宮本聖矢 

整音
浦本和宏(コサエルクリエイティブ)

音楽
Shizuka Kanata

配給
ジーンハート

2024年/日本/カラー/シネマスコープ/ステレオ/47分

予告編

https://www.youtube.com/watch?v=NSiis9ES1Ts

公式

公式サイト:https://geneheart.com/haikyu/kaettekonakattaotoko

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劇場公開

東京都
テアトル新宿 2025年3月28日(金)〜

山形県
MOVIE ON やまがた 2025年3月28日(金)〜

神奈川県
シネマ・ジャック&ベティ 2025年4月12日(土)〜

栃木県
宇都宮ヒカリ座 2025年5月9日(金)~

大阪
シアターセブン 2025年5月17日(土)~

インタビュアー
井村哲郎

以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。

自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。