
今回のミニシアター探訪は宇都宮ヒカリ座。伝統のある映画館というイメージがある。
私はJR宇都宮駅に降り立った。ヒカリ座は東武線宇都宮駅の近くなので、JR宇都宮駅からバスで行くことになる。時間に余裕があったので、のんびりと歩いてヒカリ座まで向かった。まあまあ距離があったが、歩くことで街の雰囲気を体で感じることができるので、歩いて正解かな。
創業70年の歴史。趣にあふれる館内
商店街を東武線宇都宮駅に向かって歩くと、脇道にヒカリ座が入っているビルが見えた。ビルは年数が経っているようだが、これはこれで趣がある。
エレベーターホールではヒカリ座は地下1階と5階との表示があり、エレベーターで地下1階に行こうとするも動かない。焦って映画館に電話すると、現在は地下1階のスクリーンは営業しておらず、5階のみ営業とのことである。
ヒカリ座を運営しているプラザヒカリの柳裕淳社長に話を伺った。「フロアが離れていると効率が悪いこともあり、2022年に一旦営業を止めています」とのこと。確かに、スクリーンが近くであれば効率的に運営できるが、これだけフロアが離れていると映画館を2つ運営するようなものだと思う。

柳社長に、ヒカリ座の歴史について伺った。ヒカリ座は柳社長の祖父である柳勲さんが創業された。ヒカリ座の開業は1955年、「もはや戦後ではない」という有名なフレーズのこの年はまさに映画の全盛期、年間延べ10億人の人が映画館に訪れるほどであった(現在は2億人弱)。柳勲さんは遡ることおよそ10年前に小山市で銀星会館(現在の小山シネマロブレ)を開業している。1955年当時は宇都宮や小山に多くの映画館があり、ヒカリ座周辺でも15の劇場があったそうだが、現在残っているのはヒカリ座と小山シネマロブレだけだ。
シネコンが浸透してきた2010年代前半は、いろいろな意味でターニングポイントだったそう。柳社長がヒカリ座に入社したのもこの頃。それまでは映画業界とは全く違うIT系の会社にいたが、祖父からの誘いもあり入社することを決意。IT会社の同僚からは「何でそんな斜陽な仕事をするの」とまで言われたそうである。
作品が劇場をつくっていく
2010年代前半まではヒカリ座でもメジャーな映画をかけていたが、メジャーな映画はシネコンで観ることが一般的になりつつあった。柳社長は、シネコンとは異なる、ミニシアターで上映される作品を取り入れた編成にすることで、新しいニーズを創出できると提案し、今のヒカリ座の原型ができたそうだ。
この文脈で柳社長から印象に残った言葉がある。
「やはり作品が劇場をつくっていくと思うんですね」
どの作品を選ぶかは、お客様が入るか入らないかが決まる大事なこと。地方のミニシアターでは特に個性を出さなければ集客につながりにくいため、個性のある編成にすることが映画館のブランディングにもつながっている。
2015年前後に『黄金のアディーレ 名画の帰還』や『英国王のスピーチ』などを上映し、さらには音楽系のドキュメンタリーやメジャーではないアニメ作品、韓国映画やインド映画を上映して、新しいファンを獲得していったそうだ。
その中で稼働率を見つつ、宇都宮ヒカリ座に相性が合う作品を定着させていった。

「ヒカリ座でかかる映画は、全て観ています」
ヒカリ座のコンセプトについて聞いた。「志の強い映画ファンの方に寄り添える作品を選定し、提供していくことです。社会性の強い作品なども多く上映しています。このような作品を鑑賞してもらい、現代社会のあり方を考えるきっかけにして欲しい」と柳社長は語る。ここにも作品重視の姿勢が読み取れる。
ヒカリ座に来ているお客様に少し話を聞いてみた。平日に来ている方だったのでコアな映画ファンだと思うが「ヒカリ座でかかる映画は、全て観ています」と聞き、驚いた。たまたまこの方だけだったのかなと思い、柳社長に聞いてみると「そういうお客様がいることはよく耳にしますね」とのことだ。

ヒカリ座はインディーズの作品もよく上映する。「インディーズの作品は監督が積極的にPRしてくれるし、舞台挨拶などにも来ていただけるので、ぜひ上映していきたいと思っています。映画館としてインディーズの監督の作品に出資したこともあり、インディーズ分野も盛り上げていきたいですね」
インディーズ映画の監督にとって、資金を集め映画をつくることと、完成した作品を映画館で上映することは悲願なので、映画館がこのように応援してくれる姿勢であることは嬉しいことであろう。もちろん出資や上映を行う作品は厳選されているのだろうと思うが。
映画館は“価値観を共有するインフラ”である
宇都宮ヒカリ座で映画を観てみた。まず驚いたのはチケットを券売機で購入するのだが、結構レトロなのだ。うーん、趣がある。劇場の中はスクリーンが比較的大きく、センターに通路があるタイプの席で、どこか懐かしい感じがした。『雪子 a.k.a』(監督:草場尚也)を鑑賞。とても面白く、質の高い作品を選んでおられると感じた。

最後に、柳社長に「映画館をどのように定義されていますか?」と聞いてみた。「映画館は、価値観を共有するインフラだと思っています。さまざまな価値観の中で、少しでもご自身が模索する価値観の参考になる作品を、インフラとして提供していきたいと思っています」
選び抜かれた作品の編成に、社長の想いが丁寧に投影されている。
皆さんにも、ここでぜひ映画を鑑賞してもらいたいミニシアターだ。