ミニシアター探訪

第1回 サツゲキ

ミニシアターには、シネコンにはない独特の個性がある。館主や支配人の映画愛がシアター内に垣間見えるのはもちろんのこと、お客さまとも距離が近く、独自のサービスを行うところもある。ミニシアターとシネコンの相互作用で映画文化が成り立っているといえる。そんなミニシアターの魅力を一人でも多くの人にお届けするために、この連載を開始する。(ジーンシアター代表 井村哲郎)

サツゲキ誕生秘話を伺った

10月も下旬になろうかという頃、札幌のサツゲキというミニシアターを訪れた。やはり北海道はこの時期でも寒い。もっと厚着してもよかったかなと感じた。ミニシアターは独自の名前を付けており、それぞれ特徴が出ていて面白い。今回は「サツゲキ」という名前のミニシアター。“札幌の劇場”を略したのかなと誰でも考える想像をと像しながら、訪れた。サツゲキは札幌では有名な商店街 狸小路の5にある。狸小路は1から8まであり(8だけ屋根がついていない)、5は中央値なので狸小路の中でも中心的な立地なのだろう。

サツゲキはその成り立ちが複雑で、事前のリサーチでもよくわからないことがあったので、支配人の横澤康彦さんに詳しく聞いてみた。以前はレンタルビデオ会社やスポーツクラブなど、映画興行会社ではない企業が経営していたそうだ。2018年12月にスガイディノスという会社が、ボウリング場やゲームセンター、それにサツゲキの前身となるディノスシネマズ札幌劇場を運営していたとのこと。そして2019年6月にビル老朽化のため閉館となった。この2019年6月に閉鎖となったディノスシネマズ札幌劇場は1年後の再開を目指してクラウドファンディングを行い、773名から約1200万円の支援を受ける。そして1年後の2020年7月に名前を「サツゲキ」としてオープンした。場所は、ディノスシネマズ札幌劇場があった場所ではなく、狸小路5に2スクリーンで運営していた札幌東宝プラザ2・5の跡地で営業を開始した。そして2022年10月にはシネコンチェーンを運営する佐々木興業株式会社グループに入り、様々な映画をかけられるようになった。

サツゲキ 横澤康彦支配人

横澤支配人はディノスシネマズ札幌劇場の時から支配人をしており、2020年のサツゲキオープン当初のことをこう語る。「サツゲキという名前でオープンしたのが2020年7月。コロナ禍の真っ只中で、密にならないようにというのが、世間の認識でした。狸小路は特に人が密集するところで、しかも映画館。再開したものの初めは厳しかったですね。でもクラウドファンディングで支援していただいた方のためにも、頑張っていこうと思いました」

28席のシアターも 結構快適な鑑賞だった

サツゲキは全部で4スクリーン、それぞれの席数が200席、170席、48席、28席である。この席数を見た時、「28席?これは少ないな」と思い、少ない席数の理由を横澤さんに聞いてみた。「もともと2スクリーンしかなかったのです。ただディノスシネマズ札幌劇場の時は○スクリーンあり、大きな作品以外にも小規模の作品もかけていました。実は札幌はミニシアターがとても少なく、サツゲキが小規模の作品をかけないと札幌の街では上映されなくなってしまうので、小規模の作品を数多く上映するためには2スクリーンでは足りなかったのです。そこで大きなスクリーンをT字型に切って3スクリーンにして、合計4スクリーンにしたのです。この点はとてもこだわりました。作品によっては北海道ではサツゲキだけで上映というケースも多く、札幌以外の道内からもお客さまにお越しいただいています」

28席のスクリーン2

なるほど、小規模作品を上映するために1つのスクリーンを3つに分割したのか。これは凄いことだと、横澤支配人の映画愛を感じた。私は28席のスクリーン2で、その日に上映されていた『鯨の骨』を観た。入ってみて驚いた点が2つあった。まずはスクリーンが想像していたよりも大きいのだ(幅5,200cm、高さ2,180cm)。28席なので、映画会社の試写室のようなものを想像していたが、もともと大きなスクリーンを分割しただけあって、天高が高く、大きなスクリーンを配置できたのであろう。もう一つは、なんと椅子が赤や黄色などカラフルなのだ。これはシネコンにはない発想だ。ただ映画館にこのようなカラフルな椅子却って逆効果は必要なのだろうかと思い、横澤さんに聞いてみたところ、入った時に「劇場が小さい」と思われるのではなく「おしゃれだな」と思ってもらいたかったとのこと。なるほど、確かに映画を見ている時はカラフルな椅子は全く気にならなかった。僕はこのスクリーン2で映画を2本観てみた。椅子も隣の席が気にならないくらいで快適だった。

観た映画は『鯨の骨』と『白鍵と黒鍵の間で』。『鯨の骨』はAR(拡張現実)がバックグラウンドになっているミステリー系映画。落合モトキさんの演技が抜群にいい。あのちゃんも、あのちゃんらしさとあのちゃんらしくないところが交差して面白かった。『白鍵と黒鍵の間で』は池松壮亮さんが一人二役をしている。原作を読まずに行ったこともあり、設定を理解するのが最初は大変だったが、池松さんの演技は必見であった。

上映する映画はサツゲキ独自のこだわりも

横澤支配人に聞くと、なんとスクリーン1とスクリーン4は4Kレーザーのスクリーンを採用しているらしい。4K画質の映画が4K画質のまま観られるとは、凄い。札幌でも4Kレーザーのスクリーンを採用している映画館は少ないとのこと。ミニシアターであっても、4K画質の映画は4K画質で観てもらいたいという映画館の強いこだわりだと感じた。

上映される映画の選択についても伺った。基本は系列の佐々木興業の編成によるのだが、横澤支配人やサツゲキのスタッフが「これはいい」と思ったものは、推薦して上映することがよくあるという。私が訪れた時もロードショー系の映画もあれば、小規模作品も上映していた。

横澤支配人に聞くと、最近流行りの“応援上映”はサツゲキではかなり前から行っていたとのこと。応援上映は新しい映画の見方ということで、サツゲキでも積極的に取り入れている。上映開始前に横澤支配人がスクリーン前で前説などを行い、熱気を盛り上げるそう。

壁一面に来館したゲストのサインがあった

スクリーン以外でも、シアター内に見どころがたくさんあるのも良かった。札幌まで監督や俳優を呼ぶのは簡単なことではなく、頻繁には来てもらえない。それでも、スクリーン4(地下1階)の壁には来館した監督や俳優のサインが数多く書いてある。ムロツヨシさんや白石和彌監督のサインもあった。そして北海道の釧路のラブホテルを舞台にした『ホテルローヤル』の原作者・桜木紫乃さんのサインもあり、北海道らしさを感じた(『ホテルローヤル』は波瑠さんがラブホテルオーナーの娘役という珍しい役どころ。以前配信で観たが、まったり感があって面白かった)。

控室も見せていただいたが、そこにも壁一面に来館したゲストのサインが書いてあった。深田晃司監督のサインもあり、映画人たちがここに来たんだな、としみじみ感慨にふけった。

おすすめの映画のコーナーも設置している。それが案外目立つのだ。横澤支配人は「大きな宣伝予算がついていない作品でも、サツゲキに来たお客さまには是非興味を持ってもらいたい思いから、コーナー展開は積極的にやっています」と話す。

コンセッションも独特だった

コンセッションは、通常映画館で目立つポップコーンよりも、プレッツェルなどシネコンではメインで推していないフードやドリンクを推していた。コンセッションというよりもカフェをイメージしているとのこと。映画を鑑賞する前や鑑賞後に、静かに余韻を楽しんでもらうためにカフェスタイルをとっているそう。私はプレッツェルが好きなので迷わず購入。モチモチ感があり美味しかった。シネコンでは、ポップコーンとウーロン茶をお供に映画を観るのだが、プレッツェルとカフェラテでの映画鑑賞も、少しリッチな気分でなかなかいいものだ。

取材を終えて、階段を降りる途中にクラウドファンディングで支援した方達の名前入りプレートが飾ってあった。こんなに目立つところにあることに驚いた。映画館であれば映画のポスターを貼りたいところだが、ここに支援者のプレート。サツゲキがいかに地元の人やお客さまを大事にしているかがわかった気がした。 外に出ると、夕方の狸小路は多くの人で賑わっていた。

(取材:ジーンシアター代表 井村哲郎)

サツゲキ概要

住所 〒060-0062 北海道札幌市中央区南2条西5丁目6-1 狸小路5丁目内
電話番号 011-221-3802
駐車場 提携の駐車場 なし

施設
スクリーン1
200席(車椅子1席) 音響システム デジタル7.1ch スクリーンサイズ W11,000×H4,600

スクリーン2
28席 音響システム デジタル7.1ch スクリーンサイズ W5,200×H2,180

スクリーン3
48席 音響システム デジタル7.1ch スクリーンサイズ W5,400×H2,910

スクリーン4
170席(車椅子1席) 音響システム デジタル7.1ch スクリーンサイズ W7,600×H3,180