ミニシアター探訪

元町映画館

街の中に映画が紛れ込んでいるミニシアター

 初めて元町に来た。いや以前来たかもしれない。とてもおしゃれな街だ。駅からほど近いところに大丸神戸店がある。銀座の三越のような十字路に、丸みを帯びた外観で、名門百貨店の雰囲気がある。そして元町の商店街を歩くと、映画館へ向かう道なのに、どこか“日常の買い物”の匂いがする。アーケードの下、惣菜の湯気、コロッケ店の行列、すれ違う人の会話。そういう生活の音と匂いに混ざりながら、元町映画館に着いた。

 ここは“映画を観に行く場所”である前に、“街の中に映画が紛れ込んでいる場所”だ、と感じた。インディーズの監督たちがここで作品を上映したがるのもわかる気がする。

創業のきっかけは、意外なところにあった

 今回のミニシアター探訪は、神戸・元町映画館。
 代表理事の髙橋勲さんにお話を伺った。
 元町映画館は2010年開業。ミニシアターの歴史としては比較的新しい部類に入る。けれど、話を聞けば聞くほど、その新しさは“軽さ”ではなく、“覚悟”の上に乗っていることがわかってきた。

元町映画館 代表理事 髙橋勲さん

 創業のきっかけは、少し意外で、でもどこか映画館らしい。
 土地と建物を持っていたのは、映画好きの医師。映画館とはまったく違う業種の方だったが、「ここを映画館にしたい」という想いを持っていたという。プロジェクトは開業より少し前から動き、2010年に“開業”という形になった。
 ただ、映画館は“想い”だけでは始められない。
 そこで集まったのが、大学の先生や会社勤めなど本業を持ちながら出資した約10人。いわゆる一般社団法人の「社員」として支える側に回り、現場の運営そのものはスタッフが担う体制だった。
 その現場を走り出させたのが、髙橋さんと奥さま、そして創業メンバーの藤島さんの3人。
 映画館のスタートを“少数精鋭”と言うのは簡単だが、創業メンバーが3人というのは尋常なことではない。
 髙橋さんは、もともと映画館で働いた経験があった。松山で約3年、神戸市内でも約3年。だから“映画館の仕事”は知っていた。けれど、映画館の開設や責任者としての運営となると話が別になる。
 来場者数がどれくらいになるか読めない。売上がないと続けることができない。大きな親会社がいて別事業で補填する形ではない。インディペンデントとして、まずは「一年、生き残る」ことから始まる。
 この「最初の一年」の話が、妙にリアルで、胸に残る。
 スタッフ3人で回し、ボランティアにも助けてもらいながら、最低限の収入で一年を乗り切る。家賃が創業者の厚意で低く抑えられていたことも大きい。それでも、体力的には相当きつい。上映の現場をやりながら、細かな事務手続きを全部一人でこなしていく。

「神戸で、東京と同じことはできない」からこそ、生まれるもの

 開業当時、神戸にはシネコンはもちろん、特色ある映画館も点在していた。徒歩圏内にミニシアターや名画座二本立ての映画館もある。
 そんな状況の中で元町映画館が目指したのは、「他がやっていない映画を上映する」こと。これが結果として、劇場の特色になっていったという。
 髙橋さんが繰り返し話していたのは、地方都市の厳しさだ。
 東京で成立する映画と、東京以外で成立する映画の違いは、年々顕著になっている。東京はイベントも組みやすいし、関係者の動きもある。けれどそれがそのまま地方で再現できるとは限らない。
 だから“何でも同じように”ではなく、“ここでできる形”を探すしかない。
 その探し方の一つが、プログラムの多様性だった。
 元町映画館は、開業当初から地域もジャンルもバリエーション豊かに組み、興行収入を常に見ながら現実も踏まえつつ編成しているという。
 そして印象的だったのが「ドキュメンタリー映画が多い」という話だ。シネコンではかかりにくい日本のドキュメンタリーも、ここでは大事な柱になる。政治的なテーマが含まれて敬遠されがちな作品も含め、“他がやらないからやる”という姿勢が、結果として館の輪郭を作っていく。
 インディーズ作品についての話も、理想論ではなく現実の言葉だった。
 小規模作品は宣伝が届きづらく、目標の客数を超えるのが難しい。夜や夕方は特に厳しい。だから“たくさんはできない”。それでも、採算を度外視しながらでも「いい作品ならやる」。
 この「できないこと」と「それでもやること」の間で、映画館は日々、細い綱を渡っている。

フィルムの終わりと、設備投資の現実

 元町映画館の歴史の中で記憶に残る出来事として、髙橋さんが挙げたのは2011年前後の“フィルムの終わり”だった。
 2010〜2011年頃はまだフィルム中心で配給していた会社があったが、DCP化の流れの中で「この先できなくなる」という状況が見えてきた。だからこそ、ジャン゠リュック・ゴダールやテオドロス・アンゲロプロスなど、フィルムで観るべき作品の特集上映を行ったという。
 この話が面白いのは、懐古趣味ではなく「変わってしまう前に、今やる」という選択だったことだ。
 フィルム上映は手間もあるし、設備の維持も大変。DCP導入や機材更新も簡単ではない。中の部品を交換しながら、ぎりぎりで更新していく。
 ミニシアターの“設備投資”は、しばしば夢を語る記事の外側に置かれる。でも実際は、夢のかなり中心にある。映写が止まれば、夢は始まらないのだから。

顔が見える距離が、映画館を映画館にする

 元町映画館はロビーも含めてコンパクトだ。
 その“狭さ”は、シネコン的な快適さとは違うけれど、別の価値を生む。

元町映画館の入り口

 髙橋さんは「顔が見える」と言った。
 何度も来るお客さんの顔を覚え、名前までわかることがある。シネコンではまず起こらない距離感だ。映画好きは映画の話がしたい。そこに場がある。

 この“人情”こそ、ミニシアターの強みだと改めて思う。
 客層は作品によって違うが、平均すると男女比は半々くらい。ただ年齢層は高めで、昼の回が強い。夜が入らない=若い人が入りづらい、という現実もある。
 でもそれでも、商店街の中にある映画館だからこそ、買い物のついでにふらりと寄れる可能性が残っている。

商店街の中の映画館は、商店街の論理で生きる

 アーケードの中に映画館があるのは地方都市の傾向かと思う。アーケードの中の映画館は、映画館が“目的地”であっても、アーケードを楽しみながらワクワク感を持って訪れることができる。
 商店街には行列ができる店がある。SNSで火がつけば若い人も並ぶ。
 「注目されるとそうなる」という街の現象を、髙橋さんは冷静に見ていた。そして映画にも、同じ瞬間がある。満席が出ると口コミが走り、勝手に走り出す。難しいけれど、起きれば強い。
 商店街の熱が、映画館にも伝播する。その可能性がこの立地にはある。

“会員”ではなく“サポーター”であるということ

 元町映画館にはサポーターズクラブ制度がある。年会費1万円(2026年6月現在)。チケットが安くなるだけでなく、「支援」の意味が濃い仕組みだという。
 映画館にとっては雑収入になるが、本丸はやはり観客数。
 それでも、この制度があることで「この映画は1800円なら迷うけど、1200円なら観よう」という背中押しにもなる。一本でも多く観てもらうための仕掛けでもある。
 “映画館を支える”という行為が、購入や寄付ではなく、「次の一本を観る」という形で成立しているのが、すごく映画館らしい。
 最後に、髙橋さんが語った「映画館とは何か」という話が、個人的にいちばん好きだと感じた。
 「映画は前評判を知らずに観た方が実はいい」という話。
 体験前に点数や評価が欲しくなる時代だけれど、知らずに観に行って、予想を裏切られる体験こそが映画の醍醐味だ、と。
 これは映画館の人が言うからこそ、説得力がある。商売としては不利なのに、それでも言いたい真実なのだろう。

元町映画館 スクリーンと客席

それでも続ける。続いていることが、街の文化になる

 最後に「これから大切にしていきたいこと」を聞くと、髙橋さんはまず“存続”を挙げた。
 観客数は減少し、コストは上がる。コロナ前に戻っていない実感もある。だからこそ、もう一年、もう一年と続けるためにアイデアを出し続ける。
 映画館は、続いているだけで文化になる。
 商店街の中に、今日も明日も「上映中」の灯りがあるという事実が、街の記憶を支える。
 帰り道、アーケードの下でまたコロッケの匂いがした。
 その匂いと一緒に、映画の余韻も連れて帰る。
 元町映画館は、そんなふうに“生活の中に混ざる映画館”として、今日もきっと誰かの一日を少しだけ変えているのだと思う。

元町映画館

概要

住所 神戸市中央区元町通4丁目1-12
   JR・阪神電車「元町」駅西口より、南西へ徒歩6分 
   神戸高速鉄道「花隈」駅東口より南東へ徒歩6分
   神戸市営地下鉄海岸線「みなと元町」駅2出口より北へ1分
66席+1(車椅子)
TEL & FAX 078-366-2636

チケット

通常鑑賞料金

一般        1,800円
学生(学生全般) 1,000円
シニア(60歳以上) 1,300円
障害者      1,000円
神戸映画サークル会員(会員証提示) 1,300円
※作品により料金が変動する場合があります。
※神戸映画サークルへの入会は当該団体にお問い合わせください。

特別鑑賞料金

ファーストデー(毎月1日) 1,300円
サービスデー(毎週水曜日) 1,300円
いっしょ割(毎週月・金曜/2名さま以上) 1,300円
映画の日(毎年12月1日) 1,000円

公式

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