今回のミニシアター探訪は名古屋の「伏見ミリオン座」。私は⚫️⚫️座という映画館名がとても好きだ。東京都新宿区にある東急歌舞伎町タワーが立つ前に、かつてミラノ座という映画館があった。席数は1,000席をゆうに超え、内装も豪華で、まさに映画館というイメージであった。⚫️⚫️座というネーミングは少しレトロさを感じさせてくれる。
伏見ミリオン座命名の由来
伏見ミリオン座は名古屋市営地下鉄の伏見駅から徒歩1分という好立地にある。レトロ感を期待して行ったが、ビルは新しそうに見える。これは歴史から聞いてみなければと、伏見ミリオン座の稲垣明子支配人に話を伺った。
伏見ミリオン座は1950年に映画配給会社のヘラルドが開業した。開場当時は「ミリオン座」という名前だったらしい。ちょうどその頃、名古屋市の人口が100万を超えたので「ミリオン=100万」という命名にしたそうだ。なにかヨーロッパの都市などからとったのかなと想像していたが、人口から命名したとは面白い。
1983年に一旦閉館となるが、2005年にヘラルドを開業の祖に持つケーブルテレビ会社のスターキャット株式会社が新たに伏見ミリオン座として開業。そして今の場所には2019年に移転したそうだ。なるほど、それでビルが新しいのか。納得がいった。
コンセプトは「ミニシアターのシネコン」
稲垣支配人に伏見ミリオン座のコンセプトを聞いてみた。「ミニシアターのシネコン」とのこと。
伏見ミリオン座は4つのスクリーンがある。なるほど、それで「ミニシアターのシネコン」か。もう少し深く話を聞いてみた。
ミニシアターにかかる作品は難解なものが多く、ミニシアター愛好家を対象にした作品が上映される傾向にある。大手シネコンでは宣伝費が多く全国多数の映画館で上映される作品が多い。伏見ミリオン座はミニシアター系でよくかかる作品だけでなく、エンタテイメント性の高い作品も積極的に上映していきたいとのことであった。できるだけ多くの人に映画の魅力を知ってもらいたいためにさまざまな映画を上映するとのこと。
シネコンというと効率的な運営が思い浮かぶ。一体大手シネコンとどんな差別化をしているのだろうか。稲垣支配人は「大手シネコンとの差別化は、単館系でコンパクトな特性を活かし、スピーディーな意思決定ができるところです。お客様に喜んでいただけるような独自のイベントを短期間で設定できたりします」と語る。なるほど、それは大きな差別化につながりそうだ。さらに伺うと、伏見ミリオン座で上映したい映画を、映画館スタッフが本社の編成部に提案し、実際にその提案が通って上映が決定した映画も珍しくないという。編成部は伏見ミリオン座と同じビルに入っているので、物理的距離も近い。
上映する作品の方針についても聞いてみた。数ではなく、質を重視するとのこと。さまざまな映画を上映するといっても、質の高い作品を選んで上映する姿勢なのであろう。もちろんお客様の入りによっては短期で上映が終わる映画もあるだろうが、選んだ映画はしっかりと上映していきたいという姿勢にはとても好感が持てる。
イベントを重視し「映画体験」を提供
伏見ミリオン座はイベントを重視しているとのこと。例えばインド映画「RRR」のマサラ上映(紙吹雪をまきながら鑑賞する)や応援上映を実施したり、大学の教授を呼んで映画の背景となっている歴史的背景を話してもらったり、雑誌の編集者に来ていただき、雑誌に取り上げた映画の理由を話してもらったりするイベントを開催しており、月によっては毎週イベントをやっている月もあるそう。
稲垣支配人から素晴らしい話を聞いた。配信が普及してきて「映画を見ることは日常」になっているが、映画館で映画を見ることは、何歳の時に、誰と観て、そのあとどこに行ったかまで繋がって覚えている特別な体験であり、いつまでも記憶に残る体験なのだ、と。映画鑑賞にプラスしてイベントを提供するのは、そのような意味もあるとのこと。伏見ミリオン座ではそのことを「映画体験」と呼んでいるそうだ。「映画体験」、素敵な言葉だ。
イベント運営は大変では?と聞くと「もちろん大変です。ただ、お客様に映画体験を提供でき、さらに映画館スタッフ自身も楽しんでいるので、これからも積極的にやっていきたいですね」とのこと。観客にとっては頼もしく、嬉しい。
近年で動員が多かったのは『この世界の片隅で』(監督:片渕須直)。公開前に片渕監督が宣伝で劇場へ来訪した際に、コメント動画を撮りそれを映画の幕間で流したところ、「伏見ミリオン座だけ片渕さんのコメントが流れる」と話題になったそう。イベントではないが、映画館を訪れたお客様を喜ばせたいという気持ちがこのようなことにつながったのだろう。
客席やコンセッションなど映画館の概要
伏見ミリオン座は4スクリーンで417席ある。設備はプロジェクターも4つのスクリーンも全て4K対応。4Kリマスターなどの4K作品を綺麗な映像で観ることができるのは嬉しい。
座席は傾斜がかなりあるため、前の人が気になることがない。わたしは伏見ミリオン座で『リファッション アップサイクル・ヤーンでよみがえる服たち』(監督:ジョアンナ・バウワーズ)を観たことがあるが、とても快適に鑑賞することができた。
稲垣支配人から面白い話も聞いた。舞台挨拶で登壇する監督や俳優が、傾斜が鋭角のため観客全員の顔がよく見えるので緊張するそうだ。
ミリオン1(シアター1)はウーファースピーカーを入れていて、低音が響く音響となっている。映画館は音声が重要なので、これも嬉しい。
伏見ミリオン座の館内を歩くと、上映している映画のポップアップなどが至るところにある。すべて映画館スタッフの手づくりとのことで、映画愛にあふれていることが一目でわかる。今回伺った時は『箱男』(監督:石井岳龍)が上映されていて、実物大の箱が展示してあった(写真あり)。この手づくりのポップアップ、見ていて飽きない。思わず見入ってしまう。稲垣支配人に聞くと「このポップアップは壁がお客様を接客してくれている」とのこと、なるほど、ポップアップはPRでなく、接客という発想なのか。これも素晴らしい考え方だ。
ロビー階の通路には舞台挨拶で来訪した監督や俳優のサインが整然と並んでいて、これを眺めているだけでもあっという間に時間が過ぎる。伏見ミリオン座を訪れたら是非、見てほしい。
さらに見てほしいのは男性トイレ。壁一面が映画のチラシ・ポスターで埋め尽くされ、圧巻の光景だ。
コンセッションは有機栽培のコーヒーを提供している。私は映画館のコンセッションが好きだ。特にミニシアターのコンセションはこだわっているところが多い。クリームソーダやミルクフルーツラテなど懐かしい響きのドリンクもあるそうだ(2024年8月現在)。食べ物ではなんとおにぎりを売っていたこともあるそうだ。映画館におにぎり、意外と合うかもしれないな。
伏見ミリオン座を取材してみて、映画・映画館・イベントの全体でお客様の心に残る体験を提供するため、スタッフと本社が一体となって取り組んでいるんだなと感じた。
素晴らしい映画館だ。
伏見ミリオン座概要
名古屋市の人口が100万人に達したことを記念して名付けられた「伏見ミリオン座」。
4スクリーンを有する映画館でアメリカ、ヨーロッパ、アジア、日本の映画作品を厳選し上映。映画の音響を最大限活かした「大音響重低音上映」やライブ、イベントの中継上映も開催。
また、上映作品はテレビCMで予告が流れる大規模な作品から全国での公開規模も小さくテレビCMや新聞、駅などで大きな広告出ない作品も上映。当館ではそんな作品もわかりやすくご紹介するコーナーを館内各所に設置しています。カフェ利用のみでも作品の雰囲気や装飾を楽しんでいただく事ができます。提供するコーヒー豆も厳選した数種類をご用意しており、気分に合わせて1杯ずつドリップすることもできる他館にはない魅力いっぱいの映画館です。
伏見ミリオン座
(運営:スターキャット株式会社 / 系列:センチュリーシネマ)
営業時間 9:00~23:00 ※映画によって異なります /休館日:なし
住所 名古屋市中区錦二丁目15-5
◆地下鉄「伏見」駅1番出口から東へ徒歩1分
電話 052-212-2437
スクリーン数&総座席数
417席
[ミリオン1]184席(+車椅子席1席)
[ミリオン2]47席(+車椅子席1席)
[ミリオン3]109席(+車椅子席1席)
[ミリオン4]74席(+車椅子席1席)
劇場ホームページ https://eiga.starcat.co.jp
公式SNS X https://twitter.com/fusimimillionza
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