秋田駅に降り立つと、東京や大阪の駅前とは違う時間が流れていた。平日に訪れたからか、人は多くなく、街の音量が少し低いように感じた。駅前にも高層ビルがなく、遠くまで見渡せる。
今回のミニシアター探訪は、秋田県秋田市にある「AL☆VEシアター supported by 109シネマズ」。秋田駅東口に直結する複合施設「秋田拠点センター AL☆VE(アルヴェ)」の中にある映画館である。
連載・ミニシアター探訪では、いわゆる単館系の映画館を訪ねることが多い。だから、正直に言えば「supported by 109シネマズ」という名前を見た時、少し不思議な感じがした。大手シネコンの名前を冠しながら、秋田駅前で3スクリーンを運営する映画館。これは一般的なミニシアターとは違うのかもしれない。けれど、話を聞くほどに、ここには地方都市で映画館を続ける難しさと、そこで何とか映画の灯を残そうとする人の姿があった。
本日は、AL☆VEシアター supported by 109シネマズの稲田仁支配人に話を伺うことになっている。
何度も名前を変えながら、映画館はここに残った
AL☆VEシアターの歴史は、少し複雑だ。2004年に「パンテオンシネマズAKiTA」として始まり、その後「ルミエール秋田」となり、2020年に現在の名称へと変わっていった。
稲田支配人の話を聞いていると、その変遷は単なる館名変更ではない。資本、運営、編成、施設の所有者、地域との関係。いろいろなものが絡み合いながら、この場所で映画館を続けてきた歴史なのだとわかる。
もともと秋田には、かつて“パンテオン”と呼ばれていた映画館があったという。映画評論家・水野晴郎さんとの関わりや、個人融資、共同での立ち上げなど、創業当初はかなり混沌としていたようだ。稲田支配人自身も、その頃からこの映画館に関わってきた。水野晴郎さんが監督した『シベリア超特急』の秋田支部長になった、という話も飛び出す。こういう個人的な縁や偶然の連続が、地方の映画館の歴史を動かしているのかもしれない。

その後、盛岡の企業資本のルミエール時代があり、稲田支配人はアドバイザーとして赤字解消やイベント収入づくりに関わるようになる。
映画館の仕事というと、どうしても作品を選んで上映することだけを想像しがちだが、ここでは多岐にわたる。秋田市のイベント、シニア映画祭、上映会、地域の催し。そうした外部イベントを受け、収益の柱にしていく。ピーク時には年商に対してかなりの割合をイベント収入が占めるほどだったという。
つまり、この映画館は「映画を上映する場所」であると同時に、「映像を使った地域イベントの受け皿」でもあった。
映画館のスクリーンは、映画だけのものではない。地域の記録、学校の発表、上映会、トーク、漫才、イベント。スクリーンそのものが街の共有財産になる。
3スクリーンになった映画館と、駅前に残された役割
AL☆VEの民間部分は、秋田ケーブルテレビグループの所有となり、ルミエールとの契約が終わる。かつて5スクリーンあった映画館は、現在3スクリーンになった。残りの空間はシェアオフィスに変わっているとのこと。
稲田支配人は、映画館のコンセプトについて「駅周辺のにぎわい創出」と語った。秋田に来た人が最初に見るのは駅前である。駅前が寂しいと、「この街は寂しいな」という印象を持たれてしまう。だからこそ、駅周辺に人の流れを作ることが大切なのだという。
確かに、駅前は街の玄関だ。そこに映画館があるということは、単に娯楽施設があるということではない。
「この街には、夜に映画を観られる場所がある」
「雨の日でも、子どもやシニアが立ち寄れる場所がある」
「イベントや上映会を開ける場所がある」
それだけで、街の印象は変わる。

109シネマズに番組編成を任せ、運営に集中する
AL☆VEシアターの大きな特徴は、番組編成を109シネマズ側が担っていることだ。稲田支配人は、かつて自分でも編成をしていた経験がある。若い頃は、東京に通って試写を観たり、配給会社のセールスと話したりしていたという。しかし、現在の少人数体制で、運営も設備も接客も見ながら番組編成まで抱えるのは簡単ではない。設備も古くなってきており、DCPやアンプ、映写まわりの調整も必要になる。東京から技術者を呼べば費用がかかるため、ちょっとした不具合は自分で直すこともあるという。
映画館を運営する現場のリアルが、そこにある。映写機が動く。音が出る。上映時間通りに始まる。その「当たり前」を維持するために、見えない仕事が積み重なっている。
編成を外部に任せるというのは、現実的な判断かもしれない。限られた人員と設備の中で、どこに力を注ぐか。AL☆VEシアターの場合、それは日々の運営、地域イベント、接客、駅前のにぎわいづくりなのだと思う。
秋田で映画を届ける難しさ
秋田は映画が盛んな地域なのか。そう聞くと、稲田支配人は率直に「映画館の数は少ない」と話した。秋田の観客は、アート系には少し厳しい。王道の作品、たとえばディズニーやトム・クルーズ主演作のような大作を好む傾向があるという。
この話を聞いて、私は少し考え込んでしまった。地方でミニシアター系の作品を届ける難しさは、何度も取材で耳にしてきた。東京で話題になった作品が、地方では上映されない。上映されても、観客が集まらない。そもそもその作品の情報が届いていない。秋田市内には大手シネコンもあり、ロードショー作品だけでもスクリーンは埋まってしまう。3スクリーンのAL☆VEシアターにとって、アート系やインディーズ作品を多く入れる余裕は限られる。
「東京のミニシアターでかかるような作品をどんどん上映する」という形には、なかなかならない。
しかし、だからこそ見えてくる役割がある。AL☆VEシアターは、いわゆるミニシアター専門館ではない。けれど、駅前にある小規模な3スクリーンの映画館として、シネコンとは違う柔軟さを持っている。地域の上映会を受ける。地元に関係する作品を上映する。シニア層が来やすい環境を作る。それは、別の形の“地域の映画館”である。

地元の作品は、やはり強い
AL☆VEシアターで印象に残っている上映について聞くと、稲田支配人は地元に関係する作品を挙げた。秋田でロケが行われた作品、秋田出身の監督の作品。そういうものは、やはりお客さんが入るという。映画は、遠い世界へ連れていってくれるものだ。しかし同時に、自分の街が映る、自分の知っている場所が出る、自分の県に関係する人がつくった、というだけで、ぐっと身近になる。地方の映画館にとって、「地元性」は大きな力だ。
稲田支配人は、今後も地元に密着した映画館にしていきたいと話す。地元出身の俳優が出ている作品。あまり広くは公開されていないけれど、秋田に縁がある作品。そういう映画を見つけて、上映していくことも考えているという。この方向性は、とても大切だと思う。東京でヒットしているから上映する。大手の番組に乗っているから上映する。それだけでは、地方の駅前映画館の個性は生まれにくい。
「秋田だから上映する理由がある」
「ここで観る意味がある」
そういう作品が一本ずつ増えていけば、映画館は少しずつ街の記憶と結びついていく。
シニアが集まる映画館、会話が生まれる映画館
AL☆VEシアターの客層は、平日はシニアが多い。60代以上のお客さんが中心で、男女比はおおよそ半々。土日はファミリー層も増えるが、若い世代は車で郊外のシネコンへ行く傾向が強いという。
ここにも地方都市の現実がある。地方都市では若い人にとって、映画館はショッピングモールの中にあるものになっている。買い物をして、食事をして、映画を観る。その流れが日常になっているのだろう。一方で、駅前のAL☆VEシアターにはシニア層が来る。そして、そのシニア層に向けた接客がとても印象的だった。
上映後に話しかけてくるお客さんがいる。ネット予約をしようとして、やり方がわからないお客さんがいる。QRコードを出せなくて困る人がいる。そういう時に、スタッフが自然に対応する。
映画館に来る理由は、映画だけではない。誰かに少し話を聞いてもらえる。困った時に助けてもらえる。顔を覚えてもらえる。そういう小さな安心感が、次の来館につながっていく。

3つのスクリーンは、作品ではなく“お客さま”で考える
AL☆VEシアターには3つのスクリーンがあり、いずれも127席だ。同じ規模のスクリーンが3つあるなら、作品のジャンルや規模で割り振るのかと思ったが、稲田支配人の答えは少し違った。シニア向けの作品は、手前のスクリーンに持ってくることがあるという。理由は、トイレに近いなど、お客さんの動線を考えてのことだ。
これは、初めて聞く視点だった。普通、映画館のスクリーン編成というと、作品の規模、動員見込み、音響、座席数などで考える。しかしAL☆VEシアターでは、「誰が来るのか」「その人にとって使いやすいのはどこか」も考える。
シニアが多い映画館だからこその配慮である。映画館はスクリーンと客席だけでできているわけではない。入口からチケット売り場、トイレ、ロビー、座席までのすべてが体験になる。その体験を、来る人に合わせて少しでも楽にする。こういう細かい工夫が、地域の映画館を支えているのだと思う。
手作りのポップと、安いコンセッション
館内には、手作りのポップや名場面を紹介する掲示があるという。いま多くの映画館では、デジタルサイネージが増えている。もちろん便利だし、見た目も整っている。しかし、手作りのポップには、その劇場で働く人の体温が出る。
コンセッションも印象的だった。種類は多くないが、とにかく安い。ポップコーンとドリンクで500円ほどだという。近年の映画館の飲食価格を考えると、かなり良心的だ。これは社長の方針で、できるだけ低価格で頑張ろうとしているという。
映画館におけるコンセッションは、収益の柱の1つだけれども、ここでは「買いやすさ」や「来やすさ」も大事にしている。シニアや家族連れが多い地域の映画館では、こういう価格設定もまた、映画館の姿勢として伝わってくる。

ポイントカードは、スタッフの手から生まれる
会員制度についても聞いた。AL☆VEシアターでは、個人情報管理の難しさもあり、会員制度ではなく紙のポイントカードを採用している。何回か観ると鑑賞券がもらえる仕組みで、そのカードのデザインはスタッフが手がけているという。
こういう話が、私はとても好きだ。大きなシステムではない。アプリでもない。会員データを細かく分析する仕組みでもない。でも、手渡しできるカードがある。来場した回数が目に見える。スタッフがつくったデザインがある。それだけで、映画館との関係が残る。
映画館にとって、必ずしも最先端の仕組みが正解とは限らない。むしろ、お客さんの年齢層や地域性に合わせた“ちょうどいい仕組み”がある。AL☆VEシアターのポイントカードには、そのちょうどよさがあるように感じた。
映画だけではない、地域のスクリーンとして
AL☆VEシアターでは、映画以外のイベントも行われている。漫才、地域の上映会、中学校のバスケットボール部の全国優勝報告会。保護者が撮影したVTRを先生が編集し、それをスクリーンに映してみんなで観る。そんな使われ方もあるという。
映画館のスクリーンで、自分たちの記録を観る。それは、子どもたちにとっても、保護者にとっても、きっと特別な体験になる。テレビ画面やスマホで見るのとは違う。大きなスクリーンに映るだけで、自分たちの時間が“作品”になる。
AL☆VEシアターは、まだ模索している
最後に、AL☆VEシアターを今後どんな映画館にしていきたいかを聞いた。稲田支配人は「模索しています」と率直に答えてくれた。この言葉は、取材の中でとても誠実に響いた。地方の映画館にとって、正解を導き出すことは簡単ではない。
大手シネコンのようにラージフォーマットやIMAXで勝負するには、設備投資が大きすぎる。ミニシアター専門館としてアート系作品を中心に組むには、客層やスクリーン数の制約がある。
駅前のにぎわいをつくりたい。
シニアに来てもらいたい。地元の作品を上映したい。イベントもやりたい。でも、興行として成立させなければ続かない。だから、模索している。その言葉は、弱さではなく、現在進行形で考え続けていることの証だ。
地方の映画館は、完成形ではいられない。街の人口、交通、客層、作品の流れ、配給の仕組み、設備の老朽化。すべてが変わる中で、その都度、自分たちの役割を探し直していく。
AL☆VEシアター supported by 109シネマズは、いわゆる典型的なミニシアターではないかもしれない。けれど、秋田駅前に映画館があることの意味を考えた時、ここは確かに“街のための映画館”である。
秋田駅を出た人が、ふと映画の看板を見つける。そこに映画館があることを知る。その積み重ねが、街の印象を少しずつ変えていく。AL☆VEシアターは、秋田駅前で、今日もその小さな灯りを守っている。

AL☆VEシアター supported by 109シネマズ
概要
住所 秋田県秋田市東通仲町4番1号秋田拠点センターアルヴェ2階
電話番号 018-884-7450
メールアドレス h.inada@e-alve.com
THEATER 1 127席 + HD席2席
THEATER 2 127席 + HD席2席
THEATER 3 127席 + HD席2席
チケット
鑑賞料金(2026年7月現在)
一般 ¥1,900
会員 ¥1,600 ポイントカードをご提示ください 6回鑑賞で1回無料!!
大学生 ¥1,500 学生証をご提示ください
高校生 ¥1,000 学生証をご提示ください
中 / 小学生 ¥1,000
幼児(3歳以上) ¥900 一部作品は2歳から
AL☆VEデイ ペア料金¥2,400 毎月7のつく日
ファーストデイ ¥1,200 毎月1日 ※12月1日は¥1000
ハッピーモーニング ¥1,300 平日午前中の上映回
レイトショー ¥1,300 夜8時以降の上映回
シニア割引 ¥1,200 60歳以上 年齢が確認できるものをご提示ください
夫婦50割引 ペア料金 ¥2,400 夫婦どちらかが50歳以上 同一作品をご鑑賞 年齢が確認できるものをご提示ください
ハンディキャップ割引 ¥1,000 付き添い1名まで同料金 障害者手帳等をご提示ください