居心地の良さを感じさせてくれる映画館
今回のミニシアター探訪は前橋シネマハウス。
JR両毛線前橋駅から徒歩10分、「アーツ前橋」というビルの3階に前橋シネマハウスはある。

1階のロビーは、ビル全体の案内を担う場所だが、どこか上品な雰囲気が漂っている。というのも、この建物は前橋市が運営する美術館なのだ。美術館とミニシアターは相性が良さそうだな、など考えながらエレベーターで3階の前橋シネマハウスに向かった。
前橋シネマハウスの歴史
ロビーは少し手狭さを感じるが、いたるところにポスターや手づくりポップがあり、映画愛が伝わってくる。
日沼大樹支配人に前橋シネマハウスの歴史を伺った。

1987年に「前橋テアトル西友」として開業したそうだ。まさしくバブル経済直前期で、その頃はミニシアターブームで、ミニシアターで映画を見ること自体がオシャレで優越感を感じた時代である。
運営は東京テアトル。そしてこのビルはもともと西武百貨店前橋店だったそうである。おそらくその当時の前橋テアトル西友は群馬の文化の発信地だったのだろうと推測できる。
2006年に西武が撤退したあと、前橋市が買い取り、美術館や市の施設をオープンしたそうである。映画館はそのまま手付かずで残っていたが、2009年頃に地元の方が「シネマまえばし」として再オープンし、その後2011年に休館。
そんな中、2016年くらいに前橋市の方からシネマまえばしが空室になって時間が経つのと、群馬共同映画社に映画館の運営の要請があった。群馬共同映画社は日沼支配人の祖父・日沼富男氏が創業だ。
創業当初の群馬共同映画社は子供たちの映画サークルを運営し、子供たちと相談して「こういう映画をかけて欲しい」と映画興行組合にお願いに行って上映してもらう活動をしていた。日沼支配人が聞き及んだ話では、映画サークルにはなんと会員が3万人くらいいたそうだ。
群馬共同映画社は映画の製作も行っている。群馬交響楽団をテーマにした『ここに泉あり』(今井正監督)から製作委員会に入ってほしいと相談があり、資金集めを行い、その映画が大ヒット。そこから映画を製作するようになった。
日沼支配人の父・日沼和佳氏が経営にたずさわるようになってからは、製作よりも上映をメインとした業務に変わる。日沼支配人も学生時代に上映を手伝っていたが、ある時期から映画を離れ、映画と関係のない仕事に就職した。祖父が亡くなる間際に跡を継いでほしいと伝えられ、再び父の上映会を手伝うようになった。
一旦、熟慮したが、2017年の暮に運営を受託して、2018年3月に上映を開始し、前橋シネマハウスとしてスタートした。
オープニングは『ラ・ラ・ランド』(デイミアン・チャゼル監督)『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス監督)『湯を沸かすほど熱い愛』(中野量太監督)。
同年4月からはインディーズ映画の上映も始めた。

開業当初はほとんどお客様が来なかった
前橋シネマハウスとしてスタートし、当初は集客に苦戦したものの、『陸軍前橋飛行場』(飯塚俊男監督)という地元を舞台にした映画を上映。前橋に陸軍の飛行場があったが、それは極秘の存在であり、地元の人が密かに記録を取っていた。そのことを前橋出身の監督がドキュメンタリー映画として製作した。これがものすごくお客様が入る大ヒット作に。
『あの日のオルガン』(平松恵美子監督)は前橋の保育園が疎開の受け入れ先になった話で、前橋シネマハウスも出資の上全国公開。全国的には苦戦したが、前橋シネマハウスでは市内の保育園も協力してくれ、歴代ナンバーワンの大ヒット(2025年6月現在)となったそうである。
少しずつ来場者が増え、「これならやっていけるかもしれない」と思えたのが2020年の初め。
しかし、その矢先にコロナ禍が始まった。
苦難の時期を経て、2024年12月、前橋シネマハウス主催で「インクルーシブ映画祭」が開催される。
障害の有無にかかわらず、誰もが一緒に映画を楽しめる映画祭だ。
この出来事をきっかけに、少しずつお客様が戻り、ようやく業績も上向いてきたという。
地元との連携はとても大切にしている
「コンセプトはこれ」と特に定義しないようにしているとのこと。定義してしまうとそれに縛られてしまうので、決めずに運営しているそうである。
開業当初は意識してシネコンで上映している映画は上映しなかった。「近くのユナイテッドシネマさんで上映した作品を上映しても、前橋シネマハウスの常連さんはきてくれることがわかったんです。ここに気づいたのでシネコンの上映作品も上映するようになりました」。地元の作品はもちろん、地元と連携できそうな作品は必ず入れているそうである。例えば『ハッピー☆エンド』(オオタヴィン監督)では主演の在宅緩和ケア医の萬田緑平先生とよく話して、在宅ケアはこういう団体が興味を持ってくれそうだなど打合せをして、地元の団体に向け宣伝しました。

特集上映や企画上映についても伺ってみた。
「特集上映・企画上映は、ペルー映画やインド映画の特集上映など、数は多くないですが行っています。ただ特集をやる以上丁寧に仕上げていきたいので、今後も数はそれほど多くならないと思います」とのことだ。
さらに「監督やキャストの上映後トークも、映画館から来てほしいと依頼することはないですね。もちろん、トークしたいとお申し出いただければお越しいただくのですが」と、肩肘張らずに運営している。
驚いたことがある。前橋シネマハウスは2つのスクリーンがあるが、一つのスクリーンしか使っていない(シアター0のみ使用)とのこと。
もう一つのスクリーンは稼働を最小限にしているそうだ。基本はシアター0のみで、もう少し長期間上映したいという映画だけシアター1を使うとのこと。

客層は圧倒的に女性が多いそうだ。ミニシアターは男性客中心のイメージがあったが、これも予想外であった。
そして3年前から、普段稼働していないシアター1で子供のための「こどもシネマハウス」を始めたそうだ。これは映画を観ながら子供が騒いだりしてもいいというもの。子供シアターは定着してきたそうだ。「なるべく、いろいろな方に来ていただきたいんですよね」日沼支配人は笑みを浮かべながらそう話した。
日沼支配人は映画の話を本当に楽しそうに話す。映画が好きだという気持ちが伝わってくる。
館内の手づくりポップや来館した監督・俳優のサインなどを見ていると、前橋シネマハウスは、「居心地の良い映画館」だと感じた。また来たいと思えるミニシアターであった。
前橋シネマハウス
概要
休館日 火曜日
所在地 〒371-0022 前橋市千代田町5-1-16 アーツ前橋上(3F)
TEL 027-212-9127
通常料金(2025年10月現在)
一般¥1,800
大学・専門学校生¥1,200
高校生¥1,000
中学生以下(3歳以上)¥800
シニア(60歳以上)¥1,100
障がい手帳お持ちの方¥1,000(付き添い 1名¥1,000)
※各回完全入れ替え制です
※作品により料金が異なることがあります
※学生割引は学生証のご提示をお願いいたします
※お支払いは現金のみです
※当日券のみの販売です(チケット販売開始:開館時間の9時30分~)