田辺を舞台にした2本の映画制作が映画祭のきっかけ。1本はカンヌへ

──2007年の第1回から数えて2023年が第17回ですね。田辺・弁慶映画祭が始まったきっかけを教えていただけますか?

2000年代前半、全国の地方都市で、映画で街おこしをするムーブメントがありましたが、そのとき2本の映画が田辺を舞台にしてつくられたのです。1本は田辺にゆかりのある方が監督で、田辺が素敵な街なので田辺を舞台に青春映画を撮りたい、と。有志メンバーで集まって資金集めやプロデューサー探しなどをサポートしたのが太田隆文監督の『海と夕陽と彼女の涙 ストロベリーフィールズ』です。もう1本が、和歌山県と田辺市が協賛でつくった安田真奈監督の『幸福のスイッチ』ですね。どちらも公開は2006年です。この1作品はカンヌ映画祭のフィルム・マーケットに出品したのです。日本の映画を集めたブースで上映していただき、観客の反応は案外良かったそうです。
そうした経緯もあって「近畿経産局がコンテンツ産業を推進し、経産省と文化庁のバックアップを受けたクリエイティブ・インダストリー・ショーケースin関西(CrIS関西)というコンテンツフェスティバルを開催するので田辺市も参加しませんか、とお声がけいただきました。せっかく映画づくりを始めたのだから映画祭をやろう、という運びになり、それが田辺・弁慶映画祭の第1回です。

映画祭の運営のために、映画業界のプロの方をご紹介いただきました。当時キネマ旬報映画総合研究所所長だった掛尾良夫さんに、プログラムディレクターという形で入っていただいてスタートしたのです。最初はなかなか応募作品が集まらず、掛尾さんが出品を呼びかけてくれて集まるようになりました。
安田監督の『幸福のスイッチ』制作でお世話になったのがテアトルなのです。当時の担当者だったのが現在東京テアトル株式会社の代表取締役社長の太田さんで、そのときのご縁でテアトルさんにも映画祭へのご協力をいただいています。

──田辺・弁慶映画祭のコンセプトを教えてください。

メインコンセプトは、新人映像作家・監督の作品をコンテスト形式で紹介することですね。田辺・弁慶映画祭をきっかけにステップアップしていってもらえる存在でありたいと考えています。
目的としては、映画ファンや映画業界の方々に田辺市を訪れてもらい、紀南地方の良さを味わい田辺の人との交流をしていただくことです。田辺市が共催ですので、田辺市の良さを全国に発信する、ということです。観光振興課が運営に関わっているので、観光促進の目的があります。

──田辺・弁慶映画祭実行委員会が主催で田辺市が共催ですが、どのような役割分担なのでしょうか?

共催者である田辺市観光振興課は映画祭の事務局です。主催者である実行委員会は、田辺市内の地元の人たちが集まってやっているのです。私自身も本業は梅干し店を営んでいますし、副実行委員長には、お米屋さんなどがいます。地元の新聞やメディアの人々にも入ってもらっています。実行委員会には映画専門の人はおらず、地元の人で運営し、田辺市は事務局としてサポートしてくれています。

──協賛は取られているのでしょうか?

田辺市の予算や、一般企業・団体、個人の皆さまからもサポートいただいて運営しています。この地域はお祭りごとが多く、その際も企業や個人から協賛いただいて運営していますね。

──インディーズ映画監督と話していると、田辺・弁慶映画祭は目指したい映画祭としてよく名前が上がります。他の映画祭と違うところはどんな点でしょうか。

田辺・弁慶映画祭の特徴としては、おもてなしや、きめこまやかな対応でしょうか。来てくださった監督さんや映画関係者の方々、ファンの皆さまへのおもてなしが手厚くなるよう心がけています。例えばオープニングパーティで水揚げされたばかりのマグロを解体して召し上がっていただくなど、地元ならではの食材でおもてなししていますね。来場者の皆さまは宿泊し夜中遅くまで映画談義されますので、そういった場を提供し、楽しい映画祭期間となるよう心を尽くします。
映画祭が終了したあともSNSで監督たちの活動をフォローし、作品の公開などがあるか常に情報をチェックして発信しています。新人監督を応援する映画祭なので、リツイートしたり、当映画祭ならではのセレクション上映をしたりしています。

受賞作品はテアトル新宿やシネ・リーブル梅田で1週間上映

──受賞作品がテアトル新宿やシネ・リーブル梅田で1週間上映されるのはすごいことですね。私も鑑賞しに行ったことがありますが、約200席くらいある客席が8割ほど埋まっていました。

そうですね、今年も満席が何日かありました。監督さんたちも告知を頑張ってくれているし、著名な監督に登壇してもらう試みもしているようです。1週間上映してもらえることが映画づくりの大きなモチベーションになっていると感じます。監督さんは、多くの人に映画館で観てもらいたいという一心で映画をつくっているわけですから、こちらとしてはその夢を実現させてあげたい想いがあります。

──映画祭では、コンペティション部門入選作品の上映以外に、招待作品の上映も行うのでしょうか?

はい、映画祭開催は3日間で、期間中の金曜日、土曜日にコンペティション部門入選作品を上映・審査をして、日曜日に発表を行っています。また、招待作品は3日間に分けて上映しています。
招待作品はさまざまです。審査員を務めていただいた監督の最新作や話題作、過去受賞した監督の作品などです。例えば2023年は、第2回に『後楽園の母』で受賞した監督の沖田修一監督の作品『さかなのこ』を上映します。また、東京国際映画祭とパートナーシップを結んでおり、そちらの映画祭での受賞作品を上映します。

──2023年のコンペティション部門では何作品くらいの応募がありましたか?

188作品でした。全て30分以上の中・長編です。2021年が163作品、2022年が180作品で過去最多でしたが、再び過去最多を更新しました。

映画づくりにかける情熱・将来性が感じられるかは重要なポイント

──一次審査で重点を置いていることはどんなことでしょうか?

映画づくりにかける情熱・将来性が感じられるかどうかは重要なポイントの一つです。作品の内容も大事ですが、監督の考え方、映画づくりへの姿勢も大切にしています。映画祭中、監督から「映画づくりはこの作品で最後です」などという声が聞かれたら受賞は難しいですね。登竜門的な映画祭といわれるようになってきていますし、ここから羽ばたいていってほしいので。

──2023年の特別審査員には、どんな方がいらっしゃるのでしょうか?

プログラミングディレクターの掛尾良夫さん(特別審査員長)、映画評論家の松崎健夫さん 、東京テアトル株式会社の沢村敏さんの3名は毎年務めていただいています。そしてゲスト審査員として映画監督の犬童一心さん、プロデューサーのイ・ウンギョンさんが加わってくださいます。

──弁慶グランプリ、キネマイスター賞、観客賞、俳優賞、映画.com賞、フィルミネーション賞とさまざまな賞がありますね。

キネマイスター賞は、映画ファンが選ぶ賞です。当初は「映検審査員賞」といって映画検定の合格者に審査していただいていたのですが、映画検定自体がなくなったのでキネマイスター賞へと名前を変えました。キネマイスター審査員は、映画の大ファン、映画マニアの人に務めていただいています。
観客賞は、市民審査員や観客が投票して選ぶ賞で、市民審査員の得点割合が高くなっています。
フィルミネーション賞は、日本の映画作品を海外へ販売するフィルミネーション株式会社による賞です。フィルミネーションを通じて海外へと作品を送り出す支援をしていただいています。

──テアトル新宿とシネ・リーブル梅田で上映される作品の基準は何でしょうか?

コンペティション部門入選作品8作品の中からテアトルさんたちが選びます。2023年は4作品ですが、5作品の年もあります。上映をどのようにするかは、映画館と監督の話し合いで決まります。映画祭側がこのように上映してください、と指定するわけではありません。

映画祭は、映画を楽しんでもらう場、新人監督たちのステップアップの場であり続けたい

──インディーズ映画業界についてご意見を伺います。私も監督さんたちと話していると、資金を持ち出して制作し、回収するすべがなかなかないようです。長編映画なら数百万ほどかかってきます。この現状を少しでも改善できないかなと思っているのです。

そうですよね。いいプロデューサーに巡り合えればいいですがそういった機会はなかなかないですよね。あとは国の補助金を活用する人もいますし、能力を認めてもらえればAFFなどの制度もあるようです。監督の皆さんは、単純に数百万円でつくったからその分の利益が戻るという現状ではないのをふまえてチャレンジしておられる。最初の費用は初期投資のための出費であっていずれ花開くのだ、と頑張っておられるので、我々映画祭運営者は、頑張ってもらいたい、花開いてもらいたいという気持ちですね。

──田辺・弁慶映画祭で受賞すると、テアトル新宿、シネ・リーブル梅田で上映機会があり注目度が高まりますね。監督のことは知らなかったけれど、田辺・弁慶で受賞した作品なら見に行ってみようという人が増えるように、これからもぜひ続けていただきたいです。映画祭をどのように発展させていきたいですか?

地方都市でやっている映画祭であり、新人監督の支援や観光促進が目的ですから、国際映画祭のように大規模化していくわけではないですが、映画を楽しんでもらうこと、新人監督たちのステップアップの場であり続けるということ、これらが一番大事だと思うのです。みんなが喜んでくれるような映画祭を続けていくことが大切な目標だと考えています。

Profile
田辺・弁慶映画祭 実行委員会実行委員長 中田吉昭
中田食品株式会社 代表取締役社長 梅干し店の経営に従事しながら、田辺・弁慶映画祭の実行委員長を務める。同映画祭には、立ち上げ当初から携わり、第5回から実行委員長を務め、本年で13年目を迎える。また、和歌山県漬物組合連合会 理事長や田辺商工会議所副会頭を務めるなど精力的に地域社会への貢献活動を展開。

プロフィール詳細はこちら

開催概要

第18回 田辺・弁慶映画祭

開催概要

開催日  11月8日(金)〜10日(日)

会 場  紀南文化会館
大ホール コンペティション部門(8作品)、招待作品(5作品)
小ホール 招待作品(子ども向け1作品)

開会式  11月8日(金)18:30~ 
(開会式後、招待作品『からかい上手の高木さん』を上映するため鑑賞券(有料)が必要です。)

表彰式  11月10日(日)15:00~ 
(招待作品『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』終了後、無料で入場できます)

内 容  11月8日(金)  コンペティション部門 3作品、開会式、招待作品1作品
    11月9日(土)  コンペティション部門 5作品、招待作品2作品上映(うち1作品は、小ホール)

    11月10日(日)  招待作品3作品、表彰式

〈鑑賞券 販売価格〉 全席自由席

 前売券 1,000円(消費税込)10月1日(火)~11月7日(木)まで
 当日券 1,300円(消費税込) 11月8日(金)~10日(日)

〈鑑賞券 購入方法〉

  ●前売券(10月1日(火)~11月7日(木)まで)
   ① 紀南文化会館(田辺市新屋敷町1番地)の事務室にて購入

   ② 映画祭事務局(田辺市役所庁舎4階 観光振興課)にて購入

   ③ ローソンチケット(こちらをクリック)にて購入(Lコード:57121) を入力

   ●当日券(11月8日(金)~10日(日))
   映画祭会場(紀南文化会館)チケット購入窓口にて購入
   ※当日券の購入場所は、映画祭会場のみとなります。

 ・3歳以上の方はチケットが必要です。
  (3歳未満の方は、原則入場無料ですが座席等の都合上、お連れの方を膝の上で抱いていただき、ご鑑賞いただく場合があります。)
 ・映画祭のチケット1枚で、映画祭期間中のどの作品(1作品)でもご鑑賞いただくことができます。
 ・原則お客様都合による返金はできかねますのでご了承ください。

上映スケジュール (上映作品詳細はこちら)

11月8日(金)

コンペティション部門

13:00~『書けないんじゃない、書かないんだ』 監督 鴨井奨平
14:30~『温帯の君へ』 監督 宮坂一輝
16:15~ 『ボールドアズ、君。』 監督 岡本崇

招待作品         

19:00~ 『からかい上手の高木さん』 監督 今泉力哉

11月9日(土)

コンペティション部門

9:30~ 『天使たち』 監督 木村ナイマ
11:30~ 『ハーフタイム』 監督 張曜元 
13:30~ 『よそ者の会』 監督 西崎羽美
14:40~ 『噛む家族』 監督 馬渕ありさ
16:00~ 『わたしの頭はいつもうるさい』 監督 宮森玲実

招待作品

〈大ホール〉

18:30~ 『佐々木、イン、マイマイン』 監督 内山拓也
 ※上映後、俳優 藤原季節さん(主演)舞台挨拶

〈小ホール〉

あさ11:00~ / ひる13:30~ 『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』

招待作品

9:45~ 『BLUE GIANT』  監督 立川譲
12:30~ 『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』  監督 藤原知之
※上映後、俳優 武田梨奈さん(出演)舞台挨拶
17:00~ 『PERFECT DAYS』 監督 ヴィム・ヴェンダース 

特別審査員

武田 梨奈様、藤原 季節様をお迎えし、計5名の特別審査員により開催 !
特別審査員は、コンペティション部門における「弁慶グランプリ」「俳優賞」の選考を行います。

特別審査員長

掛尾 良夫 (プログラミング・ディレクター)

東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。
1978(昭和53)年 ㈱キネマ旬報社入社。
『キネマ旬報』元編集長、NHKサンダンス国際賞・国際審査委員などを歴任。
著書に『ぴあの時代』『キネマ旬報物語』『映画プロデューサーの基礎知識』など、
企画作品WOWOWドキュメンタリー「映画人たちの8月15日」、プロデュース作品「40歳問題」など。
フィルミネーション㈱ エグゼクティブ アドヴァイザー
ミステリー・ピクチャーズ・プロデューサー

特別審査員

武田 梨奈 (俳優)

09年、「ハイキック・ガール!」で映画初主演。
15年「第24回日本映画プロフェッショナル大賞」新進女優賞をはじめ、数々の映画賞を受賞。
主な出演作は映画「デッド寿司」(13) 「進撃の巨人」(15) 「世界でいちばん長い写真」(18)「いざなぎ暮れた」(19) 「ナポレオンと私」(21)、「ジャパニーズ スタイル Japanese Style」(22)など。ドラマは人気シリーズ「ワカコ」(BSテレ東)などがある。
今年は香港ドラマ「打天下2」(24)に出演するなど海外作品でも活躍。以降も映画「室町無頼」、日米印合作の主演映画「shambhala」など公開が控えている。

特別審査員

藤原 季節 (俳優)

1993年1月18日生まれ、北海道出身。
小劇場での活動を経て2013年より俳優としてのキャリアをスタート。
翌年の映画『人狼ゲームビーストサイド』を皮切りに、『ケンとカズ』(16)、
『全員死刑』(17)、『止められるか、俺たちを』(18)などに出演。2020年には、
主演を務めた『佐々木、イン、マイマイン』がスマッシュヒットを記録し、『his』とあわせて同年の第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。翌年には第13回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞するなど、デビュー以降、映画のみならずドラマ、舞台など幅広く活動を続けている。その他の出演作として、映画『くれなずめ』(21)、『のさりの島』(21)、『空白』(21)、『わたし達はおとな』(22)、『少女は卒業しない』(23)『辰巳』(24)等。
現在、映画「東京ランドマーク」(林知亜季監督)が全国順次公開中。

特別審査員

松崎 健夫 (映画評論家)

兵庫県出身。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。
テレビ、映画の現場を経て執筆業に転向。『キネマ旬報』『DVD&動画配信でーた』などに寄稿。『そえまつ映画館』『米粒写経 談話室』『シン・ラジオ』などテレビ・ラジオ・配信番組に出演。共著『現代映画用語事典』ほか。デジタルハリウッド大学特任准教授、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、日本映画ペンクラブ会員、ゴールデン・グローブ賞国際投票者。

特別審査員

沢村 敏 (東京テアトル株式会社 映像事業本部 企画調整部)

東京テアトル株式会社 映像事業本部企画調整部
東京都出身。法政大学社会学部卒。
1995年 東京テアトル㈱入社。
劇場勤務を経て、2001テアトル新宿の番組編成を14年に渡り担当。
インディーズ作品、若手新人監督から大御所監督作品、アニメなどの日本映画を独自の編成方針で幅広く取扱う。2011年にはキネカ大森を名画座に改編。劇場でのイベントやオールナイトなど映画関連企画を積極的に実施。田辺・弁慶映画祭は2007年の立ち上げから参画。
現在は企画調整部にて、出資や制作に携わる。プロデューサーとしては
松居大悟監督「ちょっと思い出しただけ」、今泉力哉監督「窓辺にて」などがある。

メインMC

映画活動家/放送作家

松崎 まこと

1964年生。早稲田大学第一文学部卒。城西国際大学メディア学部講師。
「田辺・弁慶映画祭」には2007年開催の「第1回」から毎回参加。2014年の「第8回」
よりティーチインMC&コーディネーター。
「日本国際観光映像祭」「東京ドキュメンタリー映画祭」などでは審査員を務める。
オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」、洋画専門チャンネル「ザ・シネ
マ」HP、スカパー!HP「映画の空」などで連載。
インディーズ映画のネット配信番組「あしたのSHOW」では構成&作品集めなどを担
当。2017年に芋生悠主演の短編映画『ヒロイン』を製作・監督した。

インタビュアー
井村 哲郎

以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。

自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。