──知多半島映画祭は2011年から始まり、2023年が13回目。実行委員会代表である鈴木さんが立ち上げられたのですね。立ち上げたきっかけやコンセプトを教えてください。
僕は知多半島の生まれで、映画監督になりたいという夢を持っていましたが、それを高校生のころ周囲の人に話しても、現実的な話とは受け止めてもらえませんでした。知多半島には映画を撮るような土壌がなかったので。友人にはかなうはずもない夢を語っているだけに見えたでしょうね。
知多半島に映画祭があれば芸能人や映画監督と接する機会ができますし、僕のように「映画監督になりたい」という思いを抱く若者が夢を夢のまま終わらせずに済むのではないかと思いました。映画は身近なものだ、と学生や子どもたちに知ってもらいたかったのです。
現在、知多半島にはフィルム・コミッション(映像作品のロケーション撮影などの支援を行う公的団体)がないので、映画祭の運営を通じて、ゆくゆくは知多半島にフィルム・コミッションを設立したい思いがあります。
──フィルム・コミッションの設立が大きな目標なのですね。
映画祭は年に一度しか開催できませんが、フィルム・コミッションがサポートして知多半島で積極的に撮影を行ってもらえると、映画やドラマの制作が身近なものになります。また、ロケ地として知多半島をたくさんの人に知ってもらえて、観光客を増やすことができます。
知多半島を盛り立てるためにも、フィルム・コミッションの設立は実現したいです。
正式な団体を作るのは容易ではないですが、「フィルム・コミッションを作りたい」と言い続けていると「撮影のために協力してもらえませんか?」「映画のエキストラを集められますか?」というオーダーが入ってくるのです。こうしたオーダーへの対応をアピールすれば、少しずつでも制作の現場にこちらの声が届いていくと思っています。
──行政や企業などのサポートはあるのでしょうか?
行政のサポートはあえてお断りしています。行政が入ることで、例えば市長や町長といった立場の人を立てなければいけないなど、どうしても忖度する部分が出てしまうので。そこは一線を引かせてもらっています。
私たちはあくまでボランティアとして映画祭の実行委員をしており、実行委員には知多半島の人や、名古屋など遠方に住む映画好きの人、大学生も参加しています。
最初に映画祭をやろうと思い立った時は、高校時代の友人に声をかけてサポートメンバーを集めました。また、友人から「鈴木がこんなことやろうとしている」と伝え聞いた地元の人が「じゃあ僕も」と参加してくれて、サポーターが増えていったのです。
行政のサポートがなく、スタッフもボランティアだけに大変な部分はありますが、回を重ねるごとに認知度が高まってスポンサーを申し出てくれる企業が多数増えてきています。映画祭が利益を出すことを目的にしていないので、好意的に関わってくださる人や企業がいることはとてもありがたいと思っています。
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映画づくりに適した、レトロな風情が残る知多半島。ゆかりの監督も多い
──知多半島は、愛知県の中でどのような特色があるのでしょうか。
半島は海に接しているので漁村地域だったり、昔ながらのレトロな街だったりすることが多いですが、知多半島ももれなくそういう街です。海が近いレトロなシチュエーションを必要とする映画の撮影に使いやすいと思います。特に、知多半島の根元に位置する常滑市は焼き物の街としても有名で、今も近代化しすぎずちょうど良い具合の風情が残っているのです。
また、中部国際空港があるので国内外と行き来しやすいのも知多半島の利点です。東京や外国から人に来ていただける環境が整っています。
──コンペ作品以外にも招待作品はありますか?
2023年は招待作品ではなく、招待ゲストとしてスピードワゴンの小沢一敬さんをお招きします。ショートフィルムを5作品上映しますが、それらを観ていただいて特別賞「スピードワゴン小沢賞」を選びます。
また、小沢さんは知多市のご出身なのでトークショーも企画しています。知多の思い出話や久し振りに帰省した感想などを伺おうと思っています。
ゲストには、これまでも愛知県や知多市にゆかりのある人に来ていただいています。知多市出身で『百円の恋』の武正晴監督、半田市出身で『リンダ リンダ リンダ』や『苦役列車』の山下敦弘監督、同じく半田市出身で『劇場版 コードブルー』の西浦正記監督とか。女優さんでは愛知県東海市出身の森川葵さんに来ていただきました。また、知多半島のそばに篠島という島があり、ここを舞台に三宅伸行監督の短編映画『RAFT』が作られたことがありますが、その作品に出演された松岡茉優さんをお招きしました。吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』とともに招待作品として上映しました。
──知多半島映画祭はテーマソングがあるのですね。菊地謙太郎さんの「BE WITH YOU FOREVER」ですが、テーマ曲をつくった理由を教えてください。
映画祭にテーマ曲があるのは珍しいのではないかと思うのですが、きっかけは本当にたまたまで。菊池さんが映画祭にお客さんとして来てくださった時に偶然お会いしたのです。お互いに「代表の鈴木さんですか?」「音楽をやられている菊池さんですね」という感じで。
そして「テーマソングを持つ映画祭ってないですよね」という話になり、菊池さんが「じゃあ自分が作ります」と申し出てくださいました。そのときの会話はとても気軽なものだったのですが、向こうはプロの音楽家ですから、素敵なテーマソングを書いていただいて感謝しています。
──映画祭のアドバイザーとして、映画パーソナリティの松岡ひとみさんが就任していますね。松岡さんを起用したきっかけや松岡さんの役割を教えてください。
僕はもともとミニシアターが好きで、名古屋のミニシアターによく足を運んでいたのんですね。そのときに松岡さんが司会されるイベントがあり、「この人だ」と思っていきなり押しかけてしまったんです。「知多半島で映画祭をするのでMCやっていただけませんか?」と。松岡さんは突然のことで驚いてらっしゃいましたが(笑)。
初回の映画祭はすでに準備が進行中で、松岡さんをお迎えすることがかなわなかったのんですが、第2回からはずっと松岡さんにアドバイザーをお願いしています。
松岡さんは映画に特化した取材・司会・記事の執筆などに長く携わっているので、映画祭の招待ゲストを一緒に考えていただいたり、業界の情報をくださったりしていますね。
ノミネートの5作品から、観客がグランプリを決定
──昨年は360本の応募があったそうで、すごい本数ですね。2023年のコンペ部門は何作品くらいの応募がありましたか?
2023年は350作品くらいです。応募数が多いと言われますが、ほかの映画祭と比較していないので……どうでしょうか(笑)。
もちろん、どれだけ応募があっても全作品チェックさせていただいています。ありがたいことにもう13年も続いていますから、知多半島映画祭の知名度が広がるにしたがって応募数も増えているのだと思っています。
──ノミネート作品は5本とのことで、350本から5本しか選ばれないというと、かなり“狭き門”に感じます。審査はどのように行っているのでしょうか。
まれに6作品選ばれることもありますが、通常5作品にとどまっています。というのも、グランプリ・準グランプリをお客さんの投票で決めているので、すべてのノミネート作品を観ていただかないといけないからです。短編映画であっても5作品まとめて上映するとなかなかの尺になります。知多映画祭の審査員はお客さんですから、観る人に負担のない本数にしています。
一次審査は僕と、運営事務局のスタッフ3~4人で350作品を観ています。一次で20作品くらいまで絞り、それらを今度は映画祭運営スタッフ全員で20人くらいが観て、ノミネート5作品を選んでいます。
──鈴木さんはどのようなスタンスで審査していますか?
どの作品に対しても思い入れることなく、自分の感情を抜いた状態で応募作品を観るようにしています。
毎年審査していると、同じ監督が何度も応募してきたりするとどうしても記憶に残ってしまうのですが、だからといって「昨年の作品と比べて……」といった思いは持たないようにしています。
──グランプリ受賞者に賞金や特典などはあるのでしょうか。
お金ではなく、オリジナルの「招き猫」を差し上げています。招き猫は常滑市の物産として有名なので、名のある作家さんにオリジナルのものを制作していただいています。
また、以前はグランプリ作品を配信していたのですが、既存のプラットフォームを使用して配信するとなると、ほかで既に配信している作品はできないなどの制限があるため、今は必須の特典ではありません。
──過去応募された方で、今活躍されている方はいらっしゃいますか?
グランプリ受賞者としては『タイガーマスク』や『太秦ライムライト』の落合賢監督がいらっしゃいます。あと、グランプリは獲っていないですが、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督には作品を応募いただきました。
地域に根ざした映画祭とフィルム・コミッションの設立を目指す
──自主映画業界の現状をどうみていますか?
やりたいことをやるのは素晴らしいことですが、映画制作にはなかなかお金がついてこない。演劇や音楽も同じで、自己満足で終わらずにちゃんとした金銭的価値を設けないといけないですよね。つくり手がつける値段をお客さんが理解でき、お金を払えるか。
そして我々も、監督が設ける価値と同じ価値を世間に示せるかがとても重要だと思います。
──自主映画業界がさらに良くなっていくために、どのようにしていくといいと思いますか?
我々のように映画をプロデュースするほうも、映画で演じるほうも、例えば監督やプロデューサーが役者さんに「ギャラは出ないんだけど」と言ったり、逆に役者さんが監督に「ギャラはナシでいいよ」と言ったりすることはしない方がいいと思います。
やりたいことをやる、映画を撮るという目的を最優先するとお金が後回しになるのはわからないでもないですが、映画に関わるすべての人が等価価値を共有して、お互いに示していかなきゃいけないですよね。払うべきものは払い、もらうべきものはもらう。そうしないと、いつまで経っても映画制作はプロの仕事にならないと思います。
──鈴木さんは、知多半島でロケが行われた津田寛治監督の作品『あのまちの夫婦』をプロデュースされましたね。
はい、製作は2017年です。2016年に、津田監督が知多半島映画祭に応募してくださって、上映する5作品に選ばれたので、映画祭に足を運んでいただいたのです。そのとき交流会で懇談した際に「知多半島で映画を撮りたいんです」と話してくれて。このあと彼が福井映画祭にいらしていた際に『撮ってください』とお願いしに行きました。東京・下北沢のトリウッドと名古屋シネマスコーレで上映しました。
──知多半島映画祭をどのように発展させていきたいですか?
かつては「国際的な映画祭に発展させたい」と答えていましたが、今は違う思いがあります。「秋になると知多で映画祭がある」と年間行事として覚えてもらったり、「映画祭があるから知多に行ってみよう」と旅行に来てもらったりできるように、もっと地域の人にも知っていただき、地域に根ざした映画祭を徹底したい想いが強くなりました。
地元の中学生・高校生には映画をもっと身近なものに感じてほしいですし、毎年映画祭に接することで「監督になりたい」「俳優になりたい」という夢を持ってくれたらうれしいです。
開催概要
第14回 知多半島映画祭
MOVIE 〜2024年 第14回〜
《スケジュール》
受付:10:00
開場:10:15
開演:10:40
終演:17:30
《場所》
アイプラザ半田(半田勤労福祉会館)
所在地
愛知県半田市東洋町1-8
TEL:0569-23-2255
公式サイト:https://www.city.handa.lg.jp/
電車でお越しの方
・JR武豊線「半田駅」下車、徒歩10分
・名鉄「知多半田駅」下車、徒歩15分
お車でお越しの方
知多半島道路半田中央ICまたは半田ICから15分
衣浦海底トンネルから7分
《料金》
1,000円(税込み)
*当日券のみ
*大学生以下、無料(学生証の提示が必要)
10:40〜 第1部:短編映画「THEATER」
作道雄監督&津田寛治氏によるトークイベント
13:00〜 第2部:ショートフィルムコンペティション
No.1 運命屋 監督:森田と純平
No.2 幸福指数 監督:西井舞
No.3 お屋敷の神様 監督:源田泰章
〜 休憩 〜
No.4 フューチャー!フューチャー! 総監督:眞鍋海里、監督:山本ヨシヒコ
No.5 冬子の夏 監督:金川慎一郎
No.6 シェアハウス芽吹荘の夏 監督:なかねひろみ
※各作品上映後に「インタビュー」を行います
スペシャルパフォーマンス
常滑市出身の書作家「磨衣子」による書道パフォーマンス
表彰式
ショートフィルムコンペティション部門の表彰式
司会
松岡ひとみ(映画パーソナリティ/タレント)
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レポーター、テレビタレントを経て、1993年から映画の試写会、完成披露試写会、記者会見の司会を担当。2000年から肩書きを映画パーソナリティとして活動をはじめ、東海地区を中心に新作映画のみならず旧作から自主映画、短編映画などテレビ、ラジオ、ウェブ、雑誌で紹介しています。現在は、シネマインタビュアーとして年間100本以上の取材、舞台挨拶の司会、映画祭の主催、PR、出演者のキャスティングとしても活動中。様々な監督との交流も深く、日本各地で映画監督が主催する映画祭に旅するのが趣味です。東海地区の“映画伝道師”として日々邁進中。
公式サイト:http://www.cinemarest.com
井村 哲郎
以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。
自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。