始まりは那須フィルム・コミッション設立から

──那須ショートフィルムフェスティバルはNPO法人 那須フィルム・コミッションが運営されていますが、どのような経緯で設立されたのでしょうか?

那須ショートフィルムフェスティバルは2023年で18年目になりますが、2002年の那須フィルム・コミッションの設立がスタートでした。私は当時那須町の観光協会長で、新しい観光の目玉を検討していました。ハリウッドの映画は日本では撮れないというニュースがあり、それは日本ではロケなどの支援をする組織であるフィルム・コミッションがないことが理由の一つでした。そこで、フィルム・コミッションを設立し、映画をきっかけに街づくりをしよう、という話になったのです。
最初は手探りで調べ、アメリカにAFCI(国際フィルムコミッショナーズ協会)という母体があってどうやらそこに加盟しないといけない。渡米し、シネポジウムという講習会に出席し、フィルム・コミッション設立の条件を満たした上で、那須フィルム・コミッションを設立したのです。
スタートしてすぐ、栃木県から映画祭の企画の声がかかり、それが別所哲也さんのショートショートフィルムフェスティバルだったのです。地方開催の話があり、那須が候補にあがりました。やってみよう、ということになり、ショートショートフィルムフェスティバルの地方版からスタートしました。

──映画祭の開催は今まで経験がなかったので大変だったのではないですか。

そうですね。大変でした(笑)。まずは作品を借りてきて上映しました。何年か経つうちに、借りて上映するだけでは物足りなくなり、那須としてもアワードをつくり作品を募集することにして、正式に那須ショートフィルムフェスティバルという形にしました。
ショートフィルムフェスティバルを那須で開催したのは2006年です。会場は南ヶ丘牧場をメインに、別所さんとご一緒に企画を組んで開催しました。
現在の那須ショートフィルムフェスティバルも南ヶ丘牧場で開催し、「じゃらん」や那須の企業、施設、個人の方々に協賛していただいています。最初は那須フィルム・コミッションが観光協会に所属しており、観光事業としてスタートしたものですから、地元の方々がずっと応援してくださっています。

──那須ショートフィルムフェスティバルのコンセプトを教えてください。

上映時間を多くとること、ジャンルは問わないことを最初のころから一貫しています。ドキュメンタリーあり、アニメありの、若いクリエイターの作品の上映機会をできるだけつくろうということを心掛けてきました。上映するとクリエイターの皆さんにすごく喜んでいただけます。フィルム・コミッションをやっているわけですから、映画制作だけでなく上映場所を提供することもお手伝いしたいと考えています。

特色豊かな映画祭。毎年、テーマに沿ったイベントやお酒が楽しめる

──2023年は南ヶ丘牧場内の施設での開催ですが、牧場での映画上映というのはどんな雰囲気なのでしょうか。

牧場の中の「ザ・バイカル」という建物の2階で開催します。遮光もできていてとても良い環境なので、そこにスクリーンを立てて上映します。
那須は観光地ですから、映画上映スケジュールに合わせてクリエイターや観客の方も宿泊して観光していただき、観光と兼ねて映画祭を楽しんでいただける面がありますね。ジンギスカンや乗馬体験などを楽しめる観光牧場なので、アクセスもしやすいです。
コロナ禍の3年間は牧場での開催ができませんでしたが、2023年にやっと戻ってこられた感じです。

──客席は何席くらいですか?

最大100席です。通常、応募をかけた那須アワードの作品の他に長編を2、3本上映していますので、コンサートの開催やヨガなど、そのときの企画に合わせて楽しんでいただけるしかけをつくっています。
観客は地元の方が多いですが、新しい方も少しずつ増えています。最終日の授賞式は8割以上のクリエイターが出席してくださるので、大変にぎやかになります。観客の皆さんは、映画が好きであってもショートを見る機会はあまりなかったようで、参加されると「こんなに面白いんだね」と言ってくださいます。

──私もさまざまな映画祭に足を運んでいますが、だいたい1日前後の映画祭が多いですね。8日間も映画祭を行うのはかなり長丁場です。

そうですね、それも他の映画祭にない特色ですね。8日間映画祭を行う理由としては、那須が観光地であることから、土日にかかるように開催したいという点です。土日を2回入れて9日間、そのうち月曜日は休業で、計8日になります。地元のお客様が多いものの、観光がてらいらっしゃるお客様のことも意識しています。短編は一日最大5プログラムまで上映できるので、平日のみの方にも土日のみの方にも可能な限り鑑賞機会を増やしたいという思いがあります。

──那須アワードには「観光部門」「自由部門」の2つがありますね。「観光部門」の2022年度のテーマは栃木県鹿沼市で、那須町ではないのには驚きました。他の市を部門にしているのはなぜでしょうか?

こちらは「那須フィルム・コミッション」ではありますが、もともとの構想は観光促進なので、観光部門の対象は那須町に限定せず、栃木県内であればどこでもOKにしています。鹿沼市は那須町とのお付き合いも深く、短編作品をたくさん撮りためておられて映画祭やイベントで映画を上映されています。

──「自由部門」はジャンルの制限はないのですが、作品時間が30分以内ですね。短編にこだわっているのは、スタートが別所さんのショートショートフィルムフェスティバルだったからでしょうか。

そうですね。あとは、若手のクリエイターの方は手始めに短編から撮ることが多いですから、応援する意味でも短編にしぼっています。短編であればなるべく多くの作品を上映し紹介できるということもあります。作品時間を「25分以内」から「30分以内」に変更したところ、作品の応募の数が大幅に増えました。

──招待作品の上映や特別企画は、どのように決められているのですか?

海外からの応募作品や、当映画祭に応募したあと活躍されているクリエイターの作品を上映しています。例えば『カメラを止めるな』の上田慎一郎監督も以前、当映画祭に応募してくださったのでそれらの作品を特集するなど。2022年度は「まるっとみんなで映画祭」という団体とのコラボで、バリアフリー特集になりました。
今年は「酔う」がテーマなのです。ゴッホが好んだ「アブサン」というお酒が、幻覚を見るような強いお酒で、アブサンがメインビジュアルになっています。映画にも、お酒にも、那須にも、酔ってみましょう、という。あとは音楽にも酔ってもらうということで、デビッド・ボウイやエンリコ・モリコーネのドキュメンタリー、ゴッホについてのアニメーション作品など、海外の作品を上映します。
毎年、バーも営業します。那須に「殻々(からから)工房」という人気のバーがありまして、そこのマスターにカウンターも設置してもらうのです。アブサンも、オリジナルカクテルもあり、お酒やつまみを飲み食いしながら鑑賞できます。今回はボジョレーヌーボーの時期でもありますから、それも出します。毎年、テーマに沿ったお酒や食べ物が楽しめるんですよ。

今後も上映機会を創出し、真摯に作品に向き合い続けたい

──2023年度は何作品くらいの応募がありましたか?作品の傾向はありますか。

今回は、90作品ほどの応募がありました。傾向としては少し暗めでしたね。コロナの時期はコロナのテーマが多くて、出演者がマスクしていたり、コロナの話題があったりで、今回は少し明るめになるかなと期待したのですが、暗めですね。

──那須アワードの審査はどのように行われるのでしょうか?

一次審査はフィルム・コミッションのスタッフで鑑賞し、ノミネート作品を決定します。1つの作品につき90分ほどの枠で上映しますから、30分近い作品であれば1プログラム3、4本、短い作品があれば5本程度上映できます。1日4プログラムで合計20作品ほど上映できますから、だいたい20作品前後をノミネートします。
最終審査は、審査員3名にノミネート作品を送り、授賞式前日の審査会で受賞作品を決めます。2023年度の審査員は、元NHKアナウンサーでNHK衛星映画劇場支配人を務めた渡辺俊雄さん、早稲田大学名誉教授で映像作家の安藤紘平さん、栃木県県立美術館シニア・キュレーターの山本和弘さんです。

──受賞者には、賞金以外の特典はありますか?

賞品としてトロフィーや地元名産品を差し上げています。また、那須町の公民館から名画座として上映したいとオファーがあるので、受賞作やノミネート作品を確認の上お貸しすることもあります。那須の黒田原(くろだはら)駅では、駅前映画祭を開催していて、そこに作品をお貸しして上映してもらう機会があります。こちらも5、6年続いていて、民間の建物をメイン会場にし、屋台も出るなどにぎやかに開催されます。
那須市には映画館やシネコンはないのですが、こうした地域イベントでの上映や、U-NEXTなどの動画配信サイトで「那須ショートフィルムフェスティバルノミネート作品特集」という形で受賞作品やノミネート作品が上映されることもあるので、多くの人に観てもらえる機会はあります。

──那須ショートフィルムフェスティバルに応募される方は、どちらかというと自主映画中心の方が多い印象です。私も自主映画業界を盛り上げ応援するためジーンシアターを運営していますが、五十嵐さんは自主映画づくりの応援や映画祭の発展についてはどのようにお考えですか?

ノミネート作品を見てもらえる機会の創出を手助けしていきたいですね。作品応募者には、プロの方も趣味で撮っている個人の方も両方いますから、資金や技術の面での違いはやはり作品に現れます。でも、それぞれ皆さん頑張ってつくっているのは伝わっていますから、ノミネートや受賞が注目されるきっかけになるよう、これからも真摯に作品に向き合い審査していきます。映画祭については、20年目という大きな節目に近づき、スタッフもベテラン化しているので、どのように若い世代に引き継いでいくかを考えたいです。

Profile
那須ショートフィルムフェスティバル
栃木県那須温泉にて旅館業を営む傍ら、観光の活性化の目的で那須観光協会会長を努め、その活動の中で新たな魅力作りを目指し那須フィルムコミッションを設立。 続いて那須ショートフィルムフェスティバルを開始する。(2023年で第18回目の開催) 現在は若手クリエーター活動支援の一環とし那須アワードを開催し上映機会の提供を目指している。

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開催概要

第19回 那須ショートフィルムフェスティバル2024

那須ショートフィルムフェスティバル 上映情報

《スケジュール》

11月9日(土) 〜 11月16日(土)
11:00〜
13:00〜
15:30〜
19:00〜

《場所》
メイン会場:那須高原南ヶ丘牧場 ザ・バイカル 2F
〒325-0393 栃木県那須郡那須町湯本579

《料金》

・1プログラム 800円(当日券)
・5プログラム 3,000円(当日券)
※1プログラム券の5枚綴りです。1人でも複数人でもご利用頂けます。
・ALL プログラム 5,000円(当日券)

※開催期間中、会場受付で購入できます。前売券はございません。
チケット・パスポートは11月9日(土)から11月16日(土)までのすべてのプログラムに使用できます。また11月17日(日)の授賞式・ワークショップはチケット・パスポート無しでご参加いただけます。

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上映プログラム

特別上映
“俳優・映画監督・画家” 奥田瑛二氏 映画を語る

トークイベント&特別上映

「勝手に流れた星だから」24分/2023/日本 

「・・・忘れ物をしてきてしもうたがよ・・・湖の底に沈んだ・・・住んじょった家の中に・・・」祖母夏江の最後の言葉を胸に、結はかつてダムの底に沈んでいった、夏江が住んでいた魚梁瀬(やなせ)村へ向かった。作家・原田マハが原作・脚本を手掛ける。

「ワタシって何もの」 監督:奥田瑛二 42分/2023/日本 

奥田瑛二が企画・脚本・監督を務める約10年ぶりの新作映画。 
自分とはいったい何者であるのか、自己の存在価値を自覚できずに家族、友達、周囲の大人に問いかける一人の少女の物語。彼女が答えを見つけた時、きっとあなたも気づかせれる・・・。 

NASU AWARD A

「フューチャー!フューチャー!」


監督:眞鍋海里/山本ヨシヒコ 上映時間:25分 ジャンル:SF

「密談長屋Tenement of Secret Talk」

監督:Abu Shahed Emon (アブ シャヘド イモン) 上映時間:7分9秒 ジャンル:時代劇

「so this is what it feels like… 」

監督:エンシャクカン 上映時間: 24分19秒 ジャンル:セルフドキュメンタリー

「双翅軍雷攻」

監督:塩原 璧 上映時間:5分8秒 ジャンル:アニメーション

「ハーフタイム」

監督:張 曜元 上映時間:29分48秒 ジャンル:人間ドラマ

NASU AWARD B

「さんすうのもんだい」

監督:伊藤 啓太 上映時間:8分23秒 ジャンル:ドラマ

「大食い大好き大石さん」

監督:田中亮丞 上映時間:22分47秒 ジャンル:コメディ

「チューリップちゃん」

監督:渡辺咲樹 上映時間:18分43秒 ジャンル:アニメーション

「 Hautnah/ギリギリ」

監督:Patrick A. Kompio パトリック・A・コンピオ 上映時間:11分30秒 ジャンル:コメディドラマ

「深骨」

監督:節田朋一郎 上映時間:30分00秒 ジャンル:ドラマ

NASU AWARD C

「いまにまるを」障がいと向き合い40年で見えてきた景色 

監督:福寄 広之 上映時間:13分36秒 ジャンル:ドキュメンタリー

「レタスまき」

監督:十川雅司 上映時間:16分21秒 ジャンル:ヒューマンドラマ

「AFTERLIFE 」

監督:内田進康 上映時間:29分34秒 ジャンル:ドラマ

「夜の電波を探してる」

監督:感覚式 上映時間:3分54秒 ジャンル:アニメーション

「ふたりの吉田」

監督:岡田奈津美 上映時間:29分35秒 ジャンル:ドラマ

NASU AWARD D

「神々来々」

監督:武田 椿 上映時間:10分26秒 ジャンル:アニメ

「アノサ カアサン」

監督:田野聖子 上映時間:18分30秒 ジャンル:ドラマ

「幸福指数」

監督:西井舞 上映時間:9分13秒 ジャンル:ドラマ

「狐の嫁入り」

監督:恵水流生 上映時間:29分19秒 ジャンル:ドラマ

「すみませんが、助けに行きませんよ!」

監督:キム・テヒョン 上映時間:24分50秒 ジャンル:コメディ

NASU AWARD E

「あたらしい世界」

監督:村口知巳 上映時間:7分44秒 ジャンル:ファンタジー

「たそがれ農育園-未来の原風景- 」

監督:田口雄大 上映時間:29分54秒 ジャンル:ドキュメンタリー

「Halfway Line」

監督:本多俊介 上映時間:22分04秒 ジャンル:ドラマ

「眠れないわ!」

監督:周頴傑 (しゅう えいけつ) 上映時間:2分27秒 ジャンル:アニメーション

「まっかな嘘」

監督:朱池亮人 上映時間:29分51秒 ジャンル:コメディー

特別長編プログラム

「エリック・クラプトン アクロス24ナイツ」

監督:デヴィッド・バーナード 上映時間:115分

「ビル・エヴァンス   タイム・リメンバード」

監督:ブルース・スピーゲル 上映時間:84分 ジャンル:ドキュメンタリー

「モンタレー・ポップ」

監督:D.A.ペネベイカー 上映時間:78分

イベント情報

那須独自の短編映画賞「那須アワード」。今年は200作品を超える応募をいただきました。その中から自由部門25作品を選出。この作品を5プログラムに分けて上映いたします。最終日にはグランプリや各賞を授与する「那須アワード授賞式」を開催します。

・那須アワードグランプリ[トロフィー+賞金20万円]
・準グランプリ[賞状+副賞]
・じゃらん賞[賞状+副賞]
・那須フィルム・コミッション賞[賞状+副賞]
・観客賞[賞状+副賞]
・審査員特別賞[賞状+副賞]

【審査員】
安藤紘平 / 早稲田大学名誉教授・シネマ夢倶楽部審査員・映像作家
渡辺俊雄 / 元NHKアナウンサー・衛星映画劇場三代目支配人・シネマ夢倶楽部審査委員長
山本和弘 / 東京藝術大学非常勤講師 美術評論家連盟AICA元常任委員長

“俳優 映画監督” 奥田瑛二氏 映画を語る
11月9日(土) 開場18時 開始19時(50席)
上映作品
・「勝手に流れた星だから」
監督:安藤桃子 24分/2023/日本

・「ワタシって何もの」
監督:奥田瑛二 42分/2023/日本

2024年11日9日ー11月16日
全プログラム上映前にカフェ&バーをオープンいたします。

14日は殻々工房がオープン。軽食やカクテルなども映画と一緒にお楽しみください。

※上映及びイベントが変更または中止となる場合もございます。

【協賛】じゃらん

那須高原南ヶ丘牧場 / Tony Girardin / ワタリドリ計画 麻生知子・武内明子 /
那須どうぶつ王国 / 那須のブランド牛 那須和牛 / ホテルエピナール那須 /
遊クラフト / 米倉クリニック

iNasuRental / アビルキャンプリゾート那須 / エンタメ総合メディアU-WATCH / 那須高原の宿 山水閣 /
那須温泉旅館協同組合 / JTB旅館ホテル連盟那須地区会

雲海閣 / エルバローロ / 大丸温泉旅館 / 殻々工房 / 蔵楽 / ここほれにゃんにゃん窯 / ステーキハウス寿楽 /
炭火割烹与一 / 清流の里 / 須藤醸造 / つゆごもり / つれない釣り堀那須高原つり天国 / 同和自動車 /
Tochigi BMW株式会社 / ドリーム舎美の穂 / NPO法人那須高原自然学校 / NASU SHOZO CAFE /
那須和牛振興協議会 / HUT Pictures / ホテルサンバレー那須 / 松川屋 那須高原ホテル / ミートショップ鶏春 /
吉田ハレラマ / レストランきたざき / 渡辺修 / パン・ドゥ・ルアン

【後援】那須町 / 一般社団法人 那須町観光協会

インタビュアー
井村 哲郎

以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。

自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。