起点はいつも「妄想」から。独自の観点で描く「もしも〇〇だったら?」な世界
── ジーンシアターでは、小泉監督の作品を数多く配信しています。作品のテイストもさまざまで、例えば『サイコパス診断』『となりの奥さん』は“背筋がゾッとする”タイプの作品です。“背筋がゾッとする”ストーリーはどうやって思いつくのでしょうか?
僕は、子供の頃からよく妄想をする人で、普通に道を歩いていても「こうだったら嫌だな」「怖いな」って思った瞬間から物語が浮かんでくるんですね。まず「何が起きたら怖いか?」を妄想します。例えば『となりの奥さん』でいうと「お隣さんが急に訪ねて来たら怖いな」から始まって「実はその奥さんは気がおかしい」というように妄想を膨らませていくんです。ワンシチュエーションからどんどん物語を広げていきます。
── このタイプの作品は最後、どこまで見せるか、つまり「どこまで視聴者の想像に任せるか」が重要かと思いますが、脚本を書く時にそのあたりは意識していますか?
僕はもともと舞台俳優をしていた経験から、観客の想像力はかなりあると思っています。でも映像はどちらかというと答えを出す世界。僕はあえて、死体とかグロテスクなもので直接的に表現するのではなく、音や雰囲気、役者の演技や表情といったもので「何か凄いことになっていそう」と視聴者に想像してもらえるような作りにしています。視聴者にゆだねてしまった方が、こちらで答えを提示するよりもっと怖い想像をしてくれる可能性があるので。
脚本を書くときは、なるべくギリギリのところを攻めるようにしています。
短編映画紹介
『隣の奥さん』(ジーンシアターで配信)視聴はこちらから
ストーリー
とあるマンションの一室に住む、美保。この日の夜は、友人と電話で他愛のない話をしていた。そこへ鳴る、インターフォン。ドアを開けた先に立っていたのは、隣に住む女性だった。
「ちょっと、何時だと思ってるの?」
そう凄い剣幕で話す女性に対し、驚きつつも謝ることしかできなかった美保。これは、ささいな隣人トラブルで終わるはずだった。しかしその日を境に、隣人女性の言動はどんどんエスカレートしていき…。
人間の狂気をどう演出しているか
── 狂気を持った人と普通の人の掛け合いが重要だと思います。狂気を持った人の人物設定や演出はどのようにされていますか。
狂気は、実は皆が持っている感覚かもしれないと思っているので、普通の人でもちょっと軸がずれるだけでいつでもおかしくなる可能性がある、という前提で人物設定を作っています。例えば『サイコパス診断』でいうと、主人公は元は普通の人だったはずなんですけど、彼氏の浮気の発覚をきっかけに、彼女の中で何かがカチッとずれておかしくなっていったというイメージです。
── 普通の人が何かのきっかけでおかしくなるということなのですね。人が一番怖いですよね。
そうなんですよね。僕はホラーも書きますが、幽霊的な怖さよりも“ヒトコワ”というか。誰しも他人とは違った側面があるので、良い面と悪い面の両方を描けたら面白いかなと思うので。
『天然女子』『誘拐』『テレパシー』に見るシュールな面白さ
──『天然女子』や『誘拐』『テレパシー』などはコメディタッチですね。コメディ作品の演出はどのようにされているのですか?
実は僕、昔は芸人になろうと思っていたくらいお笑いが好きなんですよ。でも芸人さんへのリスペクトが強すぎて目指さなかった(笑)だから本当はホラーよりコメディの方が得意なんです。コントを書くようなつもりで書いています。
── 爆笑というよりはクスッと笑える、人の滑稽さを描かれていますね。
僕はシュールなものが好きなんです。何もしていなくても無表情でも面白い、というような。芸人さんのようなハイテンションでなくても面白いと感じる作品をつくりたいです。
短編映画紹介
『天然女子』(ジーンシアターで配信)視聴はこちらから
ストーリー
大好きな彼氏に手料理を食べさせてあげるために、陽気に鼻歌を歌いながら料理を作り始めた天然女子。ところが味見をしてみたら…なんだか味がおかしい。なんと塩と砂糖を間違えて入れてしまったのだ!
「あ~ん、わたしってほんとバカだ~(笑)」と自分の天然ぶりに嘆く天然女子だったが…。
男ならば誰でもドキッとする?天然な女の子のありのままを描いた、ちょっと奇妙なショートドラマ
── 私はテレビドラマの『世にも奇妙な物語』が好きなのですが、小泉監督の作品も通じるところがありますね。『世にも奇妙な物語』はお好きですか?
『世にも奇妙な物語』は大大大ファンで、当時は小説まで買っていたくらいでした。あの頃はものすごくチャレンジングな作品がいっぱいありましたよね。「結局なんだったんだろう?」と思う作品もあれば、素直にめちゃくちゃ怖い作品もあって。ああいうチャンネルを作りたいと考えたのが、僕のYouTubeチャンネル「チャンネルイヴ」のスタートです。
チャンネルイヴで毎週ドラマを公開し続ける
── 小泉監督はチャンネルイヴで毎週金曜日に新作ドラマを公開していますね。そもそもチャンネルイヴはどのような集団なのでしょうか?
僕が運営に関わっている「オフィスイヴ」という俳優事務所があるのですが、もともと俳優だった僕には事務所運営のノウハウがあまりなく、案件の募集情報は大手事務所へ行きがちなので最初はとても厳しい状況でした。そんな中でコロナ禍に突入し、ますます仕事は減りました。
いろいろ模索する中で、所属している俳優たちが「ぜひキャスティングさせてください」とお願いされるレベルまで有名になれたらいいんじゃないかと。コロナ禍での制約もあり、まずは僕らの媒体を大きくしようということで始めたのがチャンネルイヴです。
── 制作はどうされているのですか?
基本的には、僕が脚本も撮影も編集も全部自分でやっています。
最近は、もう一人、映像を勉強していた経験のあるメンバーが監督をやり始めたので。最近は彼と分担して制作したりもしています。それまでは僕が130本くらい(2023年8月現在)制作しました。
── かなりの多作だと思いますが、毎週金曜日にアップというのは制作が大変ではないですか?
かなり大変です。最初のうちはまず脚本を書いて、次にキャスティングをして、最後にスケジュール決定という流れで制作していたんですけど、さすがに間に合わなくて。途中からはスケジュールを全員に聞いた上で、参加できる人数が多い日を撮影予定日として仮押さえし、僕がその日に向けてキャストへの当て書きで脚本を書くという流れになりました。
視聴者の心に何かが残るエンターテイメントをつくりたい
── チャンネルイヴのジャンルは、ホラーとコメディ以外ではどのようなものがありますか?
最近ではヒューマン系や感動系の作品も制作しています。視聴者の心に何か残るものがあったり、ちゃんとメッセージが伝わったりするようなものがエンターテイメントだと思うので。もともとは所属俳優の皆さんを有名にしたい思いでつくったチャンネルイヴですが、規模も大きくなってきたので、そろそろ僕自身が伝えたいメッセージを込めた作品をつくってもいいのではないか、と。
例えば『JUMP OFF』という19分の作品は、自殺を考えている女の子が屋上に上がるところから話が始まるのですが、この作品には「どうしたら自殺がなくなるか?」というメッセージを込めています。他にも、行きすぎたSNSに潜む危険性といったテーマにも取り組んでいます。
短編映画紹介
『JUMP OFF』(ジーンシアターで配信)視聴はこちらから
ストーリー
仕事に行き詰まり、自殺をしにビルの屋上に来たナナ。
ナナが飛び降りようとするその瞬間、屋上に宅配便の配達人がやってくる。
配達人はその女性に「荷物置いときます」を言って、去ろうとするが、女性はなんのことかわからず、口論になる。
言い合いをしている中、次にヤクザ風の男が現れ、身を隠す二人。
さらに舞台女優も屋上に現れ、続いてヤバそうな人も…
結局自殺はどうなるのか。
── 今まで作られた作品で特に反響が大きかった作品はどの作品でしょうか?
『ビーフシチュー』ですね。怖い系のお話なのですが、現在YouTubeで約70万回再生と、チャンネルイヴの中で一番反響が大きい作品です。
『いつもいる』も人気です。主人公がどこに行っても「あれ?偶然ですね」と寄ってくる同じ男がいる、ヒトコワ系の作品です。
── チャンネルイヴの作品は「終わり心地」がいいと感じますが、そういった終わり心地の良さは意識されていますか?
終わり心地でいうと、僕が好きなアニメ作品の影響もあるかもしれません。また、8割くらいの人が面白いと思える作品でないとエンターテイメントとして正解ではないような気がしていて。一部の人だけが理解できて面白い作品は、それって本当にエンターテイメントなのかな?と思うんです。多くの人が見て「面白かった」であったり何かしら残るものをつくりたいと思うので、言葉をあえて分かりやすくしたり、説明的にならない程度にヒントを置くようにしています。
── 見終わった後に「あ、そうだったんだ」と理解できるレベルまでは提供したいですよね。そうではないのも多いですからね。「え?ここで終わり?」みたいな。
そうですね。特にYouTubeは視聴維持率というのがあるので、いかに離脱せず見てもらえるかが重要です。「このチャンネルは最後にドンデン返しが2回くらいある」といったようにパターン化して、最後まで見てもらえるような工夫をしています。
僕らのチャンネルは視聴維持率がおおむね70%くらいですが「最後まで見ないとちょっと気持ち悪い」というようなつくりにしたんです。
── SHINYAさんは多くの作品に出られていますね。かっこいい人からダサい人、人のいい役から悪い役まで、幅広く演じられますね。どんな役を演じても憎みきれないところがあるのですが、SHINYAさんの役回りはそのように設定して演出されているのでしょうか?
SHINYAはもともとアーティストなので、最初は演技には不慣れでした。でも俳優歴が浅い分とにかく一生懸命で、僕がお願いしたことに向けてすごく努力してくれるんですよ。他のメンバーには今現在の適役をお願いしているのに対して、SHINYAには少し幅広く役をお願いすることが多いです。結果、チャンネル内でいろんな役を演じることに。SHINYAはイチオシの俳優です。
── 去年、48時間映画祭にもチャレンジされましたね。通常の撮影と並行で、過酷でしたか?
少し感覚が変わっているかもしれませんが、それほどでもなかったです。チャンネルイヴの作品はいつも同じ場所で撮っているのですが、48時間映画祭の時に初めて古民家のような場所を借りたんですよ。せっかく借りたのだから、ここでチャンネルイヴ用にもう一本撮ったほうが良いよねとなって、結局48時間で2本の作品をつくりました(笑)。
撮影日の朝、みんながメイクしている間に僕がもう一本脚本を書いて。ロケ地の古民家で朝9時から終電までの間に計2本撮影して、次の日に48時間映画祭用の作品はそのまま仕上げて提出しました。スタッフもいないので撮影も照明も僕が一人でやったり、役者にマイク持ってもらったりもしていましたね。これを映像関係の人に話すと「ありえない!」って驚かれます(笑)
── チャンネルイヴはYouTube での活動がメインだと思うのですが、立体的に展開されていることはあるのでしょうか?
YouTubeでチャンネルイヴを始めたばかりの頃は新規のフォロワーが伸びにくかったので、少しでも盛り上げる目的でTikTokを始めてみたら、一気に3,000人ぐらいチャンネルイヴのフォロワーが増えました。その後TikTokで「ヒメクリ」という新しいチャンネルを立ち上げました。日めくりカレンダーのように毎日「今日は〇〇の日」にちなんだドラマが上がるというチャンネルです。
こちらは『世にも奇妙な物語』のようなちょっと不思議なテイストのものが多いんですけど、感動系とか恋愛系とか、チャンネルイヴとは違ったジャンルのものを公開しています。
── 小泉監督のキャリアについて伺います。俳優の活動内容と、脚本・監督も担当するようになった経緯を教えてください。
20歳で上京しました。最初は養成所からスタートして、25歳からは俳優の事務所に入ってテレビや映画、再現VTR、Vシネなど映像系の仕事をメインに活動していました。
31歳の頃、同世代の俳優仲間が続けるか辞めるかの選択をしていくような時期に、僕は一度芸能界から退いて社会人になろうと決めました。ライバルが多いこの時期に、他の社会経験や家庭を持つことを経験しておいたほうが、復帰した時に俳優として優位になると思ったので。
その計画通り31歳で完全に俳優を辞め、サラリーマンになりました。結婚して、子供も生まれて、37歳くらいの時に事務所の先輩だった今の代表と2人でオフィスイヴを立ち上げました。所属俳優のプロモーションのために映像資料が必要となった時に、試しにドラマを作ってみたんです。脚本も撮影も編集も初めてでしたが、試しにやってみたらある程度できたので「この調子で毎週ドラマを制作していったらメンバーの勉強にも映像資料にもなるからいいんじゃないか?来週からやろう!」というテンションで始めたのがチャンネルイヴだったんです。
── 影響を受けた映画監督は誰でしょうか?
三谷幸喜監督です。あんなに綺麗に伏線回収ができる人はいないと思います。コメディだけどちゃんと残るものがあるし、どの作品も僕はすごく大好きです。
── 好きな映画はありますか?
三谷幸喜監督の『マジックアワー』がとても好きです。佐藤浩一さんがベロを出しているあのシーンだけで、ずっと笑っていられます(笑)。
インディーズ映画をちゃんと見てもらうために頑張っていること
── 今のインディーズ映画業界は課題が山積みだと感じています。その一つが収益化だと思うのですが、小泉監督はインディーズ映画を収益化させるためには何が必要だと思いますか?
自主映画の位置付けは小劇場の舞台に近いようなイメージがあるのですが、メジャー作品とは違って自主映画を単館で上映して「大丈夫なのか?」といった感じになる空気感が僕は苦手で。きっと作品が面白くて見せ方が上手ければ単館であってもお客さんは入ると思っているので。ただ、あまり知られていない状態で頑張って自主制作映画をつくるより「この人たちの映画を見てみたい」と思ってもらえる素地やルートを得ておくことが大事だと思い、僕たちはまずYouTubeでのフォロワー獲得を頑張りました。作品に関しては「お金がないからつくれない」じゃなくて、「お金をかけなくても面白い作品はつくれる」ことを証明したいのです。来年は映画祭に出せるような自主映画を撮りたいなと思っています。
── 今後はどのような活動をしていきたいですか?
チャンネルイヴを、エンターテイメント性に富んだ面白い団体にしていきたいんです。もともとは事務所メンバーを売り出すために始めたYouTubeチャンネルでしたが、面白いことをやっていると興味を持ってもらえる団体であれば、きっと集客やキャスティングにもつながっていくはず。だから僕は「エンターテイメントとしてめちゃめちゃ面白い!!」を追求していきたいです。
この映画監督の作品
井村 哲郎
以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。
自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。