30回の歴史を重ねた映画祭で、女性監督の輩出を加速させていきたい

開催のきっかけ

 ――あいち国際女性映画祭は2025年で第30回を迎えます。始まったのが1996年ですが、どのようなきっかけで開催されたのでしょうか。

 あいち国際女性映画祭は、1996年「愛知県女性総合センター」(通称:ウィルあいち)のオープニングイベントとしてスタートしました。

オープニングイベントを何にするかということで、当時の愛知県庁の課長さんが女性映画祭をやろうと提唱しました。通常では、このような企画は大手広告代理店へ相談します。しかし僕がその頃アジア文化交流祭というイベントを開催して海外から監督さんを呼んでいて、そこに課長さんが見に来ていて、「個人で海外から有名な監督を呼んで開催できる」と認識したわけです。課長さんが私のところへ来て、一緒に女性映画祭を開催しようと声をかけてくれたのがきっかけです。

あいち国際女性映画祭 木全純治ディレクター

  ――ところで日本では、女性映画祭は他にもあるでしょうか。

 かつてはあったんです。東京国際女性映画祭を岩波ホール総支配人の高野悦子さんがプロデュースされていました。東京国際映画祭(TIFF)との共催でしたが、2012年に幕を閉じました。

現在はあいち国際女性映画祭が、日本で唯一の国際女性映画祭だと思います。

 

 ――私もさまざまな映画祭を取材していますが、30回を超えるのはなかなか体力が必要ですし、さまざまなことがあったのではと思うのですが、長く続けられている理由は何でしょうか?

  続いた一番の理由は、作品の質を落とさないこと、規模感を落とさないこと、この2つですね。5日間の開催日程も変えませんでした。コロナ禍の時は4日間でしたが、また5日間に戻しました。4日間だと短くてあっという間です。5日間だと前日の記者会見なども含めると6日間、1週間近くというイメージですね。作品数も多くできるので、2025年は日本初公開が7本、うちワールドプレミアが3本です。ワールドプレミア上映は映画祭が栄誉ある位置付けになるんです。

もう一つ続けられた理由は、県の予算だけではなく県内企業の協賛があったことも大きいです。これだけ多くの協賛を集められたのは愛知県庁や映画祭事務局の方々のおかげです。

県の予算、協賛金収入、入場料収入の3つを予算に組み込んでレベルを保つことができました。

  

――30回の歴史の中ではコロナ禍も含めいろいろなご苦労があったかと思いますが、何か記憶に残っている出来事はありますか。

 第2回に『宋家の三姉妹』(監督:メイベル・チャン)を上映しましたが、日本初公開だったため、ウィルあいちを二重に取り巻くほどの行列ができました。全国からお客さんが来てくれて、これを県の人が「映画っていうのはお客さんが来てくれるんだ」と認識してくれたのです。

 

 映画界に女性監督を送り出す

 

――あいち国際女性映画祭のミッションやコンセプトを教えてください。

 映画の仕事が女性の職業として成り立つように、その応援をすることが基本ですね。まだ1996年は北欧や中国は女性の映画監督は多かったのですが、日本には女性の映画監督が本当に少なかったんですよ。デンマーク、スウェーデンは男女平等を謳っています。映画界も男女平等なので監督も同数出た、ということです。1978年監督もスタッフも全部平等で。だからすごく女性の数が多かったんですよ。

ただ、1993年頃から中国も映画界が独立採算制になると、女性監督への投資が減り、映画界からテレビ界へ流れたようです。映画界は男性が圧倒的多数で9:1ぐらいでしたね。

 ――あいち国際女性映画祭の成功により、日本でも女性の監督が多くなってきたでしょうか。

 僕らの支援はまだほんの一部だと思います。ここ10年は映画づくりがデジタルになり、おかげで女性監督が数多く誕生するようになりました。ただ、商業監督としての地位を得ている女性監督は少ないですね。おそらく2割ぐらいだと思います。女性に投資して回収するスキームが出てこないと、なかなか相対として数は増えない。女性監督や女性プロデューサーにどんどん活躍してほしいですね。

 

――アンバサダーに三島有紀子監督を起用された理由はどんなところにありますか?

 三島さんは商業映画監督としても、インディペンデント映画監督も、両方経験のある監督だからです。そのような人に協力していただけると、この映画祭が日本の中の位置づけとして重要な存在になり、さらに際立つと思いました。

 

――会場はウィルあいちとミッドランドシネマの2カ所ですが、それぞれの劇場で上映する映画は違うのでしょうか。

 メイン会場はウィルあいちで、映画の上映はもちろん授賞式やトークイベントも行います。ミッドランドシネマはジャパンプレミアの作品を上映します。

ウィルあいちでの映画祭の風景
ウィルあいちでの映画祭の風景

念願だった海外の女性映画祭との連携

 

――フランスのクレテイユ国際女性映画祭と韓国のソウル国際女性映画祭と連携し、それぞれの映画祭の作品を上映されますが、すばらしい企画ですね。

 ありがとうございます。クレテイユは1978年に創設、ソウルはあいちが始まった翌年の1997年に創設されています。僕はそれぞれと提携したいとずっと思っていたもののなかなか実現しなかったのですが、今回予算が増え、実現しました。

 

――念願が叶いましたね。あいちで受賞した作品もクレテイユで上映するのでしょうか。

 今回はできなかったのですが、今後も交流を続けていけたらというところですね。他の提携・連携企画としては、東京国際映画祭の作品や「国際芸術祭あいち2025」の芸術監督推薦作品を上映します。

 

――ゲストも多数いらっしゃるようですが、監督さんや俳優さんは来場しますか。

 はい、国内外の監督や出演者など多彩なゲストをお呼びする予定です。

 

――コンペ作品はどのくらい応募がありましたか?

 653作品かな。すごい数でした。毎年100作品ほど増えていますね。以前は部門分けしていなかったのですが増えてきたので、2024年からドキュメンタリー部門、アニメーション部門、ドラマ部門をつくり、それぞれに賞を設けました。

 

 ――審査はどのような流れでしょうか。

 予備審査は事務局で、1次審査は8人の審査委員で観ています。最終審査は審査委員長の奥田瑛二さんを加えた6人で映画祭当日に行います。男性3人・女性3人で、かなり意見が割れます。

 

――審査員にはどんな方がいらっしゃいますか。

 男性陣が奥田瑛二さん、愛知県興行協会の理事長、私。女性陣がイベントプロデューサーの佐藤久美さん、映画プロデューサーのショーレ・ゴルパリアンさん、プログラミング担当の李相美さんです。奥田さんは4年ほど前から審査委員長を務めていただいています。

 

――コンペではどんな賞がありますか。

 各部門でグランプリ、観客賞があります。監督賞や審査員特別賞がある年もあります。

 

――日本の監督がグランプリを受賞されることも多いですか。

 はい、多いですよ。例えば、今回上映する『長浜』という作品を撮られた谷口未央監督は、2015年に『彦とベガ』という作品でグランプリを受賞されていますね。今後もどんどん受賞する方が出てきてほしいです。

 

――日本でも、特色豊かな国際映画祭がいくつか開催されていますね。あいち国際女性映画祭は、今後どのように発展していくでしょうか。

 特色豊かな国際映画祭は、東京国際映画祭、東京フィルメックス、アジア作品に特化した大阪アジアン映画祭、ドキュメンタリー作品の山形国際ドキュメンタリ一映画祭などがありますね。あいち国際女性映画祭は女性監督作品に特化していることが大きな特色です。予算との兼ね合いではありますが、コンペと海外映画祭との提携はきちんとやっていきたいなと思いますね。

 

あいち国際女性映画祭

日程
2025年9月11日(木)~ 9月15日(月・祝)

海外招待作品
https://www.aiwff.com/2025/films/overseas_special_offers/

国内招待作品
https://www.aiwff.com/2025/films/japan_special_offers/

コンペティション作品
https://www.aiwff.com/2025/films/competition/764/

30回記念特別企画
https://www.aiwff.com/2025/films/30th_anniversary/

特別上映
https://www.aiwff.com/2025/films/specia_events/

東京国際映画祭 提携企画
https://www.aiwff.com/2025/films/collaborative_project/

国際芸術祭あいち2025 連携企画
https://www.aiwff.com/2025/films/international_exchange/

国際交流企画
https://www.aiwff.com/2025/films/interoperability_standards/

女性の活躍シンポジウム
https://www.aiwff.com/2025/films/talk_symposium/763/

トークイベントシンポジウム
https://www.aiwff.com/2025/films/talk_symposium/762/

チケットガイド
https://www.aiwff.com/2025/tickets_access/tickets/

会場案内
https://www.aiwff.com/2025/tickets_access/information/

ウィルあいちへのアクセス
https://www.aiwff.com/2025/tickets_access/accessmap/

公式
Webサイト 
https://www.aiwff.com/2025/

X
https://x.com/aiwff

Profile
木全純治ディレクター
1974年、大学卒業後、池袋文芸坐に入社し、番組編成を手がける。1983年から、若松孝二監督が創設した名古屋のミニシアター「シネマスコーレ」の初代支配人として活躍。日本のインディーズ映画、アジア映画の普及に尽力する。2008年、同館の代表取締役に就任。2020年には、映画スクール「スコーレ映画塾」を開設。塾長として、映画制作に関わる人材の育成にも尽力している。 あいち国際女性映画祭では1996年の第1回からディレクターを務めている。

あいち国際女性映画祭

日程
2025年9月11日(木)~ 9月15日(月・祝)

海外招待作品
https://www.aiwff.com/2025/films/overseas_special_offers/

国内招待作品
https://www.aiwff.com/2025/films/japan_special_offers/

コンペティション作品
https://www.aiwff.com/2025/films/competition/764/

30回記念特別企画
https://www.aiwff.com/2025/films/30th_anniversary/

特別上映
https://www.aiwff.com/2025/films/specia_events/

東京国際映画祭 提携企画
https://www.aiwff.com/2025/films/collaborative_project/

国際芸術祭あいち2025 連携企画
https://www.aiwff.com/2025/films/international_exchange/

国際交流企画
https://www.aiwff.com/2025/films/interoperability_standards/

女性の活躍シンポジウム
https://www.aiwff.com/2025/films/talk_symposium/763/

トークイベントシンポジウム
https://www.aiwff.com/2025/films/talk_symposium/762/

チケットガイド
https://www.aiwff.com/2025/tickets_access/tickets/

会場案内
https://www.aiwff.com/2025/tickets_access/information/

ウィルあいちへのアクセス
https://www.aiwff.com/2025/tickets_access/accessmap/

公式
Webサイト 
https://www.aiwff.com/2025/

X
https://x.com/aiwff

インタビュアー
井村哲郎

以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。

自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。