次世代の才能を世界へ送り出し、新たな映像技術を提起する。時代とともに発展し続けるSKIPシティ国際Dシネマ映画祭
――2025年で22回目を迎えるSKIPシティ国際Dシネマ映画祭は、内容が大きく変わりましたね。映画祭のコンセプト自体は変更になったのでしょうか?
コンセプトは変わらず「これからの才能を見つけ出す」が主軸ではあります。ただ、映画祭を始めた頃は新しいものだったデジタルシネマが、今はもう一般的なものになっている。開催20回を超えて、やはり見直すべきなのではないかという意見があり、映像作家を発掘することに加えて、デジタルとはどういうものなのか、最新の技術にはどういったものがあるのかをお客様と一緒に探していこう、と考えました。
――コンセプトは変えずに、「Dシネマ」というタイトルにおいてはVRやAIなどの新しいテクノロジーを提示していこう、ということですね。
もともと「次世代映像産業の導入と集積」がテーマでした。デジタルシネマはまだ2003年~2004年当時はそれほど普及していなかった。これを普及させていくことが始まりで、「デジタルDシネマ映画祭」というタイトルになりましたが、今やかなり普及しました。次の新しい「次世代映像産業」を見つけていかなければいけない、と。今回はチャレンジであり、いろいろなものを提供してみる形です。

――海外作品のコンペ部門がなくなり、日本作品だけのコンペになりました。こちらはどのような経緯があったのでしょうか。
今回の運営に取り組むにあたり、国際コンペと国内コンペを両方やるのは難しい状況があり、事務局の体制のどこに注力すべきかと考えました。日本の映像作家さんを発掘し応援していくのが当映画祭の本筋ですから、国内コンペに注力することとなりました。国際コンペがなくなるのはスタッフも大変残念な思いでしたが、苦渋の決断で国内コンペに絞りました。
――大きな決断ですよね。名前に「国際」がありますから。
国際コンペがなくなると、果たしてそれは国際映画祭と呼べるのか?という議論もやはり生まれました。そこで、海外招待作品の部門を設け、海外からゲストの方もお招きして、4作品の上映をすることに。上映作品数は減ってしまいましたが、海外ゲストと、国内の映像作家さんと観客とで交流していただけるようにと考えた上で、3つのプログラムを組みました。
コンペ応募条件は「長編製作の経験が5本まで」「ジャパンプレミア」
――コンペの応募条件は、以前は「長編映画の製作本数が3本以下」「ジャパンプレミア」でしたが、今回も同じですか?
今回は「長編製作の経験が5本まで」の映像作家は応募が可能、としました。短編と長編で、便宜上プログラムでは分けましたが、基本的にはもう短編長編の縛りはなく、15分以上の作品を平等に受け付けました。一次審査員の方にも大変タフな審査になりましたし、映像作家さんにとっても、例えば15分の作品と2時間の作品が同じまな板の上に並ぶので過酷といいますか。タフなコンペになるとは予想したものの応募要件を広げることでもっと多くの方に応募していただきたいと考えました。ジャパンプレミアは必須条件ですね。

――今回は国内作品だけのコンペになりましたが、日本の監督を積極的に発掘し世に出していこうという姿勢が伝わりますね。
自分が担当して感じるのが、応募していただく方々の熱量がすごい、ということです。「SKIPシティへの応募を目標につくりました」と言ってくださる方もいて。ほかにも映画祭はあるけれど、自分はSKIPシティに出したいということで、ここを狙って作品をつくったという方も……。本当に登竜門として認められている映画祭だなと感じます。
できるだけこの映画祭を続け、映像作家さんたちが世に出ていくための場所として続けていけるように、今回のチャレンジで新しい体制をつくれればいいなと思います。さまざまな変更点があり、応募される方々も私達も戸惑いながらやっている部分はあると思うのですが、いい形にできたらと考えています。
――271作品の応募があったとのことですが、それは例年と比べて数は多い方ですか。
今までは、国際コンペと国内コンペとあって国内作品は国際コンペの対象にも含まれていたので、個別に日本映画の本数は公表していないのですが、例年よりは若干増えております。
――今回13作品ノミネートということで、作品の長さも長編、中編、短編といろいろあるようですが、審査は難しかったですか?
難しかったですね。やはり作品の長さによって審査のポイントが変わってくるので、かなり議論を重ねました。上映できるプログラム枠にうまくはまるかも意識しながら選びました。
――最終審査はどんな形で行われるのでしょうか。
最終審査は3名の審査員の方々にお願いしています。審査委員長の石川慶監督、プロデューサーの水野詠子さん、ロッテルダム国際映画祭のプログラマーのクーン・デ・ローイさんに会場でご覧いただき、審査会を経て決定する流れになっています。石川監督も水野さんもカンヌに出品されていて、まさに今世界でご活躍の方々に審査員を引き受けていただけたのはすごく幸運だなと思っています。
――賞は、最優秀作品賞、SKIPシティアワード、観客賞の3つですね。
最優秀作品賞は作品に対する評価であり、SKIPシティアワードは「この監督の次の作品を観たい」と期待する監督に贈られる賞です。毎回、審査員の方にもどちらが上の賞なのかと尋ねられますが、どちらも大切な賞なのです。SKIPシティアワードは今後の制作支援をさせていただく特典があります。
――確か制作支援は、こちらの施設を使わせてもらえるのですよね。
はい、スタジオなどの映像制作支援施設や設備を100時間お使いただける、という特典です。また、以前から続けているのですが、うちのコンペティション作品と、会場であるSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザで若手映像クリエイター支援事業として製作した作品をお付き合いのある映画祭のプログラマーさんに紹介する特典もあります。2024年のノミネート作品『チューリップちゃん』(監督:渡辺咲樹)はご存知ですか?
――その作品はGeneTheaterで配信していますよ!
そうですか!『チューリップちゃん』が2025年のロッテルダム国際映画祭の短編映画のプログラムに選ばれており、そのご縁で2025年ロッテルダム国際映画祭のタイガー・ショート・アワード受賞の短編2作品を、今回SKIPシティで上映させていただくのです。

高さ6mの巨大縦型スクリーンで縦型映画を鑑賞
――今回のさまざまな取り組みの中で面白いと感じたのが、縦長映画の上映です。これは横長のスクリーンに縦型に映すのでしょうか。
これは、縦型にした高さ6mぐらいの大きなスクリーンに映すんですよ。
――面白いですね!
初めての試みなのでどうなるかわからないのですが(笑)。
――これはどのような経緯で上映が決まったのでしょうか?
次の新しい「次世代映像産業」を模索するにあたっていろいろな案が出た中で、縦型がありました。試しに横長スクリーンに縦で映してみたものの、今一つだったんです。それで、巨大な縦型スクリーンを用意して上映することにしました。それから縦型動画を探してみて、我々は映画祭なのだから「縦型映画」がいいのではと考え、面白いと感じた映画作品を選んだ次第です。縦型動画は基本スマホで観るものですよね。でもスクリーンでみんなで観るとどんな体験になるのか、やってみることになりました。
――新しい試みですね。企画展「デジタルネイティブが視る映像のカタチ」のVR(バーチャル・リアリティー)体験、XR(クロスリアリティ)体験も面白そうですが、これはヘッドマウントディスプレイを装着しないと観られないと思うのですが、どんな鑑賞方法になるんでしょうか。
ヘッドセットで鑑賞する方法と、お子さんも観られるようなタッチパネルですね。VRは「旧渋沢邸「中の家(なかんち)」と「深海VR – 海底に降り立つ(特別版)」の2つの作品がヘッドセットで観るものです。XR はXR映画祭「Beyond the Frame Festival」に出品された作品を、ヘッドセットで鑑賞します。
VR、XR、AIが魅せる次世代映像技術のカタチ
――「AI映像のカタチ」は、どんな内容ですか?
株式会社ピラミッドフィルムさんの方と、AIでどんなことができるか相談しました。来場者に楽しんでもらえるようなきっかけとしてAI技術を紹介してみようということで、一つ目が『AI転生ビジネスカードバトル!よろしくデスマッチ!』ですね。名刺と顔写真でカードをつくり、それでカードバトルをするので、お子さんたちにも喜んでもらえるかなと思っています。キャラクター名とか必殺技とかもAIが生成してくれるんです。二つ目は『シネマト倶楽部』で、積み木などで体験者が直感的に組み上げた立体物を、AIで映画のセットのようなものをつくれるんです。
――AIについては、AI生成の映画上映もありますよね。
うちの映画祭でおなじみの串田壮史監督が制作した『ラストドリーム』というAIを活用した映画を、上映できないかと串田監督に2025年の4月ごろ相談したのです。映画祭のコーナーにするためには他に数作品必要なので短期間でどこまでできるかチャレンジしようということになり、2カ月くらいで他の監督さんと4作品制作してくれました。
AI映画は実写でAIでつくると、登場人物がシーンが変わると髪型や服が変わってしまっていたりするので難しく、現段階ではアニメーションが有力ですね。どんなものができたのかは私たちも皆さんと一緒に観る感じです。

――今後、映画づくりもこういう世界になってくるんでしょうか。
どうでしょうね。『ラストドリーム』はかなりクオリティが高かったので、もしかしたら……とも思いますね。
――他には、2025年から始めた新しい取り組みはありますか。
コンペティションにノミネートした監督さんにも、3日間施設を使っていただける支援を始めました。これは新しい取り組みです。
――それはいいですね!自主製作している監督さんの支援になりますね。
今は社会的な状況も厳しくなっている中で、映画をつくっていくのは大変な状況なんだろうな、というのは拝見していて感じるところはあります。それでもやはり、情熱を持ってつくられているんですよね。
だからこそ、うちの映画祭の役割は、商業映画監督を目指す方々の登竜門でありたいと考えています。SKIPシティは、誰かと仕事として映画をつくることができる方々を選出する場所になっているので、それを目指す方々が応募してくださっている実感があります。
そういう映像作家さんを発掘し、業界の方々にこんな才能があると知っていただいて、そこからお仕事や次の作品づくりにつながっていく支援をしたい。それが本当にミッションだと考えています。
――2025年は新しい取り組みが増えたリスタートだと捉えられます。今後、映画祭をこう発展させていきたい、などのお考えは何かありますか?
まずは新しい取り組みにトライして、結果を検証したいですね。その上で来年以降のことを考えていきたいです。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025
日程
2025年7月18日(金)~ 7月26日(土)
上映作品
https://www.skipcity-dcf.jp/2025/films/
上映スケジュール
https://www.skipcity-dcf.jp/2025/schedule.html
アクセス
https://www.skipcity-dcf.jp/2025/access.html
会場マップ
https://www.skipcity-dcf.jp/2025/location.html
公式
Webサイト
https://www.skipcity-dcf.jp/2025/
井村哲郎
以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。
自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点と切り口での質問を得意とする。